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それから少し木陰で休憩を挟みつつ帰路につく。
依頼は無事達成。本日2度目の冒険者組合につくと達成を同じく報告為ている者、また新しく依頼を受ける者、食事を取る者とあまり朝の光景と変わらずと行ったところ。
ジンは受けはしないものの依頼の張られている掲示板を見ているからといってミーシャ1人に依頼の報告を任せる。
「一緒についてきてくれないの?」
「最初はなんでも自分でやってみた方が良いって」
これから何度も行う作業、だから初日に全てこなしていると自信に繋がるだろうと考えている。
「おい、なんでてめぇがこんなとこにいるんだよぉお!」
「ん?ブルドッキか」
掲示板を覗いていて気がつかなかったが先人の中にあのブルドッキが紛れており、声を荒立てながらこちら威圧してくる。
久しぶりの再会で、しかもあの時もそんなよく見てなかったんだ。さすがに正面からじゃないとすぐに誰かなんて気がつかない。
「お前まだいるつもりかぁ?」
「安心しろよ。明日か明後日には出て行ってやるよ」
「っは! 清々するぜ、お前の顔なんて見たくねえからな……その割には依頼受けるつもりかよ」
「いーや、今はあいつ待ちだ」
そういって報告の列にてもう対応されるであろうというミーシャの方へ顔を向ける。
視線からブルドッキもジンの顔を向けた方角に視線を流すと眉間にしわを寄せて再度ジンの顔をのぞき込む。
「―んであいつがいるんだよ!」
「今日からあいつも冒険者の一員だ」
「はぁ? まさかお前あいつ連れてくつもりかぁ!?」
「意外と鋭いな、別に俺はそんなつもりなかったんだけど着いてきたいって行ったからな」
「……いーや、駄目だ。連れてかせねぇ」
「は? なんでお前がそんなこと言うんだよ」
「どうせ金髪、お前が無理矢理連れてこうとしてんだろ?」
「だから違うって言ってんだろ? あいつが自分から言ってきたんだって」
掲示板の前で言い争いを初めてしまっている為数名の視線が集まって来る中、ミーシャが報告を終えて近寄ってくる。
「お兄ちゃん終わったよ~、あれ? ブルドッキ君だ、何かあったの?」
「おいミーシャ、お前こいつに無理矢理連れてかれそうなんだろ? 断れよ」
「なんの話?」
ここまでブルドッキがミーシャについて絡んでくる理由は……やっぱりそうなんだろうか。
だけどこんな場所でいってやるのはいくら過去に嫌いだったからって可哀想……とも思わないけど、ミーシャの面子に関わるのだし辞めておこう。
「ミーシャ、終わったんなら帰ろうぜ」
「おい! 待て!」
「とりあえずお前も場所考えろよ」
「んなことどうでもいい……コラ! おいてくな!」
ミーシャの腕を引っ張りながら出口に向かうジン。その後を追うブルドッキ。
外に出たところですぐに捕まってしまうのでラチがあかない。
ミーシャを少し離したところで止まらせ、ブルドッキと対面する形で立ち並ぶ。
そして小さな声で「お前、ミーシャの事好きなんだろ」と呟く。
「―っ!お前なにいってんだコラ! 舐めてんじゃねぇぞ!」
ジンの胸ぐらを掴むような形になりながらも少しばかり顔を赤らめているのか、まるで図星をつかれたといった表情を見せるブルドッキ。
ミーシャは淡々といった感じに駆け寄ってきて2人の間に入り引き離す。
「ブルドッキ君いきなりどうしたの! お兄ちゃんに酷い事しないでよ!」
「そうだぞ、酷い事すんなよ?」
「お前ほんと舐めんじゃねぇぞ!? ぜってぇぶちかます! 今から広場に来やがれ!」
「はぁ? 何するつもりだよ」
「喧嘩に決まってんだろ? 昔みたいにボッコボコにしてやるからな!」
「なんで喧嘩すんだよ」
