3等級冒険者は5等級依頼を受けることができない。


 受けることはできないが、同行する。すなわち見守りをするということは禁止されていない。





「こいつでいいな」



「こんな簡単そうなやつでいいの? よく売ってるやつでしょ?」




【5等級依頼】ルルン草 200g 納品


 報酬-銀貨2枚  契約金-銅貨2枚


 備考:200gごとに同額の報酬 最大5kg分まで対応





「加工して炊くといい香りがするってやつで有名な草だな。出てすぐの所にたしか生えている場所あったろ? とりあえずこの紙とって受け付けに行ってこいよ。契約金分の金はあるか?」



「銅貨2枚なんて余裕でもってるに決まってるよ! こんなに低いならわざわざ取らなくても良いと思うんだけどな~」



「決まりでそうなってんだから文句言わずに行ってこいって」





 ミーシャは掲示板の端の方に張られていた依頼の書かれた紙を外し受け付けの窓口に並ぶ。初めての事なのであたふたと戸惑っているようだが、受付の者が親切に丁寧に教えてくれているみたいだ。



 依頼書の作成と冒険者証の提示、あとは自己の署名と契約金を支払うといった作業だけで依頼は受けることが出来る。




「受けてきたよ~! 初めての依頼だからワクワクしちゃうね!」




 意気込むミーシャ共にジンは冒険者組合、そして国を出る。




 ルルン草は街を出てすぐにある森林に良く生えている珍しくもない草。


 森林の中には別の何かを探しているのか遠くで人の姿もちらほらと見える。





 この付近では5等級依頼、すなわち採取系の依頼が多いということだ。


 ジンが帰省する際の護衛依頼でも、付近には比較的魔獣が少ない。





 森林も奥の方まで入っていけば魔獣がいるが、この辺りまでは滅多なことがない限り近寄ってこない。


 旅立つ前にも普通に来る事もできていた場所である。




 国の周辺にある壁を離れ、結界の外に出たとしても必ずしも危険という訳でもない。


 近隣は比較的安全。



 強い魔獣も今いる森林方面では奥に進んだところでせいぜい3等級依頼に指定される魔獣までだろう。


 だからといって油断は良くない。ふとしたときに牙をむくのが自然なのだから。




「ルルン草ってこれであってるっけ?」



「いやそれただの雑草」



「あれれ~? こんな形じゃなかった?」



「全然ちげぇよ、依頼書にも特徴と絵書かれてるだろ? 良く見直せって」



「でもお兄ちゃんよくすぐわかったね? どうして?」



「……慣れ」




  最初のうちは仕方ない事だが、次第に見分けが付くようになってくる。討伐の依頼だけでなくこういった事を積み重ねていかないと食うに困るのが5等級冒険者。



  最初のうちは両親から貰った金で不自由なかったはずが金をある程度使った後に盗られたんだ。





  そうなるとかなり貧相な食事になってしまう。



  宿に泊まるってのも一苦労だから格安で教会の施設、すなわち雑魚寝部屋に入ったこともあるが、あそこは酷い。なによりも臭いが。


 風呂すらないからそりゃみんな臭い。だけど外で寝ると起きたときには何がなくなってるかなんてわかったもんじゃないから仕方なく泊まったこともある。




「討伐の依頼なんて初めは上手くいかないし、怖いって思っちまうもんなんだよ。だから少しでも金になりそうな草とか花がありゃ回収するだけしておいて冒険者組合に行った後依頼があればその場で。なけりゃ冒険者組合にかなりの安値で売っぱらう!」



「それってなんか冒険者って感じしなくない?」



「割と多いやつらがやってるぞ? 俺も最初は気がつかなかったけど、出たついでに!ってのでやってると積み重なるんだよ。まぁ、やってるっていっても4等級までかな。それ以上なら報酬金だけで食っていけるし、それなりの場所にいくから量はなくても高く売れる収穫できるのとかもあるからな~」



「結局なにか拾って帰るって事じゃん!」




 魔獣から取れる素材で売れるものだって決して高価ではない。 


 売れずに討伐だけの魔獣もいれば、素材回収も兼ねての討伐依頼もある。


 それなりの価値があるものは量が少なく。量があるものは安く買い取られる。





「生きる上での知恵! あと草についてる土は払えよ、 土つけたままだと量に誤差がぁ!とかいわれて安く買いたたかれる時もあるからな」





 そうこう文句を言っているうちにルルン草を見つけ収穫していくミーシャ。それを近くで手伝う事なく見守るジン。





「こんなもんかな?」



 用意していたかごの中に少しの量が集まった。



「ん~、だいたいで5、600gぐらいってとこかな」



「こんなに時間もかけたのにそれぐらいしか集まってないの!?」





 移動してきて2時間あまり。


 ひたすら草をかき分け、見比べながらあれだこれだと良いながら集めていたミーシャにしては時間は長く、そして量は少なく感じる。






「だな、銀貨にして6枚ぐらい。昨日の2人分の昼飯代でトントンってぐらいだな」



「うぅ……お金を稼ぐのって大変なんだね……」



「どうする? 戻るか?」



「なんでお兄ちゃんはそんな元気なの!」



「俺はミーシャに着いてってるだけで別に何にもしてないからな。そりゃ疲れんわ」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る