38.
どれだけだろうか、しばらく大きな魔獣の声やモノ達の声が聞こえていたのに、随分と静かになってしまった。
鎖の外れるような音も聞こえる。
もしかして、これが死んだって事なのだろうか。
痛くもない。
こんな事ならもっと早く死ねばよかった。
それでもしばらくは雑音のような音は聞こえる。
眠っているときと違って、感覚はっきりしている。
急に不安になってきた。
本当に死んだのだろうか。
もしかしたら死んだというのは、ずっとここに感覚があるだけなのか。
それは、痛いとは別の怖いだ。
目を徐々に開けると、屋根は潰れていたため、明るい光が途端に目に映る。
先程までいた馬車の中。
「……しんで……な、ぃ?」
ゆっくりと立ち上がろうとしたが、足が震えてこけてしまった。
どうして震えているんだろう。
手を床につけながらそんな事を考えていると自分達が乗り入れた、本来の出入り口から一人の女の人が入ってきて声をかけてくる。
こんなに元気な女の人を見るのは初めて。
何を言ってるのか聞こえるけど、声がすぐに出てこない。
「ここは危ないからとりあえず出ようか! おいで!」
女の人は手をさしのべてくれる。
自分と違い綺麗で白い腕。
手を伸ばす自分の腕は、細く骨の用で、指の形もおかしく、爪も剥がれて小さな爪が出来てきており、火傷の跡が目立っている。
手を伸ばそうと思うが咄嗟に止まってしまう。
この人はなんだろうか。
優しくしてくれるのか。
どうせ、嘘なのだろう。
あとで殴ってくるのだろう。
自分に、奴隷に、モノに優しくする必要なんてない。
怖い。
もう嫌だ。
他にいたモノ達はどこにいったんだろうか。
中途半端な所で止めていた汚れた手を女の人は何の戸惑いもなく、握りしめてくる。
「ほら、いこ! 外でお兄ちゃんも待ってるんだ!」
外には魔獣の死体。
自分を食べてくれなかった魔獣の死体。
それに潰された馬車。
見たことのある服をした男が下敷きなっている。
自分の事をよく痛めつけていた男の潰れた体。
どうして自分より先に死んでいるのだろうか。
どうして、殺してくれなかったのだろうか。
引っ張られた先には自分よりも背丈のある男の人が立っており、色々と聞いてくる。
怖い。
この人もどうせ。
それから、なぜか手を握られながら村という場所に向かった。
ほっといて欲しかった。
人は怖い。
モノの自分にとって人は怖い。
名前というものをつけられた。
自分以外のモノには名前があった。
ない子もいた。
不思議じゃなかった。
これだけ歩いたのは始めてかもしれない。
途中で疲れて男の人の背中に乗せられたが「くせぇ」と呟かれた。
村というのは、何度か布越しに見たことがある。
人が一杯いてうるさい所。
自分たちには関係ない場所。
だけど、唯一の風景としては……。
宿という場所。
寝泊まりするだけの場所らしいがオカシイほど綺麗な場所。
部屋。
これが部屋。
風呂というものに入れられた。
寒い季節というときに、息をするともやもやと出ているあれが目に一杯映る。
しかも、空気が暖かい。
男の人に頭と背中を洗われて自分で体の前を洗う。
背中が温かい。
話で聞いたお湯というやつ。
ご飯以外で温かいものははじめてかもしれない。
温かい水が一杯ある中に入れと言われた。
どういう事だろう。
水は飲むか体に浴びて汚れをとるだけではないのかな。
わからずに立ち尽くしているとつかみ上げられて足からゆっくりと入れられる。
火傷の跡がひりっとするが温かくて気持ちが良かった。
いつの間にか寝てしまっていたのか、持ち上げられながら大量のお湯の中からすくい上げられた。
髪を男の人の手から浮き出た模様から、さらに出てくる風によって乾かされる。
これが魔法っていうやつだろうか。
服。
こんなに綺麗な服をきるのは、初めて。
男の人に連れられて、部屋に戻る。
向かう道、ご飯の臭いがいっぱいする。
あの男達がよく食べていたものと同じ美味しそうな匂いが鼻に入ってくる。
