第2話 俺なんかに優しくしてくれるかわいい女の子がいるわけないじゃん
翌日。
学校では、二年の灰佐勝利が倫理教諭の三鷹沙夜をレイプしようとした、という根も葉もない(小枝くらいならあるかもしれない)噂が流れだした――ようで。
はー、勘弁してくれよ。
それさー、広まるにしても、事実逆やん……。
PUBGが荒野行動のパクリだって言い張るくらい滅茶苦茶ですよ……?
けれど、悲しいかな、人間というのは信じたいものを信じるもの。
真実などに興味はないのである。
そして当然、彼等が信じたいのは百%、この高校一、生徒人気がある三鷹先生だろう。
対する俺は、諸事情により学徒からの好感度は最悪。しかも特に、噂を流す主媒体となる女生徒達に嫌われているときた。
もうね、病むよねこんなん。
彼女等が噂を流すとして、誰を悪者にしたいか、なんて、一目瞭然としか言い様がない。
その結果がこれですよ。
『死ね』『キモい』『シコリザル』『レイパー』『強姦魔』『色情狂』……etc。
俺は自分の机に描かれた無数の心無い落書きに辟易しながら、なくなった教科書がどこに隠されているだろうか……、なんてことに思考を巡らす。
そんな時だった。
「これー、おちてましたよー」
ゆったりとどこか間の抜けた声がして、ぱたっと机に薄汚れた教科書が置かれたのは。
顔を上げると、そこには、同じクラスの……紫髪の……、えーと、誰だっけ。
「…………?」
とりあえず、同じクラスのかわいいんだけどどこか陰のある独特な子が立っていた。
「ありがとう……っ!」
久々に善意の声を女子からかけられた喜びから、俺が笑顔でそう言うと――。
「……。」
彼女は無言のまま後ろへ振り返り、そのまま教室を出ていった。
優しいんだか優しくないんだか、よくわからん子だ。
見た目通りの不思議ちゃんなのかもしれない。
だって、いじめらっれ子に声をかけ、あまつさえ、いじめっ子が隠したのであろう教科書を手渡しに来たのだ。それがどういう結果をもたらすか、皆さんはおわかりだろう?
そんなことをすれば、次にいじめられるのは彼女だ。そんなことも鑑みずに、いじめられっ子を助けてくれるような人間は、よほど正義感が強いか、そういう空気に疎い不思議ちゃんくらいなものである。
そして彼女はどう考えても後者。その奇抜な見た目はとても前者のような人種だと思えるようなものではないし、実際彼女は遅刻欠席早退サボりの常習犯だった気がする。
だから彼女はきっと、いじめがどうこうとか、道徳がどうのとかではなく、単にどこかで教科書が落ちているのを見かけて、たまたま拾ってきてくれただけだろう。気まぐれに。
そういうことだ。おそらくは。
故に、決して思ってはならないのだ。もしかしたら、彼女は俺に気があるのかもしれない、なんて血迷ったことは。
で、そういう蒙昧をこじらせると、今の俺みたいになる。
告白した女の子からコンパスの針で狙われ続ける様な赤き青春の日々が待ってるぞ!
そして段々、どこぞの殺し屋みたいに誰かが背後に立つと反射的に反応してしまうようになったりとかね。なにせこっちは命懸けだからね、仕方ないね。
みんなは、そうならないように、気を付けよう!
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