第3話 年の差婚? 知ったことか!

「そんでー、なんで勝利はそんなにボロボロになってるのかなー?」

 昨日の続きで、またも放課後に第二生徒指導室へ呼び出された俺は、またもギャル教師の三鷹先生に尋問されていた。

「いやー、所謂いじめってやつですかねー」

「軽っ! 困ってるなら相談乗るからね!?」

 結構真剣な面持ちだった先生も、俺のあっけらかんとした態度に毒気を抜かれたらしい。

「んー、もう慣れてきたというか、いじめっつってもこの学校のはそんな自殺したりする程ひどいのでもないし、元はといえば自分で蒔いた種だし……」

 実際問題、俺はこのことに対しそこまで困ってないわけで、余計なお世話は勘弁願いたいのだが……。

 生徒間のいざこざに、なまじっか教師が介入すると大抵ろくでもないことになるし。なんかしらの妙なしこりが残って「はい解決」となるのが殆どだ。

 けれど――。

「それでもね。勝利が傷つくのを見てるとセンセーもつらいの。だからさー、ちゃんとさ、解決しよ? そのためならセンセー、なんでもするから」

 そう言って俺の目をしっかりと見て、両手を圧倒的母性でもって握りしめてくれる三鷹先生。こんなマジモンの生徒思いの先生がいたという事実に、俺は感動してしまう。目と目を合わせているからわかる、この人は本気で俺のことを想ってくれている。

 その真摯な想いが、指先の体温から、温かな眼差しから、伝わってくるのだ。

 彼女は、一年の頃のただ仕事で俺を叱っていたような教師陣とは違う。心から子供のことを考えてくれている。なにしろ、現に彼女はこうして俺のために割かなくてもいい時間を割いてくれているのだ。誰に言われるでもなく。女神かよ。

 うう、なんて理想的な先生なんだ! すき!

 なんだろう、まだこの人が担任になって一ヶ月もたってないけど、俺はガチで先生のことが好きになってしまったかもしれない。

 だってずるじゃん。俺は実体験としてギャルは怖いということを知っているのに、この先生はギャルなのに優しいのだ。まるで、フィクション世界のギャルがごとく。例えば、某アイドルゲームのカリスマギャルみたいに。

 しかも、ここからが特に重要なのだが――。

 かわいくてH。谷間とヒップがやばい。下品な話、見てるだけで、その……。

 と、とにかく! この人を好きにならない奴は、不能! 断定出来る。間違いない。

 なので、俺は、極めて健全な男子高校生たる灰佐勝利その人は、さっき三鷹先生が発した「なんでも」という魔法の言葉に、無限の広がりを感じてしまっていた。

「は、え!? マジっすか!?」

「うんー。マジマジー。センセー、ネッケツ教師だからー」

「じゃ、じゃあ先生、お願いがあるんですけど!」

 そうして俺は、目の前の黒ギャルに、この学校に来て何度目かも分からぬ告白を、する。

「好きです! 結婚してください!!!」

「え、えええっ!? いや、アタシ、彼ピいるし……」

「お願いしますうぅぅぅ! なんでもするっていったじゃないですかぁぁぁ!!」

「調子にー、のるなっ!」

「痛っ!」

 なんでもの言質を盾に、諦めず呻き続けていると、三鷹先生から格別のデコピンをくらった。

「あのねえ、勝利? そういうところがみんなから、嫌われる遠因になってるんじゃないの? ちょっと君は欲求に忠実過ぎます。センセーはそういうところ……、好きだけど。たぶん、てか絶対、君達くらいの歳の女の子は……、引いちゃってるじゃん?」

「そうですね。いじめられてる原因は完全にそれですね」

「じゃあさ、治そ?」

「うーん、これでもだいぶ懲りたつもりなんですけど」

 というか、もう極限まで嫌われてしまっているので、今更取り繕う気も起きないのである。なんか開き直りで悟りの境地に入った的な?

「まー確かに、「一年の時の灰佐は酷かった、死ねとさえ思った」ってとある先生がいってたっけ……。じゃ、改善はしてるワケかー……」

 おい、なんかいま先生が生徒に言っちゃいけない台詞混じってなかった? 一年の時の俺を嫌ってるってことは恐らく当時の担任の時田だな? あのジジイ……、教育委員会とPTAに訴えてやろうか……?

「ま、いっか。じゃ、勝利の人格矯正については明日話します」

 え、なにそれ、俺、明日も呼び出しなの? もう完全に不良じゃん。

「で、今度こそ聞くケド、なんで君、ボロボロなワケ?」

 結局、彼女はそれを聞いてきた。ギャルメイクなのに、不思議と清純な目で。

 別にわざわざ人に聞かせるようことでもないし、どうにかはぐらかそうとしていたのだけど、そうは問屋が卸さないらしい。

 それでも一応、最後の抵抗を試みる。

「話すと長くなっちゃうんですが……、俺、あいにく今日はお家で帰りを今か今かと待っているかわいいかわいい妹がいて……」

「先程ご家庭にお電話したら、「クソ兄の腐った桃色の性根をどうぞ心ゆくまで叩き直しておいてください」と、妹さんからお願いされました。よってー、勝利がぜーんぶ話してくれるまでー、センセーは君をお家に帰しま、せん! センセーは本気だぞー?」

「がっでむ。マジかよ……」

 もしもし、お前か? 俺だ。どうやらこの世界線ではどうあがこうと、彼女の追求からは逃れられないらしい。ああ、わかっている。それでも足掻けと言うのだろう。ア・キスイダ・ミッターカ。

「マジマジー」

 口調こそ軽いが、逃がさないという断固たる意思を、ひしひしと先生から感じる。

 しかし、それで諦めるようなこの俺ではない。

「ということは、妹の認可はとったということ。そして我が家で最も発言権が強いのは、妹。つまり、先生。あなたと俺を阻む障害はもう何一つありません! 結婚しましょう!」

「ハーイ、じゃあまずはそういうふざけた口をきけなくなるようにしてあげちゃうねー」

 彼女はそう言うと、あれよあれよという間に俺を組み敷き、関節技をキメてしまった。

 ええ、いや、この人、昨日のアレでまだ懲りてないの?

 偽の噂が流れていることをいち早く察知して、デマの拡散を防ごうとホームルームは勿論、それ以外でも尽力してくれてたっぽいのを知って、また短絡的に惚れそうになってたのに! その日の内にこれじゃあ、また変な噂流されんぞ?!

 まあこんな部屋になんて誰も近寄らないだろうから、たぶん大丈夫だとは思うけど……。

 てか、そんなことより!

 痛え!

 三鷹先生、アンタ、俺の体がボロボロなのを心配してましたよね?

 その数秒後にその生徒に暴力振るうってどういうことやねん?!

 めちゃくちゃ過ぎひん?

「あっ……、が、え。ちょ、ぜんぜ、いだい……。ごれ、体罰……では…………?」

「教育だゾ☆」

 くそっ! 

 教育は教育でも性教育がいい!!!

 そう口走ったが最後、俺の痛覚はかつてない損傷を負ったのだった。

 でも……、おっぱいが当たっていたのでOKです!!!




 さて、では、なぜ俺の服が所々破け、顔とかあちこち絆創膏のお世話になっているかと言うと――。

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