第9話 転移部屋と大盛り金貨

外から入る光の眩しさに航は目を覚ました。


昨日から自由に動く身体を手に入れたはいいものの、動く身体というものを少し持て余し気味だ。


これまで、世界を滅ぼすといわれるくらい願った自由を得てしまうと、あれほど願ったことはこんなに簡単なことだったんだと思い、昨日クォートさんから言われた、人の欲望は限りない、みたいなことを思い出して、少し反省する。


昨日クォートさんから食後に、簡単なこれからのことを聞いた。


孵化させたいドラゴンの卵は6個あって、ドラゴンの縄張りはかなり広いから、各大陸に1個づつ置いていくくらいに考えて欲しいと。


この世界の大陸は12個あって、そのうち3つは弱い生き物の保護区となっていて、結界があり、人は立ち入ることはできないらしい。


残りの9つの大陸に、普通の人族ヒュームは8大陸に住んでいて、そのうちの一つがこれから降りるライスト大陸だ。


ここでは、卵を孵化させる場所を探すより、このスフィアのことを肌で学ぶほうを優先したほうがいいとのこと。


今日は昨日と同じように、魔法の授業をしてから地上に降ろされるらしく、いきなりな感じがして、少しワクワクと心配でドキドキする。



寝間着から昨日貰った高級そうな服に袖を通し、部屋の外に出ると、廊下近くの気に留まっていたのか、すぐライネが肩に飛んできてピッ、と短く鳴く。


「おはよ、ライネ。今日からよろしくね」


ライネも一緒に下に降りるから、そんな挨拶をしながら、食堂に向かう。

この浮遊島の神殿?では建物自体が発光していて、やっぱり眩しい。


「おはようございます。クォートさん」


「おはよう、航。もうご飯はできていますよ。」



そういってクォートさんはお椀を差し出してくる。

そこには白いご飯が盛られていた。


「え。お米あるんですか?」


「ええ、2つ隣の大陸ともう一つの大陸には大きな平地があるんですが、そこの特産品ですよ。水が多い場所じゃないと作りにくいものなので、他の地域ではあまり作られていませんが。麦穂もそうですが、稲穂が風になびく様子はとてもきれいです」



そのお米は日本のお米と似ていて、ずんぐりしているけど、粒が小さい。

日本のお米って品種改良結構しているみたいだからそれで差が出てるのかな。


あとは、海藻と豆のスープと、昨日のお昼に食べたハムが出てきた。


ご飯と一緒に食べるにはちょっと合わない気もしたけど贅沢は言えないし。




食事を終えると、教室くらいの部屋に案内された。



「これから、≪転移≫の魔法を覚えてもらって、ここの部屋とリンクさせましょう。自分では移動できないですけど、持ち物を少なくすることができるので便利ですよ」


そう言って、昨日と同じようにクォートさんは僕の後ろに回って、肩越しに魔法陣を展開する。


昨日は椅子に座ってだったから、胸が当たったけど、今日はお互い立っていて、身長差のせいか今日は当たらなかった。

少しというか、結構残念だ。



「この魔法陣は≪転移≫です。この部屋にモノや人を自由に出し入れできるので、利用頻度はすごく高いものですよ。まずこれを≪転写≫してください。それから≪魔法操作≫でこの部屋を設定しましょう」



言われたとおりに≪転写≫をしてから、≪転移≫に≪魔法操作≫で位置情報を設定した。



「この部屋は航専用の≪転移≫の部屋なので、容量を気にしないで使ってください。この部屋自体がある程度分類をしてくれるので、らくちんですから」



僕は≪転移≫の魔法を使ってみたくなったけれど、この部屋には備え付けの棚くらいしかない。

自分は≪転移≫できないってことだったので、考えていると、ふと、肩にライネが止まっていることに気が付いた。


よし、ライネだ。

そう決めて、頭の中で≪転移≫の魔法陣を呼び出す。


魔力を流すとライネは右手の手のひらの上にいた。

成功だ!と思った瞬間、ライネはびっくりしたのか、ピィ!と強く鳴いて、指にくちばしで噛みついた。



「航、生き物に転移を使うときは注意してください。同意なくするとかなりびっくりするので」


クォートさんに怒られているとライネは部屋の外へ飛んで行った。

血は出ていないけど噛まれたところがジンジンと痛い。


「はい……ごめんなさい。ライネにも謝ります」


「ええ、……ライネには後で、オヤツをあげましょう。それで機嫌は戻ると思いますから。この部屋にライネのオヤツとご飯を用意しましょう。好きな時にご飯を上げることができるように」



クォートさんはなにもない空間から、≪転移≫で中に雑穀が入った布の袋を手渡してきた。


ライネはこの中に入っているマカダミアナッツのようなトーシの実が好きだとのこと。

あとでライネに上げようと思っていると、ただし、とクォートさんが付け加え、脂質が多いから日常的には上げないようにと注意された。


たしかにマカダミアナッツは油っこいよね。



それから、とクォートさんは別の袋も取り出す。

勧められたので中を見てみると金色と銀色の硬貨がジャラジャラずっしりと入っていた。

片手で持つには重いくらいで5キロくらいはあるんじゃないか。


「それも、地上の教会から貰ったものです。私が持っていても使いようがないので全部使ってください。溜まっていく一方で扱いに困っているんですよ。あの人たちはいらないといっても押し付けてくるんですから」


金貨を見ると、細かい装飾がされたもので、島と地面が描かれ、島が空より上にあって飛んでいるデザインがされていた。

地上からそんなに離れている描かれ方ではないけどきっとこの浮遊島なんだろう。


銀貨を見ると、クォートさんの横顔が描かれていた。

なかなか似ているし、すごく精緻な装飾がされている。



クォートさんは肩をすくめ「そういうことです」とだけ言った。

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