43.
グレイブが言うには、貴族階級の者の主人が自分の娘と共に別国に見合いのために出発するにあたって、道の方まで魔獣がやってきて、被害が出ることも、単純に人が人を襲う、盗賊行為だってありえる。
なんたって貴族の乗る馬車だ。そこらにある馬車に比べて、立派な作りをしているだけあって、狙われやすい。
そして、別で護衛の者も乗ることができる馬車を1台用意されており、護衛のうち1人の枠は馬車を操れる事が条件となっていたが、追加報酬も貰えると言うことでその枠はすでに埋まっていたとか。
護衛を募集して集まったのは5人。
種族は、グレイブを合わせて人が3人に獣人が1人、エルフが1人で、全員男。
唯一目の癒やしとしては、貴族の娘さんだったらしいが、もちろん別の馬車の中で中も見えないように窓にはカーテンを掛けられていたので、最初と休憩の時ぐらいしか拝むこともできない。
「おいおい、護衛なのにどこに目がいってんだよ」
「男だけなんてむさ苦しいだけだろうがぁ! はぁ~、まぁいいから聞いとけって」
冒険者としての依頼だったので、もちろん服装はそれぞれで、がっちりと鎧を着ている者や、軽く部分的に守るための鎧を装着している者、まったく私服といったような者も時折いる。
一番気になったのは、集合時間にぎりぎりで現れた赤髪の男。
頭をかきながらアクビを隠す様子もなく現れた男。
年齢はせいぜい20前後。
『おい、君ぃ! 遅いじゃないか! 依頼主も他の人も10分以上は待っていたんだぞ!?』
一人の冒険者が、遅れてきた者に対して突っかかる。
『ん? 早くって、時間も間違ってないと思うんだけど、何怒ってるんだよ?』
遅れてきた赤髪も間違ったことは言ってなかったが、依頼主を待たせるという行為はあまり良いように思われないのも確かではある。
『まぁまぁ、落ち着けって、とりあえず赤髪の兄ちゃんは何にも持ってねぇみたいだけど大丈夫なのか? 大丈夫だったら依頼主の所に挨拶して出発しちまおうぜ』
そうやってグレイブは二人の間に入って、仲裁を行う。
赤髪の男は依頼主である貴族と、その娘と会話を軽く挨拶を交わしたと思うと、なぜかよく話し込んでおり、笑い声が聞こえてくる。
『なんでぇ、あいつあんなに喋ってんだ?』
『俺たちだって待ってんだけどなぁ』
『あの娘さん綺麗だもんなぁ、うらやましい』
さすが貴族の娘だけあってか、綺麗な顔立ちに綺麗な服装をしていおり、そこらの冒険者にしてはかなり高嶺の花の存在に感じてしまうのも無理がない。
しかもおかしな事に、その男は貴族の依頼主が乗る馬車に同乗する事になったそうだ。
『どうしてあいつだけなんだ?』
赤髪の男に最初につっかかっていたヤツは不満を漏らす。
もちろん、そいつだけでなく皆が不思議に思っていたが、より近くで守るための新編警護役としてだと依頼主から説明されてしまっては仕方ない。
馬車は娘さんの体調を考慮してかかゆっくりとした速度で走る。
それでも旅は順調に過ごせていた。
邪魔をする魔獣が現れた際も、下位の部類に属する魔獣ぐらいだったので、追い払うか、食い下がらないなら討伐をして進んでした。
しかし、赤髪のやつは馬車からカーテンを上げて外の様子をうかがうぐらいで、基本的には外に出ずに中で会話を楽しげにしているだけで、魔獣が現れても出てこようとしなかった。
『なんであいつは出てこないんだ?』
『あれで報酬を貰えるのか?』
当然の反応だろう。
3日目になり、事件が起きたのだ。
道中、2等級に分類されているアルギクルルガと呼ばれている魔獣。
4本足で動く小型の龍のような生物。
大きさは伏せてる状態でも人の身の高さほど大きい割に、柔軟な動きをして、様々な攻撃を行う。
噛む力も強く、何よりも毛を一時的に硬質化することができるため、危機感を感じた際に瞬間的に硬質化して損傷を抑えるため、仕留めるのにもかなり面倒な相手ではある。
1対1で戦った場合は、グレイブでも油断できない魔獣。
時間を掛けながら、慎重に戦う事によって討伐するが、個体的に中型~大型の魔獣。
戦闘をするなら2人か3人で戦う事が推奨されている。
誰かも知らない冒険者がその魔獣から懸命に道まで逃げ込んできたので近くにくる最中、うなり声が聞こえてくる。
普段は単体での行動を好む魔獣のはずだが、何の因果か3体ものアルギクルルガ連れてくるのであった。
『助けてくれぇええ!!!』
こちらとしても戦闘を避けたいのだが、馬車を捨てて森の中などに逃げるのならまだ希望はあっただろうが、馬車で逃げたとしても標的をこちらに向けられたら時期に追いつかれる。
『戦闘用意ぃ!! でてこいぃい!!』
『いくぞぉおお!!!』
『おぉおぉぉ!!』
依頼主の近くで戦うのは危険なため、グレイブ含む4人は魔獣に向かって戦いに挑んだ。
「おいおぃ、3体って事は1等級相当じゃねぇのか?」
「だな、依頼の難易度的にかなり厳しいが、逃げてきたヤツを含めて3等級3人に2等級2人だったからな、なんとか戦うって事は出来ていたが、俺も3体同時ってのは初めてだったからな。さすがにやべぇって思ってな、逃げるための作戦も同じ2等級のやつと話ながら対応してたんだ」
「あれ? 赤髪の人はまだ出てこないんですか-?」
「俺たちも最初は出てきて、さすがに一緒に戦ってくれるって期待してたんだけど、対峙して少したっても、同じ冒険者が声を出してもなかなか出てこないから期待はできねぇって思ってたんだよ」
「それこそ本当に意味ねぇじゃねぇか」
「まぁまてって、俺たちももう厳しいって時になってそいつはようやく出てきたんだよ」
『おーぃ、お嬢さん、いい加減離してくれって。あいつら死んじまうって!』
『いけません! ここから離れたら誰がお父様と私を守ってくれるんですか!』
『む、娘よ! いまはそんな時ではない! これ! 早く馬を起こさんか!』
『だ、旦那様! 今しばらくお待ちください!』
馬車の扉を開けてようやく見れた姿は、貴族の娘さんに服を引っ張られて出るにも出れない様子の赤髪の男だった。
『おぃー! もう限界だ! もう逃げねぇとやられちまうぞ!!』
3等級の者が3人で1体、あとの2体は2等級の者がそれぞれ負担していたが、3等級の者も慣れない魔獣との戦闘のため、かなり苦戦している。
『あー! ほら、あいつやられちまうから離してくれよ。すぐやっつけてくるからな?』
『だめです!!』
『これ! 離しなさい! こちらの方はあの……』
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