42.
「どうせ全部話してくれんだろ?」
これまでも何度も似たような事を言っていたが、今回はアオの事を聞きながら真剣そうでありながら、何か思いふけるように聞いていた。
「はいよ、注文の酒と料理置いておくよ! グレイブ、あんた今日も遅くまで飲むつもり? いい加減程ほどにしときなよ?」
「おう、あんがとよ」
「ぁ、アリアさんだ! 今日も料理美味しいです!って、マーザさんにも言っててね!」
「ミーシャ、飲み過ぎちゃダメだよ? ジン! あんたもしっかりミーシャが飲み過ぎないように気をつけてあげてよ? あとさっきから気になってたんだけどその青い子はどうしたの?」
店の店員で、初めて店に訪れた際はグレイブの財布を遠慮無く取り出し、勝手に会計を済ませていたアリアが注文の品を運んで来てくれた。
すでに俺たちも常連になって居る事と年齢も俺とミーシャの間ぐらいだったはずだ。
性格も少し男勝りな点もあり、友人の様に気を使う必要が無く、話やすい。
「あぁ、こいつはな」
「おーぃ、アリアちゃ~ん! 注文したいんだけどー!」
「ったく、また聞かせなよ! はーい、今行くから待ちなって!」
顔立ちも良いため、この店の看板娘といったところで、わざわざ客もアリアに注文を取らせようとするやつが多い。
代表的なのがグレイブになってしまうのだが。
「そうだなぁ、じゃぁ最初はそのちみっ子の事を聞いて思ったことを言うとするなら、まぁ、いいんじゃねぇか?って感じだな。嬢ちゃんがってのもあるが、ジンよぉ。お前もなんだかんだでその子の事、気にしてやってんだろ、それで良いと思ったんだったら、世話してやってもいいんじゃねぇか」
グレイブは腕を伸ばしアオの頭を叩くように撫でる。
「……?」
「お、やっとこっち見やがったか。痩せてんだからもっとくって成長しやがれ!」
ガハハ、とても明るい雰囲気のグレイブに対してアオは少し首をかしげるぐらいであったが、食べろと言われたので食事を再開する。
最初に会った時に比べると随分と肌に張りというか。ただ骨の様な体つきだったのに、肉が少しついたなって思える。
「まぁ、明日になんねぇと結局どうなるのかわかんねぇけどな」
「そうだな~、あっちに連れてかれるって事になるんなら買っちまうってのはありだと思うぞ?」
「それは……まぁそうなんだけどな」
「も~、お兄ちゃん! こんな時までまたあーだこーだ言うつもり? アオは一緒に育ててあげようって決めたじゃない!」
酔いが回っているのか顔を赤くしているミーシャが大きめな声で突っかかってくる。
「ははは、そうですね~、前にグレイブさんだってそうしたんですし、ジン君も」
「あ? おっさん、お前奴隷なんて買ってたのか? そんなやつ1回も見たことねぇぞ?」
「あ、スズキ! 言いやがったな!」
「ははは、別にこの二人でしたら問題ないでしょ~」
グレイブはスズキの言葉に余計なことを言いやがってと小さくため息を漏らすと、酒で喉を潤し、「仕方ねぇなぁ」と言い
「ありゃぁ、2年前にお前と別れてすぐの事だな、どっちかってとあの時の依頼も俺にとっても色々あってよぉ、スズキには何度か話してる事だな」
「グレイブさんにも色々とあった時期ですからね~、ははは」
「何笑ってやがんだよ。 結論だけいっちまうと俺は奴隷を買った事があるって事ぐらいか?」
「そんなんじゃ何もわかんねぇよ。その奴隷を連れて歩いている所も、宿に訪ねた時にも見たことねぇし」
「そりゃ、もうそいつが奴隷じゃねぇからだわ」
「ってことは、グレイブさんは奴隷の子を開放してあげたんですか?」
「あぁ。高ぇわりにはすぐに手放しちまったがな」
「ははは、あの時の全財産だって言ってましたもんね~」
「あん時は、もうどうにでもなれって思っちまってたからな~」
「で、その奴隷を買って、やることやって手放したってか?」
「やることって、まぁ女だったけどその時に手なんて出してねぇよ」
「は? じゃぁなんで奴隷なんて買ったんだよ。お前らしくもねぇだろそれって」
「だーかーらぁ、そん時は俺にも色々あったって言ってんだろうが! また気が向いたら話してやるよ」
