第8話 問題児ふたり

「で、なんで俺はこの不思議ちゃんと二人きりにさせられてたんですかね?」

 開口一番、俺は言うべきことを言ってみる。

 すると三鷹先生はにこやかに。

「やー、センセーさ、勝利の人格矯正についてー、きのうね、あのアトー、夜しか寝れないくらい真剣にずっと考えたワケよ」

「え、それ、普通に寝てね?」

「なにいってんですかー、かつまたくーん? わたしたちわー、夜行性でしょー?」

「いや、授業中いつも寝てるおまえはそうかもしれんが、みんなはふつう夜寝てるから。それと勝手に俺を短パンおじさんにすんな」

 てか勝俣さんレベルの実力と話術があったら、今頃、こんな灰色の生活してねえし。

「んでさー、こう思ったワケ。勝利は女子に飢えている。なら、それを与えてやればいいんじゃね? って!」

 先生の話は俺が面白くもないツッコミ入れてる間にも続いてたらしい。

「先生、知ってますか? 貧困者の援助として物資を与えるだけでは意味がないってこと。自らの手で稼ぐ手段を教えなくちゃ結局その人の助けにはならないんだってことを」

 それは例えるなら、風俗に行って風俗のお姉さんに一発やらせてもらったとしても、別に急に彼女が出来たりしないのと大体同じ真理(もちろん実体験では、ないです)。

「急に現実的!? 勝利なら今の文言だけで「やったーセンセー大好き、結婚しよう!」ってゆーかなって思ってたのに……」

「いや、あんたは生徒をなんだと思ってるんだ。……好き、結婚しよう」

「ダメです☆」

 求婚されるとわかってて発言してその通りになったらダメですって、そんな、先生、あんた、魔性の女かよ。はー騙されたい。

 三鷹先生、俺の峰不二子になってくれ!(意味不明)

「はあい、紫蘭もー、センセーに養ってもらいたいんですけどー」

「結婚はべつに金銭援助のための手続きじゃねーぞ?☆」

「えー、でも~、かちわりくんの将来のゆめはぁ、ATMでしょー?」

「意味分かんねえし! てか、かちわりってなんだよ! むしろ今俺の心はお前への怒りで沸々と燃えてるよ!」

「あははー、カチカチ山だね~」

「なにちょっとうまいこと言ってんの? 普通に悔しいんだけど……!」

 俺がちょっと敗北感を覚えながらそう言うと、

「…………ふっ」

 四鬼条は、本当にわずかだけ、その綺麗な双眸を崩した。

 けれど、そのわずかなゆがみが、今だけはダイヤモンドよりも輝かしくて。

 そんな風にして俺は、少しだけ彼女の笑顔に見蕩れていた。

 それを見て三鷹先生は微笑む。

「うんうん、どうやらしっかりと仲良くなってるみたい。おっけおっけーよかったよかった。センセーの狙い通り! きらーん!」

「せんせー、友達料ってー、どうやって徴収すればいいんですかあ?」

「なあ、先生。これのどこが仲良くなってるんですか? 俺、気になります……」

 たぶん冗談で言ってるんだろうけど、数秒前まで見蕩れてた女の子にこんなこと言われるのはちょっとだけ心にきます……。

「あはっ、やっぱりー、紫蘭はおもしろいねー」

「わたしー、もう帰りたいんですけどー」

「はあ……俺ももう帰っていいですか?」

 けだるげな四鬼条と傷心な俺のダウナーな言葉が、先生になだれかかる。

「ちゅちょちょ、まってまって! まだセンセー、言いたいことの半分も言ってないから」

「じゃあ残りの半分はー、わたしが言っておくのでー、せんせーはー、もお帰ってもおっけーですよー?」

「こらっ、紫蘭がそういってセンセーのことおちょくるから、話が進まないんだよ?」

「……ごめんなさーい」

 へえ……。

 素直に謝ったりもするのかー、ちょっと意外。

 まあ、その声に誠意なんてもんはまるでなかったのは言うまでもないけれど。

 しかし先生は、そんな何を考えているのかもよくわからない手のかかる生徒にも、根気よく。

「とまー、そゆーわけでさ、ちょっち、性格に難アリなのはー、勝利だけじゃなくて、紫蘭もなワケ。ちゃけば二人トモ、クラスで一番浮いている二人じゃん?」

「うーん、まあ、そうっすね」

 ちょっとぶっちゃけ過ぎな気がせんでもないけども。

「へえー。沈んでなくてよかったねー、かきぴー?」

 この子は何を言われてもマイペースだなあ、おい。

「はあ? ああ、ま、柿の種はけっこうすきだからいいや。許す」

「ありがと~、かっつー」

「いや、定着しないのかよ!」

 なぜ俺はこんな出来の悪い漫才みたいなやりとりをしなければならんのか。無視すればいいんだろうけど、なんだか彼女の不可思議な吸引力のようなものに魅入られてしまって、それも出来ないし。

「ねー、ふたりともー? センセーの話ー、そんなにつまんない?」

 そして、そんな俺達のやりとりに嫉妬したのか(妄言)、先生が悲しそうな声でそうぶっこんできた。

 否定せねば!

「校長の話の五千兆倍面白いです!」

「きいたことないんでー、わかんないですねー」

 しかし、俺のフォローもむなしく、相変わらずの天然ちゃん(?)がめちゃくちゃなことを言い出したので、結局先生は一人むくれて。

「はあ……。まー、いーわ。一筋縄でいかないからこそ、二人のことがセンセーは好きなんだし。じゃ、続き話すよ」

 そんな風に切り出すと、俺達がここに集められた理由を語り始めた。

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