I have an Impure dream
Scene.04
I have an Impure dream
幼い頃、父親は四六時中ずっと忙しそうにしていた。彼は、父親が気まぐれで娼婦に産ませた子供だったから、母親なんてものを知らない。父親は彼に無関心で、彼へ愛情を注いだのは、父親の側近と、父親のお気に入りのコールガールだった。幼い彼を初めて犯したのは彼を産んだ娼婦だ。その行為が父親の耳に入って、彼女は殺された。そんな異様な 世界の中で彼は、直向きに孤独とチョコレートを啄んでいた。
いつからだろうか、父親の姿が滑稽な道化師に見え始めたのは。観客のいない無人の劇場の、暗いステージの上で踊る片足立ちのピエロ。いつしか、それが彼の中の父親のイメージとなっていった。
自分ならもっと上手くやれる。窓の外、延々と降る雪を眺めて、常々そう思ったものだ。
日々、澄んだブルーの瞳の内側で彼は自らの夢を輝かせていた。
「メリークリスマス、パパ」
彼が十八の時。そう言って息子は、銃のトリガーを引いたと謂う。
雪降る聖夜、息子から父親への初めてのプレゼントは一発の鉛弾だった。皮肉なことに彼にそのラドムと呼ばれるポーランド製のオートマチックを買い与えたのは、彼の父親を愛して殺されたあの娼婦だ。彼女は彼の母親でもあった。
この椅子に座って、初めて理解した。
マフィアのボスは忙しい。座っている暇なんて無いくらいだ。しかし、ピエロにはならない。父親の二の舞を踊らされるつもりはなかった。
父親にあって、彼に足りなかったのは、人を信頼する心だ。
だから、彼は上手くやれている。
今日も彼の前には両手を縛られ、口を塞がれた男が冷汗を垂らして跪づいていた。彼がボスになることを良く思っていない派閥のメンバーだ。新しいボスの暗殺を企てたが、決行前に発覚して仕舞った。これで彼も終わりだろう。裏切り者は、徹底的に排除しなければならない。これも、父親から死を以て教えられた教訓だ。曰く、一度捕まえた奴は絶対に逃がすな。 今、両手を縛られた男の瞳には、絶望が映っている。
その男に、冷たいブルーの瞳と銃口を向ける。
死神は、彼の背後で笑うだろう。
「長い物には巻かれろ。それがこの街のルールだろう? 君は選択を間違えた。これが教訓だ」
ラドムから放たれた銃弾は、男の頭部を吹き飛ばした。
砕けたスイカの様に、それは白い大理石の床に散らばる。紅と白のコントラスト。その中心で頭蓋骨の中身を失った身体は、釣られた直後の魚の様に跳ねている。
それを見て、彼は笑った。
こんなに楽しい人生は辞められない。
彼は支配者であることに、喜びを覚えている。
「あの世で親父によろしく」
氷の都トロイカ。
年間を通して雪と氷に閉ざされたこの街では、政府の秩序は行き届いていない。結果的に秩序をつくっているのは恐怖と暴力による支配なのだった。
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