「変にもったいぶりやがって。 おっさんも奴隷を買ったことがあるから気にしねぇって事言いたかったのか?」
「違ぇよ、お前らがちゃんと考えて決めた事なら反対しねぇって事だろうが!」
「ははは、二人ともあまり熱くならないで、楽しく話しましょう~」
「グレイブさん! それでその奴隷の子ってどうなったんですか!?」
グレイブが奴隷を買っていたことは初めて聞いたが、何よりもその奴隷を解放してしまっているのが不思議である。
自分達も、同じような事をしようとしているが、本来の奴隷を買う目的としては……。
それに自分達と違って、有り金を、当時の全財産をはたいてまで買った奴隷をそんなに簡単に手放すなんて。
深く追求したくなったが、本人が別の時に話すと言っているのとスズキにも止められたので、違う機会にでも話して貰おう。
「あ~、ん~。まぁいいか」
「ははは、そうですよ~」
グレイブはミーシャの質問に関してどのように答えるか何故か迷ったのか、一瞬目線を逸らしたが、すぐに答えを伝える。
「俺が買ったって奴隷がアイツだよ」
グレイブは首をクィっと動かし、俺とミーシャの視線を誘導する。
先程一瞬目線を逸らしていた方向にだ。
「ぇ、ぇー!!」
「まじか、てかおっさん、あんな若い子よく手放そうと思ったな。おっさんもいい歳だろうが」
「おいこらチビ助、久しぶりに指導してやろうかぁ?」
いい歳には違いないのだし、年齢的にもそろそろだろう。
歳を取ってきても出会いがなく、独り身が嫌だと言う者は時折、奴隷の女を買って自分の嫁のようにする者もいる。
奴隷によっては、普通に仕事をさせていく内に徐々にそういった関係になる者はいるが、最初からそれ目的の者もいる。
家柄などを気にしない者や、噂されないように別の街で買った奴隷や、買った後に街を離れる者もいる。
「ははは、いやー。もったいないですよね~、まぁ、自分にはどのみち無理ですが、ははは」
視線の先には先程も料理を運んできてくれた、アリアの姿が映る。
「アリアさんってめちゃくちゃ優しくて、たまに一緒に買い物とかしてたんだけど、たしかこの上に住んでるって言ってたよ?」
「あぁ、奴隷としての契約を破棄した後、働き場としてここを紹介してやったんだよ」
「で、手は出してねぇと? 俺が言うのも変だが、かなりの上物だろ、奴隷ってなら結構な額になったと思うんだが」
「ははは、本当にしばらくお金に困っていたようですよ~」
「あぁ、かなり足下みやがって相場よりもかなり高くふっかけてきやがったからな」
「いくらだったんだ?」
「金貨で600枚」
「はぁ!? 明らかに高ぇだろそれ! そこそこの家だって買えるじゃねぇか!」
「だから足下見られたっていってんだろうが!」
「それにしてもだろ! てか、おっさんもよくそんな大金持ってたな、そっちの方が驚いたわ」
「俺が一番びっくりしたんだよな。今考えたら、アイツの為に運が味方してくれたって思うしかねぇがなぁ」
当時の依頼の時に、何かあったようでしばらく依頼を受けておらず、酒と賭博に明け暮れていたらしいが、不思議と金が増え続けていたらしい。
「奇妙な事もあるんだなぁ。もうそっちで生きていけばよかったじゃねぇか」
「はは! 俺もそう思ったんだが、あいつに金を使ってからはしばらくは種銭もねぇわ、久しぶりに行ったら全部消えちまうわで、勝ててた理由は、俺自身の為じゃねぇって今でも思ってるぜ」
アリアに目を向ける俺たちに映るのは、本当に楽しそうに仕事をしている姿のアリア。
あれで元奴隷だったっていうのが信じられないぐらいだ。
今はこれ以上話すつもりはないのか、グレイブは話を切り上げ、次の話を進める。
「でと、次はお前らと違って俺が今回の依頼で起きた話でもすっか。お前らの討伐の依頼じゃなくて、貴族の護衛依頼を他の冒険者と一緒に受けてたんだわ」
合計で5人も雇われており、冒険者の条件としても最低3等級以上ということで報酬も良かったんだと。
そこで合った出来事についてグレイブは語る。
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