「そうだよ、なんで喧嘩なんてするの? 良くないよ!」
「ミーシャは黙ってろ! 俺と金髪野郎の喧嘩だ!」
「ほっといて行こうぜ」
無駄に体力使う必要もない。ブルドッキ自体体格の良い奴でもないし、わざわざ喧嘩する理由がこっちにはないんだから逃げた者勝ち。
ミーシャは「いいの?」と問いかけて来るが「いいって」と伝え帰路につくため歩みを進める。
それが原因でブルドッキは更に怒りをあらわにしながらジンに対して、昔の事を含めて弱虫だ、雑魚だとか貧弱、挙げ句には捨て子とかを喚き散らす。
それにミーシャが何度か振り返って文句を言ってやろうとしているのをジンが手を引いて阻止する。
本人の悪口は、予想よりも効かないものである。
そう本人に対してだけの悪口なら、本人が我慢すれば良いだけだから。聞き流せば良いだけだから。
「お前の家族も気持ちわりぃんだよ! 昔っからそんな金髪野郎誰が見ても家族じゃねぇってわかってんだよ! お前の親も頭オカシイんだよ!!」
本来好きな子の家族に対してこんな暴言を吐くなんて印象を悪くするだけ。だけど咄嗟に思ってしまった事が口から零れてしまうのが言葉というもの。
発言している最中で後悔していても最後まで口から零れだしてしまうのも言葉。
その言葉にミーシャは限界を迎えた。
ジンの悪口だけでも許せないと思っていたのだが、それでも制止していた。本人が我慢しているのだから自分も我慢しなくてはいけない。
自身の兄だけでなく自慢の両親まで馬鹿にされた。
もう抑えることはできないと後ろを振り返る。
だけど振り返ると同時にミーシャの横には人影が通り過ぎていた。
昨日の対決では手を抜いていたのだと感じるほどの初動の速度。
一瞬は何が通ったのか分からなかったぐらいに。
「―ッヒ!」
かなりの速度で近寄ってくる自分よりも遙かに背の低い物体。
それはその言葉と同時にすでに目前まで迫っていた。
体が一瞬迫ってくる物体を判断するために硬直するも、このままではやられると思い拳を正面から来る物体に対して振るう。しかしその拳は虚しくも空気に触れるだけで物体に当たる感触はなく、逆に強い感触は自分の腹部から全身に伝わる。
ブフッ、先程までと打って変わり情けない言葉が口から零れ、痛みに耐えれず咄嗟に膝を折り腹部を押さうずくまる。
うずくまった先にも目を開けると誰かの足下が視線に入る。顔を上げると予想通りの人物がそこにはいた。
先程、冒険者組合の時に会った時の気が抜けた表情でなく、敵意ある視線を向けながら見下すジンの姿がそこに。
「俺の事はいくら悪く言ってもいい、別にそんなことで文句も言わねぇよ。でもよ、家族の事は許せねぇ。俺を本当に我が子の用に大事に育ててくれた両親だぜ? 帰ってきてからお前達に会った後もミーシャは変わらず俺の事をお兄ちゃんって呼んでくれてんだぜ? この年になりゃ嫌でも俺が本当は血が繋がってないなんてわかってるってのにさ」
ジンはうずくまるブルドッキと同じ目線になるようにしゃがみ込み言葉を続ける。
「それなのにお前はまだ俺の家族を悪く言うのか?」
「ってぇ……んだ……よ! 俺の何が悪いってんだよ!! 本当の事だろが! 周りの人間がみんな思ってんだよ!」
相変わらず腹部を押さえながら、それでも痛みに耐えながら苦しそうに言葉を発するブルドッキ。
「それでも俺は自分の家族を悪く言うやつは許せねぇよ。昔と違うんだよ。今なら俺はお前に負けねぇ」
「くっそったれ! なんでそんなに強くなってんだよぉ!」
「俺なんて別に強くねぇよ、ただお前が弱いだけだ!」
いつか見返してやる。そんな気持ちも冒険者になるきっかけの1つでもあったろう。
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