勝者の青春だって、敗者のラブコメ足り得ない

ふみのあや

第一限 青春同好会結成に際して ~May day~

第1話 エッチでギャルな先生は好きですか? はい、大好きです!

「勝利はさー、なんで呼び出されたかー、わかってるぅ?」

 放課後、都立富士見ヶ崎高校の、人気のないとある空き教室にて。

 俺は目の前のイケイケなギャルから、そんなセリフで問い詰められていた。

 彼女の名前は三鷹沙夜みたかさや

 ピンクの髪をおさげの位置でツインテにしており、どこの日サロで焼いたのかしらんが、肌は褐色。なんともまあ、パーペキにギャルだ。

 しかもそれがケバくなく、抜群にかわいいんだから、男子からも大人気(それにエロいしね。なんてったて巨乳だし)。無論、俺も好き。

 だから、言ってしまった。

「え、告白ですか?」

「オ・マ・エ・は・バ・カ・かー!」

「痛っ!」

 俺の頭頂部をチョップが襲った。

 声こそ可愛らしかったが、威力はなかなかのものである。

「あのねえ、センセーには大事な彼ピッピがいるって、いつも言ってるでしょ?」

 三鷹沙夜はそう言って、その身に纏った様々なギャルギャルしい装飾の中で唯一のギャルらしくない装備である白衣を抱きしめるよう腕組みをし、むくれた。

 そう、彼女はそのちゃらけた外見からは凡そ想像がつかないが、この学校の教師なのである。

 ついでに言うなら、二年D組に籍を置くこの俺、灰佐勝利(はいさしょうり)の担任。

「それ、聞くたびに思うんすけど、だったらいい加減結婚した方がいいのでは?」

 だってこのギャル先生、この学校に少なくとも五年以上前からいるらしいし……。

「ナニ言ってるのかなー? センセーの年齢じゃー、結婚するには……、まだ早くね?」

「ちょっとよくわからないです」

「だってさー、そんな、自分からそんなこと言うとかさー、ねー。ちょっと、あの、オモイとか思われんじゃん? そういうのはさー、ちょっとさー」

「あの、すいません。彼女いない歴=年齢の俺にそんな話されても困るんですけど。というか、本当に先生のことに真剣なら重いなんて思わないでしょ」

「そうかなー。でもさー、そうとも限んないじゃん? このままの関係が二人にとっては一番幸せかもしれないしー。だってさー、勝利、結婚がなんて言われてるか知ってる?」

「人生の墓場?」

「そー、それそれー。墓場とかかなしーよー、テンサゲだしー。……あっでも、ゆーくんと一緒のお墓に入れるならそれもアリかも! 勝利もそう思う???」

「やー俺は美人と結婚できるならなんでもいいですけどねー」

 心底どうでもいい。

 なぜ、俺好みの外見をした人がずっと自分の彼氏との実質惚気話みたいなことをしているのを聞き続けなければならんのか。これは拷問なのか。

 だって正直な話、今俺が聞きたいのはあなたが彼氏と別れたとか喧嘩したとか、そういう類のお話ですよ?(ゲス顔)

 そして日本人は基本、閉鎖的島国の民、即ち陰の者なので、恋バナといえば絶対、9割9部9厘そっちを期待するはずだ。だから別に、破談を望む俺が格段クズであるとか、そういうわけではないことにもご理解いただきたい。

「なになにー、それー? それはセンセーが美人だってことかー?? このこのー、勝利―、ナチュラルに口説いてくるじゃーん」

 そうだよ!(半ギレ)

 てか、アンタ、彼氏持ちの癖にそんな気安くボディタッチすんなよな……。

 軽率にこちらの肩を叩いて嬉しそうに笑う三鷹先生に対し、内心死ぬ程ドキドキしながらも、そう毒づいてしまう。というか、そうでもしなけりゃやってられん。

 だって、そうしないと惚れちゃうし。普通にこの人、数多といる同学年の女子なんかよりかわいいし。なんかいい匂いとかもするし。おっぱい、大きいし……。露出もすごいし。谷間とか、特に……。

 最初の頃は「その歳でそのカッコって、きっつ……」とか、思ってたりもしたんだけど。

 なんかさ、思ったよね。

 かわいければ、なんでもよくね? って。

 似合ってるからいいんだよ! 以上! 閉廷! おわり! NHK!

「でも、ゴメンねー? センセーさー、マジBIG LOVEな彼ピッピいるからー」

「あーはい、耳タコで聞いてますそれは。知ってますから!」

 はー。わかるか、この気持ちが?

 滅茶苦茶かわいい先生が、分け隔てなく生徒に振りまいてくれているこの笑顔。

 それが、実は俺らの知らない、どこの誰とも分からぬ男の為だけに向けられているというこの事実が。

 畜生! この苦しみがわかるか!? この胸のもやもやが!!

 毎日先生を見て綺麗だなあと思う度に、そのファッキン間男……じゃなかったクソ彼氏の存在がちらつくんやぞ?? 俺の大好きなこの先生は週末彼氏の腕の中で……とか一々妄想しちゃうんだぞ???

