第4話 薬湯

「やあ、こんばんは」


そういい、神様は右手を上げる。


「挨拶は済んだかい?」


今日は見知らぬ誰かの家みたいだ。

僕は玄関に立っていてここが夢の中であることを確認する。



少し前に、面会時間ギリギリまで両親と話をしていた。

もちろん僕は入力端末を使っての会話だけど、久しぶりに会話は弾んだ。

昨日の夢の内容がホントだったらと内心はしゃいでいたが、あまり話題には上がらなかった。


きっとただの夢だった時に落ち込まないようにだと思う。



お父さんは平日ここに来ることは珍しいから、それでも夢のことを聞いてきてくれたんだろうな。

そんなことを考え、神さまに「はい、一応。あ、"れいわ"ありがとうございます。」と告げた。



「そうか、それならよかった。よかったらクツ脱いで上がって。これからの話をするから」


そういい、部屋を進められる。

靴を脱ごうとして、まだ動ける頃、小学校の頃に履いていた運動靴だったことに気づき、自分もまた、小学生の頃の姿であることに気づく。



部屋は玄関からすぐのところに小さなキッチンがあり、奥に続く狭い廊下の奥の部屋へ案内してくれた。

部屋はこの一部屋だけみたいだ。


部屋の広さにあった小さいテーブルがあり、クッションが置いてあった席を勧められる。



「改めて、私はフル。この姿は浩司という個体の姿を借りているから説得力はあまりないだろうけどこの世界を創ったモノだよ。浩司はこの部屋のイメージの持ち主でもある。あまり畏まってほしくないからこの部屋に招待したんだ」



そう言って神様はコップに入った、薄く発光してわずかに虹色がかった水のようなものを差し出す。


「これは、薬みたいなもの。これを飲むことによってキミの身体はまた動くようになる。神経伝達を阻害していたものを弱らせて、そして新たな神経ルートを繋ぐことができる。大体一月後には自分の意志で身体を動かせるようになるから。ただ、まだ飲まないで。これを飲むとゆっくりと意識がマヒしてくるから心配事をなくしてからにしよう」



そう言って神様はコップをテーブルの端に寄せる。



「私はその昔、この世界を創造して、世界の外から眺めていた。地球にも神話で『最初に光あれと神は言った。』ってあるでしょ?あれ、アタリ。まあ、実際言ってはないんだけど、最初は光なんだ。私も光だけど、この世界のように薄弱な光でなく、もっとずっと密度の高い光には自我が発生することがある。もっとも、ごく低確率だけれど。その自我を生み出そうとしたのがそもそもの始まり。私の自我は、本能で他の光の自我を生み出して、その自我と融合を目的とする、意識の複合体なんだ」



僕は、半分も理解できていただろうか。

それでも頷いて聞く姿勢を保つ。

最近は、声なんて出せていなかったから、聞き役に徹することは全然苦じゃない。



「浩司もキミと同じように、願いを膨らませていた日本人で、訳あって、その知識と経験を貰ったんだ。

だから私は、君の夢の中ではこの姿をしている。本来は棲む次元も違うから見たり感じたりすることはできない。この世界から見ると折りたたまれた次元に普段はいるんだよ」




「で、ここからが本題。私の願いによって生まれたこの世界は、意識あるものの願いに反応しやすい。同じ願いをずっと、他に意識を割かずに、ひたすらに願うことによって小さなシャボン玉は発生する。発生してしまったシャボン玉は割るか、取り除くか、小さくするしかない。今回は、君の願いは割るのも取り除くのもリスクが高いから小さくする手段をとる。それが、私の創った小さな箱庭で過ごしてもらう経緯だ」


「箱庭、ですか」


「そう、箱庭。盆栽とかアクアリウムとか最近あるだろう?ああいうイメージでいい。いろいろな世界から保護したり、集めたりした生き物の調和の取れた世界を創っている。そこの世界で、スフィアというんだが、気の向くままに過ごして欲しい」



ン、と神様は軽く咳払いをして続ける。


「すまないね、説明をすると浩司の影響を受けて固い説明になってしまうな。続けようか」



「はい、それで僕にやって欲しいことっていうのはなんですか?」



「あぁ、受けても受けなくてもいいんだが、手のひらに乗るくらいの卵をいろいろな環境に置いてきて欲しい。詳しい説明はあっちでしよう。その時に決めてもらっていいから」


「はい、えと、言葉とかってどうすれば……」



「それは何も問題ないよ。こうして話している間に、向こうの言葉で話しているから、スフィアの言葉を刷り込んでいるから、もう普通に話せるはずだよ。それから、向こうには案内人がいるから文化とか概要を聞いたらいいさ。万全のサポートをしてくれると思うよ。それから、小さいシャボン玉のガス抜きが済んだら、こっちの世界の時間の流れを一時的に止めておくから心置きなく向こうで過ごすといい。あとは何かあるかな?」



「あの、これを飲めば必ずまた動けるようになるんですよね?」



覚悟を決めて、一番聞きたかったことを僕は尋ねる。



「うん、そこは安心して。リハビリは大変だろうけど必ず動けるようになると約束する。じゃあ、もういいかな?」


神様はそう言ってコップを差し出す。


お礼を言いつつ、コップを持ってみると普通の水と違い、コップも含めて、重さをまったく感じない。

不思議に思いながらも、夢だからと納得し、中身を呷るあおる


「それじゃあ、向こうの人たちによろしく言っておいて。」



そんな神様の言葉ととも、に緩やかに意識が遠のいていく。

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