第八部
「えっと…何で、日本語と違う言語がパパパッて入れ替わるの……ですか?」
相手が旅団長であることを忘れて、敬語を付け忘れそうになりながらパジャシュに質問した。
パジャシュは、それに丁寧に答えてくれる。
「ヴァルキリーは、様々な国のお方をよく御招待するの。この世界には、約8,000もの言語があって、最初は翻訳の人を雇ってたんだけど、段々カバーしきれなくなって…そこで、連邦魔導研究室が開発したのが、ペレボドという半永久型設置魔法!それのお陰で、以来ヴァルキリー内ではどんな言語で話しても、聞き手の一番理解出来る言語に翻訳され届くという訳」
す、凄い…魔法というのは攻撃とか回復とかしかないのかと思ってたけど、政治とかにも役立てるような物もあるんだ。
「それは、凄いですね!」
黒鎺さんは、無邪気に目を輝かせている。
「……あ、いや、違うわ!そんなことより!」
パジャシュがハッとする。
「あなた達の戦車って、鉄で出来ているの?!」
私達の感覚からすると、鉄なんて世界にありふれた物だ。しかし、パジャシュの反応を見る限り、ここの世界は鉱業があまり発達していないのか。
「それを言ったら」
私は、首にぶら下げている認識票を戦闘服の外へ出し、チェーンをつまんでパジャシュに見えやすくした。
「これだって、確か鉄の合金だよ」
認識票を見たパジャシュは、分かりやすく唾を飲む。そして、手を震えさせながら認識票へと手を伸ばした。
「こ、これが……鉄…!」
どうやら、感激してしまっているようだ。
「ねぇねぇ!貴女達の戦車を、見せてくれない?!」
パジャシュが言った後、黒鎺さんが私の肩を叩いた。反射的に黒鎺さんを見やった。
「すみません。私の施設中隊は、現在捜索任務が課せられていて、小型に隊員を待たせているのです」
申し訳なさそうに言う。私は、小さく頷き、見送った。
「戦車、ご覧になりたいのですか?」
「うん!!」
無邪気な、それこそ文字通り、世の中の穢れなど知らないようなつぶらな瞳を輝かせた。
大型等の車列に紛れて停車している、74式戦車に近付くと人だかりが特に車両の周りに出来ているということが分かった。中には、自衛官と話している方もいる。
「うわぁ…なにこれ!これが戦車?!」
パジャシュは、人混みの上から見下す74式戦車の主砲から目を離さずに言った。
見兼ねた私は、パジャシュの脇に手を入れて持ち上げた。肩に両足をかけて、肩車をしてあげた。子供でもこんなに重いんだ。装備一式より少し重いくらいだ。
「うわぁぁぁああ!!これが!これが、お父様が話していた戦車なのね!しかも、こ、これ全部が鉄……」
「そうです。これが、陸上自衛隊が最も多く生産させた戦車。装甲は、少し特殊な鉄で覆われています」
パジャシュは、私の説明なんか聞いていなかった。
私はパジャシュを74式戦車の元へと連れていった。唐突に、触らせてあげたいと思ったのだ。
74式戦車の左側面に出て、パジャシュを前面装甲に乗せた。
「あ、あ、あ……私、鉄の上に………」
パジャシュが何か言ってたが、それは気にせずキャノピーから顔を出している斎藤さんに声をかけた。苦笑いをしている。
「斎藤さん!お疲れ様です!」
側面にある足場に足をかけて、斎藤さんに近付く。
「いえいえ、そちらこそ。それにあなたが上司なんですから、敬語なんて使わないでくださいよ」
苦笑いを保ちつつ、斎藤さんが言った。
「とんでもない!斎藤さんの方が年を重ねてらっしゃるし、私がそうしたいので」
個人的だが、自分より年齢が高い
「上官の意向であるならば」
斎藤さんは、冗談を交えて言った。
何故、人が集まり始めたのか聞こうとしたが、ある人が74式戦車に付けられたエンピを外そうとしたのを止めるために、斎藤さんはキャノピーから出てそっちの方へ行ってしまった。
「新渡戸!黒鎺!」
「現在地!」
巻口隊長の声だ。私は、咄嗟に反応した。
「黒鎺は?」
「施設中隊指揮のため、小型で展開中の部隊の元に行きました」
巻口隊長が、早足でこちらに向かってきた。
「あぁ、そうだったな」
「ところで、本国と帝書記長の会談は終わったのですか?」
「先程、終了した」
「混成団の、これからの動向はどうなるのでしょうか」
巻口隊長の目が私を据えた。
「駐屯する」
口を開いた。着実に。
「この、ビルブァターニ帝政連邦に、駐屯することとなった」
「と、言うことは…」
「しばらくは家に帰れないぞ」
家に帰れない寂しさはあるが、私には保育園への子供の迎えとか、家に帰ったら最愛の人が待ってるとか、めごいペットとかはいないから幾分マシかと思われる。というか、そもそも隊舎暮らしだし。
「自在を呼んでくれ」
偶然通りかかった特科隊の人に、巻口隊長が言った。
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