第14話 朝市の駆け引き
コン、コン、とノックの音が聞こえて目が覚めた。
昨日は、トイレに行っている間に、アリューがベッドに新しい藁を敷いて、きれいなシーツをかけてベッドの用意をしてくれていた。
ちょっとチクチクする感じはあったけど、よく眠れた感じがする。
ライネも藁束に潜るように寝て、今日も元気に僕の肩に飛んでくる。
「おはよー、コウ。起きてる~?」
「おはよう、アリュー。今起きたよ。着替えるからちょっと待って」
そう伝えて、クォートさんから貰った寝間着から昨日着て畳んでおいた服に着替える。
「わかった、こっちで待ってるからね」
はーいと返事をして寝癖を簡単に整える。
この世界は鏡とかあるのかな?そんなことを考えながら、ライネの止まり木とご飯と水を入れる容器をもってアリューの所へ行く。
「おはよ。コウは朝食べるよね?今食べるもの何もないから朝市いかないと」
おぉ、朝市!なんとなくワクワクする響きだ。
「それじゃ、お金僕が出すから一緒に行きたい。泊めてくれたお礼もしたいし!」
アリューは少し難しい顔をしながら、この村の基本は物々交換だからねー、と告げてくる。
なんでも値段を決めているところもあまりないし、じゃあ決めている商品を買ってから物々交換をするのは?と聞いたが、買い占めになってしまうから、あまりマナーのいい行いじゃないそうだ。
今日か明日には祭りのために行商人さんが来るからその時にお願い、と言われてしまった。
アリューは矢を数本持って外に出る、そしてそれに付いていく僕とライネ。
ライネには先にご飯食べてる?と聞いたけど横に首を振った。
やっぱりこの子しっかり言葉理解して、人のジェスチャーも分かって使えるんだな。
村の広場には朝からゴザや布のシートやテーブルなどに野菜やパン、チーズ、肉になったニワトリや肉になっていないニワトリなど賑やかで、皆楽しげだ。
僕がアリューの後ろをついて歩いていると、そこらからアリューに声がかけられる。
「アリュー、遅ぇじゃねぇか。おめぇの矢を待ってたんだ。俺の腕とおめぇの矢がありゃぁ、豚は俺のもんだからな!……んで、そい……そちらがお客さんかい。噂になってるぜ。貴族様じゃねぇんだよな…?」
最後はアリューにコッソリ聞いているが、バッチリ聞こえたので僕が答える。
「ただの旅人ですよ。はじめまして、コウといいます」
「そぉーかい!鮮やかな色の服着てるから貴族様かと思ってよ!貴族様に失礼があったらこうだからな!」
そう言って舌を出しながら、自分の首を絞める真似をする。
迫真の苦しそうな演技で軽く笑ってしまう。
「コウ、おめえさんも的当て出るのか?勝ちは譲ってやらねぇが、出るならコツを教えてやる」
「はい、弓の腕はまったくですけど、参加してみたいです」
「うんうん、なんでも挑戦することはいいことだ!俺はトリムつって、村一番の弓の使い手だ。この村の警護と鳥の世話をしてる」
そう言いトリムさんは、肉になったニワトリを指さす。
解体はされていて見慣れた肉感はあるけど、そこに内臓や脚や頭も置かれていてそれなりにグロい。
「フェルさんがいるからトリムさんは二番でしょうに」
「あいつぁいいんだよ、豚食えねぇんだから、的当てじゃ俺が一番だ」
聞くとフェルさんは、豚を飼育している人で、豚へ愛情を注ぐあまり、豚肉を食べることが出来なくなってしまったらしい。
それでも、解体してベーコンやハムを作るからプロなんだろう。
的当ての賞品になる豚は、その時村で一番大きく育っている豚を事前に選ぶが、、一位になるとみんなで豚を捌いて優勝者が一口食べて、周りにもふるまうのが習わしらしい。
それでも、半分以上の肉が手元に残るので優勝者はしばらく肉に困らないシステムだ。
「それでこれがフクロウの羽で作った的当てに最適の矢です。1羽分と卵4個でどうですか?」
「おいおい、それはちょっと持ってきすぎだぜ。ブレの少ない素直な矢だとは言え、矢だぜ。半身と卵3くらいがいいとこだろ」
アリューの目がキランと光った気がした。
「トリムさん、豚食べたいんですよね?それにはこの矢が必要と。だったら1羽どころか2羽でも安いんじゃないですか?丸々太った豚と2羽のニワトリと交換すると考えてくださいよ。すっごいお得じゃないですか!だから2羽と卵6個で!」
「増えてんじゃねぇか!わーった!1羽と4個持ってけ!ちくしょう、カァチャンにどやされちまう」
「ありがとう、トリムさん、優勝頑張ってね!」
そういってアリューは切り分けられた肉と卵を4つ下に藁を敷いてある蔦編みの篭に入れていく。
それからアリューは、矢とチーズと交換したり、さっき交換したニワトリの一部と焼きたてのパンやキノコや野菜と交換していった。
家に戻ってからアリューはさっきのやり取りを料理を作りながら教えてくれた。
普通の矢は5本でニワトリ1羽と交換くらいのレートだけど、アリューの矢は4本でニワトリ1羽くらい。
それが卵を4個付けて交換だったから5倍くらい高値で売れた感覚らしい。
チーズのほうも大きな固まりを1個丸々交換していて、普段のレートとは3倍くらい多く、いい交換ができたとアリューは喜んでいた。
僕と同じくらいの齢にみえるアリューはしっかりしていた。
そしてアリューが作ってくれた朝食は、交換したパンと、ニワトリのレバーなんかの内臓を刻んで、卵と庭の香草と塩で焼いたオムレツを出してくれた。
ちょっと内臓臭が残っているけど、昨日のブラッドソーセージと比べると問題なく食べられる。
ライネもテーブルの上で、雑穀が入った容器と水の入った容器を行き来しながら止まり木から朝ご飯を食べていて、その嘴には雑穀の殻が付いていてかわいい。
「はー贅沢しちゃった!ねぇ、コウ。これからおばあちゃんのところ行って、それから弓の練習しよ!」
「うん、優勝できるように頑張るよ!」
昨日行った長老宅に挨拶に行く。
昨日と同じように、玄関で少し待たされてから、中に案内された。
中にいたのはたしかにおばあちゃんで目が見えないそうだけど、結構元気そうなおばあちゃんだ。
「おばぁちゃん。この人がコウ、旅人さんだって」
そう言ってアリューは僕を紹介してくれる。
「いいときにきたねぇ、コウさんよ。この村は何もないけど祭りはそれは賑やかでみんな楽しくやるんだよ。エルグランデ様のご加護を感じられるからねぇ。何日かここにいるんだろう?この村でゆっくりしておいき」
「ありがとうございます、長老様」
「アリューの父は村で一番の弓使いで長老もやっておった。ワシはそのあとを継ぐ形で長老なぞやっておるが、あの人の経験と知識にはまだまだ敵わん。その血を受け継ぐアリューの気に入った子なら、この村の祭り馴染むだろうて」
そういった長老は深いシワをさらに深くして「コウさん、あんたをこのカール村は歓迎するよ」と言ってくれた。
◇◆◇◆◇◆
村から少し歩いた街道沿いにある、林の木の枝に板を掛けて、まずアリューがクォートさんから貰った弓の試射を行う。
的への距離は15メートルくらいで、的には日本と同じように丸い円がいくつもあるものだ。
アリューはこれに5射中3射真ん中に当てていた。
「コウ、やっぱりこの弓すごいよ、普段こんなに精度よく当てられないもん」
「じゃあ、次は僕がやってみるけど、もう少し近づいてもいい?」
そんなやり取りをしながら、お昼ごろまでアリューから弓を教えて貰い、両腕が筋肉痛で上がらなくなるまで続けられた。
「コウは弓のセンスあるかもね。私と同じ距離から的には当たるようになってきたし。このまま練習続けたらいい線いくと思うよ、お祭りの的当てはちょっと難しいかもしれないけど、運もあるからがんばろ!」
アリューがそういったタイミングで、遠くのほうからおーい、と声をかけられた。
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