20st Century Riot

Scene.22

 20st Century Riot


「待てコラァー!」

「万引きくらいいーじゃん! 人殺しよりは!」

「よくなーい! 万引きも立派な犯罪です!」

 トロイカ西区画、雪の吹き込む路地裏。

 白い息を吐いて、白い雪を巻き上げて、一人の少女と一人の警官が人気のない場所を走り抜ける。雨に溶けて固まった雪を薄く覆った今朝のパウダースノー。真っ白な地面に浮かび上がる雪の塊は、まるでミニチュアの大陸図めいていた。

 それは踏む度に、ガラス細工みたな音を立てて割れる。

 少女の薄汚れた茶色いコートが、その白い世界にはためいていた。

「しつこいってば! モンテカルロ!」

「ジャンカルロだ!」

「大して変わんないよ、バカ!」

 その時、凍った石畳に足を滑らせて、派手に少女が転んだ。大丈夫か、と声をかけて警官が慌てて駆け寄る。

 少女は彼に銃口を向けた。

 震える手でコートの内側から抜いたエンフィールド・リボルバーを構える少女の、黒いスカートから覗く白い左膝には、赤い血が滲んでいた。涙で滲んだ瞳が、彼女にゆっくりと近づく制服警官を睨んでいる。

 張り詰めた冷気を纏う空の下、痛々しく。寒々しく。

 溜め息ひとつ。

 ジャンカルロは彼女の傍にしゃがむと、ポケットから取り出したハンカチを少女の膝に巻き始めた。

「痛ッ!」

「覚えときな、メリッサ。シングルアクションのリボルバーは撃鉄を起こさなきゃ撃てない」

「そ、そんなこと……」

「知ってたか?」

 彼女は首を横に振った。

「……ねえ、ジャンは人を撃ったことあるの?」

「無いよ」

「そうなんだ。ヘタレだね」

「何だと!?」

「でも、あたしと同じだね」

「……ほら、行くぞ。車ん中で話そう。途中まで送るから。ここじゃ寒い」

「痛たっ……。どこ行っても寒いよ。この街は」

「そうだな」

 ゆっくりと立ち上がる少女に背を向けて、彼は空を見上げた。

 ふわり、と空から落ちた雪を彼は手の平で受け止め、その手を制服のポケットに突っ込んだ。

「お前も自分のに入れてみろよ。あったかいぜ? 雪だって溶ける」


 氷の都トロイカ。

 年間を通して凶悪犯罪の絶えないこの街では、小さな犯罪は見過ごされることが多い。しかし、その中にこそ、懸命に生きようとする街の姿があるのかもしれない。

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