 何なんだこの気持ちは! 辛い! ドロドロする!!

 あああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!

 ……って、なーんで俺はNTRモノの主人公みたいな気分になっているんですかね。先生は別に俺の彼女でもなんでもないのに。おかしいね。もはやストーカー染みてたしね、今の。持て余した男子高校生の性欲と想像力は怖いね。

 


 うん。

 話をかえよう。

「それより、なんで俺は呼び出されたんですか?」

 なにせ一年の頃ならいざ知らず、俺は二年になってからというもの、何も問題なぞ起こしてはいないはず。

 いや、それどころか、クラス内での俺の扱い、知ってる? 空気だよ空気。空気過ぎて欠席しても誰にもバレないレベル。それに空気の中でも人間から必要とされてない部類の空気だから窒素とかだと思う。や、存在が人類にとって有害だからもはや二酸化炭素ですかね。うるせえよ。

 少なくとも、確実に酸素ではないし、みんなからありがたがられる水素でもない。俺は水素水なんかとは違って虚飾で自分を売り込んだりしないからな!(髪にワックスを塗りたくりながら)

 ちなみに、目の前でこちらをぱっちりつけまお目目で見つめている先生は、ネオンだろうか。なんとなく。

「そっか。センセーはね、勝利に自分から正直に言って欲しかったんだけど……」

 なぜか悲しそうな眼差しをする三鷹先生。

「まだ間に合うよ、勝利? 最後のチャンス。自分の胸に手を当てて聞いてみ?」

 そう言って自分の胸に手を当てる三鷹先生。その指先が、特大クッションのような双峰へと、ゆっくり沈み込んで行くのが見える……。

 ェッッッッッッッッッ!!!!!

 なんてこった……!

 全身の高鳴りを抑え、俺も自分の胸に手を当てて、呼吸を整える。

 取り敢えず、自分が煩悩に塗れたクソ猿男子高校生であることがわかった。

 つまり。

「先生、すみませんでした!!」

「うんうん。間違えることは誰にでもあるからね。それじゃ、センセーと一緒に……」

 俺の回答に満足したのか、慈母が如きバブみでやさしく俺の手を取る先生。

 それに対し少しドギマギしながらも、俺は体を九十度にまで折り曲げ、全力で謝罪の丈を叫ぶ。

「俺は、こともあろうか彼氏持ちの先生に対し、毎日、そのお姿を拝見するたび、欲情していました! そのことに先生は気づいていたんですね! ホント、すいませんした!」

 現に今も、この目線の先におはす超絶ミニなタイトスカートとストッキング&ガーターベルトが……。

「……え? ナニそれ? 勝利、ちょっとそれはどういうこと?」

 なぜか目を白黒させる先生。いやまあ、カラコン入ってるから実際は黄色いんだけど。

「ずっと先生をエロい目で見ていました!!」

「へ、へええ……。いや、でもなんでアタシ? もっといっぱい若い子、いるじゃん?」

「先生も知っているでしょう? もうこの学校の女子と俺は無理ですよ」

「あ、ああ……、そ、そういえばそうだったねぇ……」

 同情の目を向けてくれる先生。そのやさしさが、つらい。

「それに、それを抜きにしたとしてもここだけの話、先生はこの学校で四番目くらいにかわいいですから」

「わー、うれしー。……でも、一番ではないんだ……。」

「さすがにそれは、ちょっと。年齢とか、考えて欲しいなって……」

 逆に干支一回り以上離れた集団で四天王入りしている現状を誇って欲しい。さすがにチャンピオンは現役に譲るくらいの大人の余裕を見せて欲しい。

「な、なにおー! センセーはまだ若いでしょーがー!」

 確かにその見た目は、むしろその辺の女子よりも若々しい。たぶんそのトレードマークの白衣がなかったら、生徒と見分けがつかないだろう。

「あ、安心してください、だからエロさで言えばナンバーワンなんで!」

「やった! そうそう、何を隠そう今彼をモノにしたのもこのエロさでね……っておい! サイテーかよ、勝利! そんなんだから、女の子にモテないんでしょ! なおせー?」

 は? なにそれは? 彼氏羨ましすぎるんだが?? キレそう。

「たぶんそういう次元ではないと思いますけど……、まあはい、心得ときます」

「うんうん。素直な子はセンセー好きだぞー」

 うんうん、だからそうやって安直に好きとか言うのやめようね。造作もなく惚れるから。男子高校生のチョロさ、理解して! えちえち美ギャル女教師!