部屋には、女の人が座って待っており、ご飯を食べるらしい。
とても量があり、美味しそう。
これなら3日、ゆっくりと食べれば5日はもちそうだ。
まぁ、自分には関係のない話。
先程のお湯というものを飲んでおけばよかった。
どうしてかご飯を渡される。
なんの罰だろうか。
持たされる。
手を出せば殴られるだろう。
こんなに美味しそうなご飯を目の前にしながら。
ここ最近で一番酷いと思った罰かもしれない。
座れと言われて座ると驚かれてしまう。
何が悪かったのかわからない。
椅子に座らせられる。
片手で数えるぐらいしか座ったことないから、慣れない。
2人はご飯を食べており、自分はなぜかご飯を見つめ続けさせられる。
これは自分の分らしい。
自分にくれるらしい。
嬉しい。けど絶対に何かある。
ここまでされるのが怖い。
それでも食べなかったら大きな声で怒られた。
怖い。
女の人が近くによってきて食べていいと言ってくる。
怖い。
けど、顔に出したら殴られる。
もう食べよう。
ゆっくりゆっくり、残して明日の分にして、ならパンを半分だけたべて、シチューはゆっくりと飲んで、他はもう次の日まで置いておこう。
すぐに食べてしまうと無くなってしまう。
それでも怒られた。
何か悪いことをしたのだろうか。
無理矢理お肉を口の中に入れられる。
残しておきたかった。
お肉なんていつぶりかわからないのに。
口の中にはお肉の汁が広がる。
美味しい。美味しい。
それでも次々と口の中に入れられる。
何か色々と言われている。
喉が詰まって苦しいけど、美味しい。
こんなに勢いよくご飯を食べたことなんてあっただろうか、お腹はいつも空いている。もっと、ほしい。
ただ分かることは今は食べて良いと言うことだけ。
なら喉が詰まろうが、いい。
いま、ご飯をとってくるやつはいない。
自分の分がなくなるとすぐそばには女の人のやつがある。
あとで殴られてもいい、もう殺されてもいい。
その代わりお腹いっぱいになって死にたい。
寝ていた。
お腹いっぱいになって寝ていた。
知らないほど綺麗でふかふかなベットに寝かされていた。
なんでこんな事をするんだろうか。
昨日着せられた服は食事の汚れがついている。
怒られる。
そう思うと咄嗟に脱ぎ、唾をつけながら擦るが汚れは取れない。
「……こわ、ぃ」
それでもやっぱり、怖い。
変な違和感が襲ってくる。
昨日までピリピリしていた体の傷が痛くない。
指の形がだいぶんと直っており、爪も生えている、火傷の跡も少しだけ、ほんの少しだけ直っている気がする。
何が起きたのだろうか。
「起きたのか?」
男の人が起きてくる。
布を擦る音で目をさましたかもしれない。
怒られる。
男の人は余っていたのか、自身の綺麗な服を放り投げてき、着るようにいって、汚してしまった服の洗濯をするように教えてくれた。
朝食、女の人も起きており。
傷の話、目の話をされる。
また目の話。
そして包帯じゃなくて綺麗な布を巻いてくれた。
ご飯をくれた。
また量のあるご飯。
食べないと怒られると思いしっかりとご飯を食べる。
これなら何日もつだろうか。
男の人、お兄ちゃんと呼ばれている人と、女の人、ミーシャと呼ばれている人が言い争いをしている。自分の事についてみたい。
どうして自分のことでそんな事をいっているのだろうか? 不思議でついていけない。
こっちに同意を求めているようだけど、ついていけない。
ご飯は美味しい。
美味しくて泣きそうなのは初めて。
昨日で死んでもいいって思ってた。
もう今日死んでもいい。
半分を食べたぐらいの時に等々に大声を出したミーシャという女の人。
その人に腕を捕まれて立ち上がらせられ、何か言われていたが部屋の外へ引っ張られていく。
ご飯、まだ残ってたのに……手を伸ばしても届かない。
もう少し食べたかった。
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