第六限 風吹けば君 ~scarlet cross~
第28話 オーダーメイドの喧騒
週明け。
うちのクラスの話題は、辺見の彼氏についてのそれで持ちきりだった。
ただでさえ騒がしい教室が、今日は群を抜いて姦しい。
情報化社会とはよく言ったもので、辺見があの日の写真をSNSに投稿したら、次の登校日には、すぐさまこの有様だ。
かっこいい、イケメン、美形、素敵、うらやましい、クール、でもちょっとかわいいかも、他校の人? 年上? いいなー、等々……。そんなような声が、辺見を取り囲む集団からわらわら聞こえてくる。
彼女はその応対で、てんやわんといったところ。
それを見て、黒羽はあまりの反響に自席で頭を抱えている。
もちろん、あの写真はだいぶ加工してからアップされているし、そもそもが相当に素材に手を加えての男装なので、あれが黒羽だと気付ける人間はいないだろうが、クラス中の女子から自分の男装姿をああも褒めちぎられるというのは、なかなかどうして複雑な気持ちなのだろう。
しかし、なにはともあれ、作戦は成功した。
ここまで辺見の彼氏の存在が周知され、しかもそれが超絶なイケメンとなれば、さすがの相田も諦めざるを得ないだろう。
俺はこれでようやく先生のおっぱいが手に入ると確信し、次の授業が始まるまで、一人寂しく寝たふりを決め込むことにした。
しかし――。
「だーめ☆」
「なぜですかアァッッ!!!」
第二生徒指導室に、ご褒美を拒絶された俺の魂の叫びが響き渡る。
けれども、対面する三鷹先生はそれを完全に無視して、溜息をついた。
「いやー、やってくれたねー、勝利ぃ? 紫蘭?」
義憤に震える俺とおとぼけ顔の四鬼条を呆れたような顔で見渡して、先生は言う。
「まさかセンセーも、そんな形で解決しちゃうとは思ってなかったわー」
バッドルート行きの選択肢ばかり選んできたような負け組の二人に事件解決を任せているのだから、先生の想定通りのシナリオにならなかったのはある意味自明の理だったような気もするのだが……。
「でもね、それじゃあさー。緋凪の問題を解決しただけでー、健人の問題は解決できてないんだよねー」
先生は、なんだかよくわからない言葉で俺を叱咤する。
「だから、この問題はまだ終わってないよ。それに、センセー言ったよね? わかりあおうとしなって。勝利はまだ、それをしてないでしょ? これはゲームでも戦争でもないの。敵を遠ざけたら、はいオシマイ――じゃー、ないんだよ?」
その四日後。俺は先生のその言葉の意味を理解させられた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます