第13話 アリューの誇り

アリューの家は木造のこじんまりとした家で、それでも家の造りは外観から、村の他の家と比べてしっかりと造られていることがわかる。


なにせ、ここに向かう時に見た家は、壁の隙間から微かに光が漏れている家や、アリューの家には地面から2段階段があって、地面より少し上に家の床がある。

けれど、他の家はほぼ地面の高さにドアがあったことから、地面のすぐ上に板を張っているか、床は土か石だと思う。


他にもキッチンは石造りになっていて、火事が起きにくいようになっている。


部屋の明かりはランプを使っていて、壁は少し煤けているけど汚い感じがしないのはこまめに掃除をしっかりしてあるからだろう。




アリューはもういない両親の建てた家に一人で住んでいる。


父はエルフで5年前この地の領主による、魔物の遠征征伐によって亡くなってしまったらしいが、村一番の弓の名手だったそうだ。


母はヒュームで、高齢出産でアリューを産んだことによって産後に命を落としてしまった。


「だからね、私、ハーフエルフなんだ」


そういって肩の上あたりで切り揃えられた茶色の髪を掻き上げてその耳を見せてくれる。


その耳は普通の人より少し大きくて、上部が後ろのほうに少し尖り気味だけど、創作で見るようないかにもな異種族といった感じはしない。

少なくともミスタースポック的な感じはないかな。



「昔はねぇ、これでよく半分~とかって揶揄われていたんだけど、今となってはお父さんとお母さんの両方の血を継いでるってわかるから気に入ってるの。だってエルフとヒュームの夫婦は子供もでき難いから、私が生まれたことに二人ともすごく喜んだって。それを聞いたときは、この耳は何も恥じることはないんだって思って」


アリューは泊める代わりに、旅の話をして欲しいって言っていたけど、実際はアリューの話をかれこれ2時間近く聞いている。


「でも、お父さんみたいに弓は上手くなくって、村でも普通くらいだから、もっと上手くなりたいんだよねー。あ、でもでも、弓とか矢を作るのは上手いよ!私の作った矢は、普通の矢より少し高い値段をつけてくれるし!お父さん直伝だから、真っすぐ飛ぶし、長く飛ぶんだよ。ねぇ、コウも弓を使うんでしょ?矢筒は見えないし、背負子に似てる大きなカバンについてる棒と弦は、弓だよね」



「これ、貰ったばっかりで、僕は全然使えないんだけど見たいならどうぞ」


そう伝えて、リュックタイプのバッグから固定された弓を外し、弓弦を張らないままアリューに手渡す。

片側だけ簡単に固定された弓と弦は釣り竿のようにも見える。


「見た時から思ってたけど、反りもないただの棒だね……弦はつるつるキラキラしてて、伸びもほとんどないから、すごくいいものだと思うけど、ちぐはぐ……なにこれ!」


アリューは外してあった弦を張って、弓の上端に弦輪をかけると、棒状態だった弓に歪みが出て、下に向けるとWの形になったこと、弓の中ほどが抉れるように歪んだ矢置きができたことに驚いていた。


魔法がある世界でこれが普通なんだろうと思ってたから、アリューの驚きは意外だった。


「なにこれ!名工の作品!?こんなの見たことないよ!すごい、ただの木の棒にしか見えなかったのに!凄いスゴイよ、明日試射させて貰ってもいいかな?」


誰から貰ったものか聞かれなくてホッとしながら「いいよ」と頷く。


「やった!コウありがとう!私もこんなすごい弓作ってみたい!もっともっと弓矢を作って腕を上げなきゃ。あ、私ばっかり話しててごめんね。でももういい時間だからそろそろ部屋を案内するよ。こっちが空いている部屋だからここ使って、ランプはこれ、トイレは外に小屋があるから好きに使って。それから明日はコウの話を聞かせてね」


「うん、アリューありがと。アリューはすぐ寝るの?」


「これからちょっと矢を作らなきゃだから、少し作業したら休むよ、お祭りで矢を使うから急いで作らなきゃなんだ。コウもお祭りの的当て参加したらいいよ。矢は私が腕によりをかけて作るから、ね?」


「あー、僕は全然上手くないから、参加するのはちょっと、なしで」


「弓の腕はそんなに関係ないよ。地面に描いた的に的の中心から真上に矢を撃って、一番真ん中に当てた人が勝ちだから運のほうが強いの。賞品も出てね!なんと、おっきい豚が貰えるから出なきゃ損だよ」


「危なくない?それ……」


「うん、危ないから撃ったらすぐ的から逃げなきゃダメ。でも怪我なんてほとんどないよ。鏃の代わりに軽い木でできた球を付けるし、避けるのも落ちてくる矢だから威力は弱いし、頭に当たったらコブができて何日か痛いくらいだから」


「それじゃあ、参加してみようかな。お祭りまで弓の練習しないと」


「うん、今日村の外に出てたのは水鳥の羽を遠くの泉に取りに行ってね、いい羽が取れたから練習用の矢もいいのが仕上がると思う。コウが一番だったら私にも豚肉分けてね!」


そういってアリューはにっこりと笑った。



それから、外にあるトイレへランプをもって行くと、昼は太陽だったものが、光を落として、優しく月のように光っていた。

そして、空には至る所に人が灯したであろう光が星のように輝いている。




その星々は、地球の星と比べ、密度にムラを持ちながらも、人の営みを表す都や街を主張し、地球の星と遜色のない美しさだった。

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