 はあ……(クソデカため息)。

 さて、このままでは先生の彼氏をどうやって平和裏に殺害するかの計画をどうしようもない我が脳内が練りかねんので、俺は早急にこう切り出してみる。

「じゃ、用事はこれで終わりですね。帰っていいですか?」

「はー? だめに決まってるっしょー」

「ええ……」

「そもそもさー、勝利ぃ―? さっき君が言ったのが今回の呼び出しの理由だったとしてー、センセーがさー、自分のことを性的な目で見ているような男子高校生とー、二人きりになるー?」

「俺の読んでいる漫画ではよくある展開ですね」

 女教師は痴女と相場が決まっている(ガンギマリ)。

「どんな漫画だし! ……参考までに今度読んでみるからタイトルおしえて」

「メス堕ちオトメ、とか、悦楽学園とか、女教師……」

「いや、もういいわ……。てかなんで君はそんな恥じらいもなくそういう本のタイトルを羅列できるワケ……? そもそもR18じゃん?」

「いや、なんかもう自分の一部かなってくらいに熟読しているので」

「どんだけ読んでんの?! エロ本!? 男子高校生の性欲こわっ!」

「溜まってるんで。彼女いないし」

「いやいや、そんな彼女をそういうのの捌け口みたいに言うの、よくないよ!?」

「え、違うんですか! だって先生も週末は彼氏とそういうこと……」

「セクハラやめろし! さっきから下ネタ多過ぎだぞー? てかしてないし!!」

 え、そうなの!? ってなんでそれを聞いて俺は喜んでるの!? なんなのなの?!

 一瞬、ワンチャンある? とか思ったけどないからね? アーマドコアの続編が出るくらい有り得ないから。 

「はあ、すみません。たぶんきっと溜まりに溜まった欲望が自分で制御出来ていないんですね。あまりに先生が、魅力的すぎて」

「あははー、ありがとー。でもセンセーはゆーくんのものだからー、恋しちゃだめだぞ?」

 そう言いながらばちこんと、どんな男子生徒も一発なウィンクをかます先生。

 そのウィンク、めちゃくちゃ可愛いだけに、死ぬ程ヒリつくんだが? いーやマジ身体が闘争を求めるレベル。なおACの続編は(ry。

「ちっ。……じゃ、帰りますわ。三鷹先生また明日―」

 はー世の中クソだわー。彼氏(ゆーくん)とかいう果報者は今すぐ骨となってプラナリアに転生し一生無性生殖してろ! 全ての性を棒に振れ! 端的に言ってふぁっく。や、ふぁっくはすんな。

 だというに。

「またねー」

 こんな風にあなたの彼氏に毒を吐く俺に対してもやさしくさよならの言葉を言ってくれる先生は、控えめに言って女神だった。ギャルだけど。

 この高校で俺にこんな態度をとってくれる異性は、彼女くらいなものだ。

 ――早く幸せになって欲しい。

 そう思いながら扉を開き、外に出ようとした、その瞬間だった。

「って、逃がすかー!!」

 その言葉とともに、急速に彼女がこちらへと接近し、がばっと俺の胸に飛び込んできた。

「はあ?!」

 俺はわけもわからずそのまま押し倒されてしまう。

 彼女は俺の上にまるで騎乗位でもするかのように跨って、肩を両手で押さえつけると、そのぷっちりとしたピンク色の口を開いた。

「まだ行かせるわけにはいかないの!」

「いや、なんでですか! はやく行かせてくださいよ!」

 美人の担任に押し倒されるという未曾有の事態に、女性経験が皆無な俺は、思わずでかい声を出してしまう。

「なんでよ! 自分だけ言いたいこと言って終わりとか、許さないかんね!」

「ええ?! だって先生は俺が欲情してるから呼び出したんでしょう?」

「違うって言ってるでしょ! 君、ほんとに頭の中は女の子のことでいっぱいだね!」

「当たり前じゃないですか! 男の子がHなことを考えなかったら誰が考えるんだ!」

「いや、女子もけっこー、考えて……」

「え?」

「あーね。うん、なんでもないから。気にしないで」

「じゃあ、もう行ってもいいですか? どいてくれません?」

 いやほんと早く解放してくれないと色々とヤバイ。ドキドキで過労死しそうな心臓もそうだけど、そんなことよりなにより俺の下半身がやばい。このままでは肉体的な死だけでなく社会的に死んでしまう。

 なのに、先生は俺を逃がしてくれない。

 太腿と臀部の感触が……、くっ……!

 さっき言った通り、これが薄い本的展開だったら良かったのに……っ!

 そっち方面の備えなら、万全なのに……っ!(万年ベンチを温め続ける避妊具)

「だから、まだ行っちゃダメって……」

 ああまずい、まずいまずい! 鎮まれ、俺の愚息……!!!

 そうして、一人の男子高校生の尊厳が消失仕掛けていた、その、刹那――

「君達、そこで何をしているのかね?」

 廊下に半ばはみ出す形で暴れていた俺達を、この学校の最高権力者――つまりは校長――が、見下していた。

「「あ……」」

 見覚えの有りすぎる禿げ面を見て、固まる俺達(下半身の凝固こそ、防げたが)。

「三鷹君、ちょっと校長室まで来なさい」

 絶望の宣告。

「は、はい……」

 見ようにとっては、自分の生徒を襲おうとしていたとも取られかねん体勢で俺にのしかかっていた先生は、そうしおらしい声を出して俺の上から飛び退いて……。

 とぼとぼと、校長に連れられて。校舎に差し込む夕日の中へ、消えていった。

 なんだろう、それを呆然と眺めていたら、なにも悪いことはしていないはずのに、先生に対しごめんという気持ちでいっぱいになった。

 だが――。

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