第10話 魔剣と鏃

それから、転移部屋に昨日貰ったスフィアの歴史書を、宛がわれた部屋から持ってくると、クォートさんはこれまた豪華な装丁の本を渡してきた。


「これは、魔法と魔法陣の描かれた魔法書です。これは主、ルクスの民方が用意されたものなので、差し上げることはできませんが、この転移部屋に置いておきますからゆっくり覚えていってください。それから初級、中級、上級とありますから、初級を読み終わったら報告してください。中級、上級と差し替えるので」


そう言って、初級の魔法書を手渡してくる。

僕はお礼を告げて、受け取る。

これは歴史書の3倍くらいは厚みがあってずっしりくる。


「あとは護身用の武器と防具ですかね。防具はサイズ的に厳しいかもしれませんが、ちょっと武器庫に行きましょう。航はなにか心得を持っていますか?」


なんという無茶ぶり!

クォートさんはさも当然のようにそんなことを聞いてくる。


「心得って、武器ってことですよね??触ったこともないです」


「む……ではまず適正から見ましょうか。武器庫はこちらです」



クォートさんの案内で武器庫に行くと、そこは傷どころか曇りもないようなキラッキラしたフルプレートの鎧や装飾華美な剣や槍や盾が大量に置いてあって、聞く所によると、美術品の意味合いが強い、実用には向かない鎧や剣をことあるごとに贈られるそうだ。


例えば、王族に嫡子が誕生したり、災害があったときに手を差し伸べた時で、クォートさんに言わせると、ただ単にクォートさんの気を引きたいからだそう。


まあ、神様が実際にいたら気を引きたくはなるのかな。

しかも人を助けてくれる神様だし。



その中で、実用に向きながら、僕の体に合った武器を見繕ってくれる。


まずは短剣。


大体30センチ定規よりちょっと長いくらいで取り扱いによさそう。

これに魔法がかかっていて、研がなくても切れ味が落ちなくて、血なんかも付着しない。

使うときに魔力を短剣に流すと、表面をコーティングしたようになって切れ味が落ちなくて血もコーティングに阻まれて汚れないらしい。



次に剣。

太ももの付け根から踵くらいまでの長さがあるから、多分70~80センチくらいでこの身体にはちょっと長いかも。

これも短剣と同じようにコーティングができるのと、剣の表面に描いてある呪文で索敵が上手くできる。

でも、ライネがいるから索敵は死にスキルってことで、剣は除外された。


ぶっちゃけ、短剣より剣のほうがかっこいいし、良かったんだけど、長さと重さからひとまず僕も断念。

それでも、転移部屋に置くのはOKを貰えた。



次は槍。

長さはクォートさんの身長と一緒くらいで、多分170センチくらいかな。

これは短剣や剣のようにコーティングはないけど、重さを10分の一にする効果があって軽い。

20年前と同じ値段の物干し竿より軽いけど、なにより長いから持ち運びがツライ。

これは保留。



あとは弓を勧められた。

弓を弾く力はそんなにいらなくて、弦を外せば真っすぐになる弓だから、持ち運びしやすくて、やじりもいいものがあると言われた。


そのやじりはなんと、昨日説明のあった【破滅のダンジョン】を封印している魔剣の切っ先3種セットだ。

それぞれの魔剣の効果に『結界』『吸収』『放出』があって

『結界』は剣を中心に攻撃や魔法を完全に防ぐ効果

『吸収』は剣に当たった攻撃と魔法をその名の通り吸収する効果

『放出』は『吸収』されたものをそのまま『放出』して、吸収とペアになって初めて効果がある


鏃はその魔剣が効果を失くすと消えてしまうから、警戒のために切っ先を保管しているらしい。


鏃が壊れたらどうなるか聞いたら、その魔剣も壊れてしまうらしい。




無理無理!ヤバいダンジョンの封印が解けちゃう重大事なんて責任取れないし!


クォートさんには丁重に断ったけど、何かあったときのためにってゴリ押しされて転移部屋に置いておくことに。

絶対使わない!と心に決めていると、クォートさんは盾も勧めてくる。



基本的に防具は僕の身体には合わない。

美術品じゃなくてもクォートさんに合わせてプレゼントするから当然だと思う。


渡された盾は腕から手首にかけて装着する丸いラウンドシールドで、僕でも装着できるようなサイズ。

以前飢饉を救った町の町長から、町の宝として渡されたものらしい。

本来は手甲と一緒に使うものだけど、手甲は僕には合わない、ブカブカだ。

効果は受けた衝撃を半分に軽減する効果があるらしくて使いやすそうだ。


ただ、若干のカッコ悪さは否めない。


普段使いはしないでいざとなったら転移部屋から取り出そう。



そうして、見繕った武器は短剣と弓と槍を持ってクォートさんに資質を見てもらう。


短剣は初心者なりの合格を貰えて、嬉しかったけど、弓と槍の結果はボロボロだった。


槍は鞘を着けてクォートさんの素手と手合わせをしたけどかすりもしなかった。

突きを簡単に交わされたら、槍の間合いの内側に入られてそこから先はただ前に歩いてくるクォートさんに取れる手段は何もなかったのだ。


弓は10メートルから的に当てるように始まったけど、全然当たらないから、5メートルくらいまで近づいてようやく当たるようになった。



それでも、遠距離攻撃の有用性を説かれ、結局、短剣と弓をひとまず装備することに。



この人、弓好きなだけだ!と密かに思った。

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