予言の国 ルナント
夜も明け、昨夜見つけた地図のことをみんなに話した。俺の予想ではココと姫あたりが大騒ぎするはずだったのだが。
「これはすごい。未開拓の地図ですか」
「お父様が見たら何がなんでも手に入れようとするでしょうね……」
意外にも冷静な二人だった。
「いくら地図を手に入れても、まずはあちら側へ行かないと話になりませんからね」
「そうねー。とりあえず、目の前の問題はそこよね。どこから進むか……」
姫の様子に鎧男が顔を真っ青にしてブツブツと呟いている。
「やはり姫さまは未開拓地を目指して……危険すぎる……」
竜の背から見えた国まではもう少しだった。今日中には着くだろうとのことなので今から楽しみだ。
「それにしてもこれ……」
昨晩、宝の地図を見つけた後、最後にリュックから出てきたのが首から下げている金の笛だった。
「すごい物なんだろうけど……吹く気になれないな」
とんでもないことが起こりそうな気がして逆に怖い。
「よし、みんな行こうか!」
日も暮れはじめた頃、それはようやく姿を見せた。
「やった……」
青い屋根の巨大な城がすぐそこに見えた。おそらくあれが俺たちの目指していた所だ。
「ほう……あれが予言の国、ルナントですか……」
「予言の国?」
俺の質問にココは「行けばわかりますよ」 と言って再び僧侶の背中で寝息を立てはじめた。妙に大人びてるところがあるがココはまだ子供だ。日が沈めば眠くもなるだろう……って早すぎないか?
「俺もこの国に来るのは初めてだな。予言の国……ワクワクするな!」
どんな国だろう……と考えているうちに大きな門の前に着いた。もう日は沈みかけ、辺りは薄暗く、断られやしないかと心配したが門番は快く中へ通してくれた。良いのやら悪いのやらわからないが、ここは感謝しておく。
中へ入るとまず、さっき遠くから見えた城が町の奥に堂々とそびえていた。どうやらここは城下町のようだ。他の町を見ていないのでわからないが、かなりの規模に見える。
「やっと着いた……ってすごく騒がしい町ね」
姫が疲れた様子で言った。たしかにその通りでもう日も暮れているというのに街は明るく、人々が忙しなく動いている。
「そういえばさっき門番が、ちょうどいいときに来たとか言ってたな」
何かのイベント前だろうか。たしかに、言われてみれば忙しそうにはしているが、その中に嫌な顔をしているものは一人もいない。むしろ楽しそうに見える。
「とりあえず宿を探そう」
宿はすぐに見つかった。恰幅の良い気さくな女性の宿だった。
「疲れたでしょう! 明日に備えて、今日はゆっくり休んでね」
ちょうど良い機会だったので気になることをいくつか聞いてみることにした。
「夜なのにみんな元気そうですね」
「そりゃあ、明日は
「星守祭?」
俺は聞き馴染みのない単語を繰り返した。
「そう! 初めてなの? あなたたちとても幸運ねぇ! ちょっと待って」
そう言うと女性はステップを踏むように軽い足取りで奥の部屋に飛び込んでいった。
少しすると白い札のようなものを持ってきた。
「これはね
みんな見たこともない物を不思議そうにペタペタ触っている大きさは七夕の短冊より少し大きいくらい。材質はツルツルとして肌触りも良く、今の段階だとかなり綺麗な石という感じだ。
「明後日の朝、これを日の出と同時に全員で綿雲を使って空へ飛ばすの。それが星守祭。だから、みんな気合い入ってるわ」
これを空へ飛ばす。綿雲というのが風船のように浮いていくのだろうか。でも、予言の国っぽくない祭だな。
「ここには願い事を書いたりしないんですか?」
俺の質問に女性はもう一つ声のキーを上げた。
「おかしなこと言うのね。書いたりしないわ。込めるの、予言を」
当たり前だが七夕とは違うらしい。しかし、予言を込めるっていうのはどういうことだろう。
「自分の未来を予言するの。それを明日一日で星源札に念じて、込める」
「自分の未来を予言する……」
女性の言葉を反復しながら星源肌を見つめる。これに自分の未来を……。
「じゃあ私は……」
「ダメよ。予言を口にしちゃ」
姫さまの言葉を女性が遮る。
「予言はね、自分の中だけに留めておく決まりなの。もし、口にしたらそれはもうあなたの未来じゃなくなるから」
姫さまは口を両手で押さえて首だけで頷いた。
向こうでも似たような文化があったなぁ。まぁ、こういう祭りがキッチリしてるのは最初だけで、そのうち意味とかどうでもよくなって街の人たちがはしゃぐ口実になるってのが多いけど。この星守祭っていうのもそうなんだろうか。
「予言はとにかくはちゃめちゃ希望に満ちたものにするのよ。これ以上ないくらい輝くものに」
「でもそれじゃ予言にならないんじゃ……」
女性は快活に笑うと胸を張って言った。
「そういう祭りなのよ! これは予言を当てる祭りじゃなくて幸せになる祭りだから!」
女性の言葉には妙な説得力があった。言葉の意味をいちいち理解しているわけではないがそうなんだろうなと納得してしまった。
「でもいいのか? 人数分もらって」
「いいのよぉ! 私はあなたたちみたいな旅をしている人と話すのが楽しくて
部屋がある二階へ行くと女性陣と別れた。部屋は綺麗に整頓してあって、見慣れたベッドがちょうど四人分あった。なんだか修学旅行みたいな気分だった。
きちんとした寝床は随分と久しぶりな気がする。俺は吸い込まれるようにしてベッドに横になると、すぐに意識を失った。
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