41.



 次の日は昼間、ゆっくりとした時間を過ごしながら、少しでも『普通』に慣れて貰いたいとミーシャは思ったのか、アオと一緒に街を巡ることになった。


「最初に来たときみたいだね!」と言われたので「そうだな」と返す。




 ある程度回った後は、一度宿舎に戻り、休息を取り、この街に帰ってきたのだから、あの二人にも会えるだろうと思い、いつもの通っている【まーがるの食事処】にアオを連れて訪れた。




「おぃおぃ、チビ助がもっとちっちぇ子どもを連れて来やがったぜ、なんだぁその子どもは?」




 依頼を受けてない時以外は居ないことがないぐらいグレイブは、スズキと共にいつもの席で食事をしていた。





「そんな年端もいかねぇガキ引き連れて……おいぉぃ、いくら身長が低いことを気にしてるからっていって、自分より小さいガキなんてよぉ。スズキ、こんなやつことお前のいた場所でなんていうんだっけか?」



 アオをそのまま宿に置いておくなんてこともせず、一緒に連れて行ってきたが、アオの事についてとよりも、なぜか俺の性癖について、、グレイブは話を進めようとする。




「ははは、幼い男の子の事を好きならショタコン、幼い女の子の事を好きならロリコンですよ~。まぁ、こちらの世界では私の居た所に比べて、幼い子が好きだって人は少ないそうに見えていたんですが、まさかジン君がそうだなんて思いませんでしたよ~、ははは」



「おぃ、二人とも変に考えてんじゃねぇぞ」




 奴隷の手枷をはめられたままのアオを見ると俺かミーシャが飼い主と思ってしまっても仕方ない事かも知れないが、とりあえず俺が自分から買ってるなんて思われるのは心外だ。



 俺も聞いた事のない単語だったため、スズキが何を言っているのか一瞬わからなかったが、あちらの世界ではそういった意味があるんだろうと言うことが少し時間を置くことでわかった。



 俺は決して違う。



 ミーシャは明るくどうしてアオが一緒に居たのかと言うことを説明しながら、俺の無実を証明してくれた。


 アオに至っては何を言っているのか理解できておらず、席についてからも見知らない2人の前では殆ど動く事もなかったので、置かれていた食事を好きなだけ食べて良いといってようやく手を出しだした。



 運ばれてきた酒を軽く挨拶代わりに交わしながらミーシャと共にこの数日の出来事を話す。



「ははは、まさか私と離れてからそんなことがあったんですね~」




 とスズキは少し申し訳なさそうな声量で答えるが、スズキに何か原因があったわけでもないので「いや、俺もこんなことになるなんて思わなかった」と伝える。




「奴隷の子どもかぁ、チビに嬢ちゃんよぉ、お前らは結局この小さなガキンちょをどうするつもりでこんなとこまで連れてきたんだ?」





 グレイブが珍しくまっとうな事を言ってくるので、少し驚きそうになったが、自分の前まで思っていたことと同じで、結局アオのこれからについて訪ねてくる。





「それをね!」と初めて会ったときとは違ってかなり親しげに、自分の叔父に話しかけるような言葉遣いでミーシャはアオの今後についてグレイブとスズキに伝えていた。





 二人は酒を入れていたものの、驚いた様子ではなく、スズキは「ミーシャさんやジン君が決めたことなら良いと思いますよ~、ははは」と軽く受け入れていたが、グレイブは真剣な表情を浮かべながら一言一句聞き逃さないようにミーシャの話を聞いていた。




「……こ、れ。おいしい……で、す」



 アオにいたっては、初めて食べるだろう料理を一口分ずつつまみながら先程から今話しているミーシャでなく、傍観している俺に対して1品づつの感想を伝えてくる。



 といっても、ただただ美味しい、美味しいの言葉だけなので、不味いといった物をこれまで聞いた事は無い。




「……まぁ、嬢ちゃんがそういうなら、しっかり育ててやんなよ?」




 どうしてミーシャがアオを保護するようになったのか話をし終えたぐらいに、グレイブはミーシャの意志を汲みとったのかあっさりと承諾してしまう。



 もちろんグレイブの承諾なんて関係ないのだが、まるで安心したように表情を先程までと違い緩く、声も優しくなったように聞こえる。





「んだよ、グレイブ。奴隷なんて珍しくなかったろ? まぁ俺もこんな事初めてだけどな」




 いつも楽しげに話していたグレイブが真剣な表情をしてミーシャの言葉を最後まで聞き、そして出た結論に対して安心しきったような態度を取っていたので気になり聞いてしまう。



「あぁ!?まぁ、チビ助にはいっていいか」




 まるで自分の態度変化がバレていなかったように俺からの質問に対して、どうしてそんな質問をしてくるのかといった不思議そうな視線を向けてくるが、先程までの自分の行動を振り替えたのか、ハッとした態度の後、話を進めてくる。



「ははは、まだお二人にははなしてなかったのですね~」




 とスズキは何か知っているような態度を取るがグレイブは「―、ったく」と小さなため息を吐く。




「まぁ、今日来てくれてよかったな。おいジン。今から3つの事を話してやるよぉ。一つは、さっきの話を聞いて思ったこと。まぁこいつは俺の考えってだけだ。もう一つが、お前らがそんなドタバタに巻き込まれてる時にあった、俺の面白い出来事。最後は、ジン、お前にとっては嬉しいことなのかわかんねぇ出来事だ」





 グレイブは入っていた酒を一気に飲み干したと思うと、とても楽しそうに顔をにやつかせ「どいつから聞きたい!?」と尋ねてくる。



 俺としては、最初の二つだけでいい。


 3つ目に関しては、自分にとって絶対良いことではないと思ってしまったからだ。誕生日、本当か嘘かは別として、誕生日にしてもまだ先の事、他に何が嬉しい事として起きるのだろうか。




 ミーシャはとりあえず「気になります! 全部ぅ! ぁ、アリアさん、おかわりー!」と果汁酒をグレイブの勢いに乗るように入っていた分を飲み干してしまう。




 スズキはそんな俺たちの姿をハハハ、といつも通りの謎の笑いをカモしながら見つめているし、アオは料理を一つ一つ噛みしめるように味わい、無感情に近い表情も美味しい時は美味しそうに、苦い物は苦いしといった具合に顔に出ていたが、自分の話など本当に興味がないのか、料理に対してしか興味を示しておらず、目の前にいる二人についても全く目を合わそうとしていなかった。

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