第六部
気圧の差のせいか、こちらに風が向かってきた。私のミディアムヘアがたなびく。
「さながら、ラスボスの降臨…かなぁ」
よく、スクウェア・エニックスのドラゴンクエストの自慢を、メール等で伝えてくる巻口隊長が言った。ファミコン世代からのゲーマらしい。
「よくぞヴァルキリーに参ったな」
前に鈴宮に見せてもらった、アニメに出てくる魔王のような荘厳さだ。巻口隊長の言葉が過言には思えなく感じた。
「叔父様!」
私達が
「あ、ちょ、こら。今は客人の前だから!」
ん?今までの帝書記長の威厳を見せつけるかのような低い声は?
「大丈夫!巻口たちはここの世界の人じゃないから!」
ま、巻口?!呼び捨て?!
「そんなの分からないじゃないかぁ…え…?ということは、あれは成功したのか?」
「そうよ?」
「ってことは、この方々は…」
「神の概念を召喚しようとして現れた人達。神…いえ、同じ人間みたいだしこう言った方が良いかもね」
パジャシュがまた、おおすみの艦上で見たあの“猛禽類の目”をした。
「伝説の守護者様、と」
静かに、それでいてしっかりと言った。妙に心に刺さる。
「また、昔話をした方が良いかな?」
自衛隊が活躍したのは、桐編隊だけじゃなかったのか?
「お父様が来たほぼ直後。お父様がやっつけた神が、私たちの街を混乱に陥れたと勘違いして、スパル皇国が攻めてきたの。理由は単純。スパル皇国は海峡の殆どを領域の中に取り入れている。けど、前代帝書記長の進攻により、ゴミダ閘門を連邦が占領した」
この世界では、最近まで戦争を行なっていたということか。
「その閘門を取り返そうと、スパル皇国が…」
巻口隊長が納得するように言った。
「そう。それで、ノーザン海峡海戦が発生した」
「この戦争に関しては、参戦した私が語った方が良いだろう」
もう威厳を見せつけるのはやめにしたようだ。優しく、それでいて芯が通った声がした。帝書記長は座りながら身を乗り出した。すると、帝書記長の顔を窓から入ってきていた光が照らした。“帝書記長”という名前から先入観で怖い顔か、人を苛つかせるような顔をしているのかと思った。だが、意外と優しそうな、穏やかな雰囲気を醸し出している。
しかも、割と整った顔立ち。これは、モテてるんじゃないの?
「私は、ノーザン海峡海戦の時、聯合艦隊旗艦である魔動式巡航砲艦『シクシン・ブルゥス』に艦長として乗艦していた」
と言うことは、帝書記長は海軍出身者なのか。
「我々は海峡へ侵入していく。敵はそれを海峡内で待ち伏せる。海峡には一隻ずつしか入れないから、聯合艦隊は劣勢を極めつつあった。すると、辺りを霧が覆い始めた。視界が悪くなるというのは…やはり恐怖心を掻き立てるものでねぇ。我々は怖気づいてしまったんだ。笑えるだろ」
帝書記長は、自分で自分を笑った。
「そしたら…霧の中から何が出てきたと思う?」
思わず、顔を右に向けてしまう。中学生からの癖だ。
あ、巻口隊長と目が合った。何も分からない、と目で訴えている。
帝書記長は、私達がそれが何なのかを閃く前にこう言った。
「海上自衛隊と名乗る者たちだ」
と。
その言葉で、今までの混沌とした情報が組上がっていく音がした。
私達より先に“この世界”へ来ていた航空自衛隊、海上自衛隊。最初に消失した、F-35Aの活躍。ノーザン海峡海戦に出現した海上自衛隊…海上自衛隊で消失した艦は、ありあけしかないので恐らくそれだろう。確実に分かったことが一つだけ。
皆、この世界に来ている。
私達の世界とこの世界は、何らかの繋がりを持っているのか。偶然か。確か、私達が来たのはパジャシュ達が神の概念を召喚しようとしたから?
「そ、その、海上自衛隊というのはもしや、ありあけ…では?」
巻口隊長が恐る恐る聞いている。真実を知り、頭の中の情報が組上がっていくのは、何故か恐怖を覚えるものだ。
「そうそう!ありあけ。確か、ありあけの調理師が交流のために訪問してるよ」
「え?」
私達三人は、同時に呆気にとられた。
「噂をすればなんとやら。もう、朝食の時間のようだ」
私達がさっき入ってきた扉から、一人の男が料理をトレーと一緒に持ってきた。
「朝から公務、お疲れ様です。朝食をお持ちしました。鶏肉に似たお肉を見つけたので、唐揚げと言うものを……」
目が合った。トレーを持つ手が震え始め、食器がガタガタと震える音が鳴り始める。
「じ、自衛隊?しかも、陸自…?」
声も震えていた。
「所属と名前は」
巻口隊長が、冷静に質問した。
それを聞いた、ありあけの調理師は、目に涙を浮かべ言った。
「か、海上自衛隊…第一、護衛隊群、第五護衛隊……ありあけ…給養員、
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