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Scene.21
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真夜中のトロイカ、中央区画地下街。
ネオンの灯が煌々と輝く、地下の星空の中に佇む娼館からは、騒々しく銃声が響いていた。
鷲鼻の一家が東部の組織を吸収し、巨大組織としてトロイカの第一線に躍り出て以降、街の均衡は一気に崩れ去った。それまで、箇々の縄張りを守ることに直向きだった彼らは、遊技場を奪い合うことに執着し始めたのだ。この街では、毎日のように何処かが戦場と化している。だからこそ、彼女のような人間が求められるのだ。
そして、今宵の鉛弾飛び交う血生臭い舞台の上、真っ白なコートの少女が一人。彼女の手では、ショッキングピンクに塗られたトンプソンとシュマイザーが激しく吠えている。
弾丸がランプシェードを弾いた。
「ほらほらァ! どんどんいくよー!」
「イルゼ姐さん飛ばしすぎです! もう無理っす! マジやべっすよ!」
「ああん? 着いて来なきゃ死んじゃうぞン? 攻撃は最大の防御なりって言うでしょ?」
悲鳴と銃声が混ざり合う、大混乱の真っ只中で、彼らは制圧を急いでいた。立ち込める硝煙が鼻先を掠め、鉛弾が頭の横を通り過ぎていく。そんな彼らの前に物騒なものが現れた。“それ”を構えた男が白い歯を見せて笑う。逃げろ、と誰かが叫んだ。
黒光りする長い銃身を二脚で支えられた“それ”は彼らに向けて容赦なく、五十口径の弾丸を浴びせる。
雨の様に。
重機関銃。戦場に於いて、広範囲を制圧する為に設計されたその火器の威力はイングラムのようなサブマシンガンの比ではない。瞬く間に吐き出される大量の銃弾は薄い壁にチーズみたく穴を開け、肉を引き裂き、骨を砕いてゆく。不運にも、彼らはこの狭い廊下で、ジョン・ブローニングの最高傑作と遭遇した。
咄嗟にマッド・バニーは左側の部屋へと、ドアを蹴破って飛び込んだ。
逃げ遅れた男がミンチにされる。
「ちょっと、あんなのがあるなんて聞いてねェーぜ?」
「軍から流れたのかと。準備のいい奴らだぜ」
「流石は鷲鼻ってとこ?」
「ど、どうにかしてくださいよぉ」
「銃身交換か、再装填に持ち込む?」
「そんな戦力ねーよ」
「だ、よ、ね! よーし、テメーら覚悟決めな。あれはただのマシンガンだ。別に毒ガスでも原子爆弾でもねェーよ」
「は? ちょ、姐さん!?」
カール・グスタフ無反動砲を構える。それを目の前の壁に向かって少女は放った。弾頭は轟音と共に次々と壁を破壊してゆく。何人かにそこを通って機関銃の側面に回って攻撃するように指示すると、白い兎は弾倉を交換し、決戦場へと飛び出した。同時に銃口が火を吹いた。
銃声の奏でる二重奏。
両者の銃弾は空を貫いた。壁に弾痕の軌跡が描かれる。狂った兎は壁を蹴って跳びはねる。そんな彼女を機関銃の銃身が追いかける。相手は目を見開いただろう。耳を劈くような沈黙の中、壁を走って彼らに迫る少女は、確かに狂った様に笑っていた。弾丸を吐き出し続けるショッピングの銃口。その凶弾は次々と黒いスーツの兵隊たちを、彼らの悲鳴と共に射抜いていく。白い壁に血飛沫が飛んだ。
そうして、無邪気に。
彼女は死体を造り続けるのだった。
「姐さん、今日の報酬です。少ないですけど……。てか、本当にそれでいいんですか?」
「気にすんなって。食事代くらいになればいーよ。じゃネ」
「はーい。お気をつけてー!」
「おー、お前らも死ぬなよー」
重機関銃を担いで、少女は地下街の夜空へと溶けてゆく。
氷の都トロイカ。
日々マフィア同士の抗争の絶えないこの街では武器が金より価値を持つ。時にそれは熱烈なコレクターを生むのだった。
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