39.
午前中のうちにミーシャとアオは出て行っていき、それから帰ってきたのは晩飯も大抵の人が済ませた時間帯だった。
「ご飯はもう食べてきたから! アオとお風呂入ってくるから着替え取りに来ただけだから!」
「おい待てってミーシャ!」
ミーシャはアオと出て行ったっきり、なかなか帰ってこないでいたので、久々に完全に一人の休日を過ごすことになった。結局、やることがなかったので腕立て伏せ等の運動を行いながらアオの事についてどうするべきか考えていた。
だからもう一度話そうとしていたのだがこちらの話を無視するように1回帰ってきたと思ったらそのままアオを連れて風呂に向かった。
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「で、お兄ちゃん。何か言うことあるの?」
風呂を済ました後、食事は外で済ましていたようで俺だけ別で食事を取らなくてはならないなって考えていたとき、先程自分から話しかけたのにあっさりと無視されてしまった事により、会話する機会を伺えてなかったのが続いていたが、アオがベットに座りながらウトウトとしていたらようやく会話のきっかけをあちらから作ってくれた。
「ミーシャは結局アオをどうしたいんだ?」
「もう少し一緒にいてあげたい、できるなら一人でも安心して生きていけるぐらいに」
ミーシャも一日使って考えていたのか、それとも午前の会話の時にもう思っていたことなのか、全く戸惑う事のなく、即答で返してきた。
「酷い扱いをされてる奴隷はアオ以外もいるぞ? それでもか?」
「それでも」
「どうして?」
「関わっちゃったから。関わって、話して、アオには誰か必要だって思ったから」
「話したって、アオはどうせ自分からは何も話してないだろ」
「それでもアオとはもう関わっちゃったから」
「…………」
「アオだけって思ってても、違う人にも同じ事いっちゃうかもしれない。それでも今は目の前のアオの事についてだけ考えたの。だから、アオは助けてあげたいの。お兄ちゃんがダメって言うなら私は私だけで頑張ってアオを育てるよ!」
「バカだろお前。――はぁ。もうわかった。わかったから。お前一人の収入で2人分の生活費稼ぐなんてできねぇよ。とりあえず、しばらくはアオも連れていくか」
「本当に!? お兄ちゃん、本当にいいの!?」
「だぁー! 本当だって! その代わりこれが最後! 次同じ事あっても絶対に許さねぇぞ?」
「わかった! わかったよ! よかったね、アオ!」
「本当にわかってのかよ!」
激しく言い合うのも仕方ない事だと思っていたが、ミーシャの目が、表情がぶれずに語りかけてくる。そんな意志を固めた態度を取られてしまうと、自分の思っていたことを二の次にしてしまい、許可せざるを得なくなっていた。
許してあげたいと思ってしまった。
きっと、俺も誰かを。
「その代わり条件はあるからしっかり聞けよ?」
アオは主人が死んでいたとしても奴隷は奴隷だ。
この場合逃亡奴隷になってしまうのかどうかが分からないため、レコアンブルに戻り次第、奴隷商に訪ねてどういった扱いになるのか聞く。
逃亡奴隷や他人の奴隷を匿った、攫ったと思われないようにするためだ。
変に疑いを掛けられてしまうと街で過ごすにも、冒険者として暮らすのも難しくなる事があるからだ。
ミーシャは謎の自信があるのか、嬉しそうに「大丈夫! きっとなんとかなるよ!」とアオに近づきながら良かったねと言いながらアオに回復魔法をかけていた。
次の日の朝には村を出た。
アオの一見がなければ、依頼を受けた村から乗っていた馬車によって2日もあれば帰れていただろうが、随分と遠回りしてしまった。
アオは街に向かう最中はずっと馬車の出入り口や、向かう先行先の背景を見続けており、会話は殆どすることができなかった。
いまだに心を開いていないのだろうか、これまでの環境のせいなのか会話が常にこちらからの質問だけで、あまりにも内容がなさすぎる。
それでもミーシャは質問の内容の事を丁寧に教えようとしていたが、首をかしげるばかりで、街の壁が見えてきたぐらいからようやく「……あれは……なん、です……か?」とアオから質問をしていた。
街に入る検問所ではアオの事について軽く質問され、事情を話すと時間を少し取られた後、一検問所の担当員が呼んだ別の担当者だろうか、その者と共に奴隷商の所まで行くことになった。
「アオ、ここがレコアンブルだよ!」
「……おお、きい……です、美味しそうな、匂いも……」
「あははは、ご飯も美味しいんだよ! あとで一緒に一杯食べようね!」
「街は初めてか?」
「……ま、ちは……村より人が、いっぱいいるって、いってた……です」
「そうだよー! 何百倍も人がいるから賑やかなんだー」
アオは小さく口を開けながらおそらく初めてに当たるであろう街並みの背景を楽しんで……いるのだろう。奴隷商の場所までは監視付きになってしまっているので、アオの処遇が決まったらそれからはミーシャに任せておこうか。
匂いに釣られて露店の前で立ち止まりそうになるアオの背中を何度も押しながら奴隷商の場所まで目指す。
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