十六



 リムル、タケルは寝ていた大人も起こして、ケイリー宅、普段いきそうな場所、村の中を隅々まで探す。




「私の子はどこ!旦那は! どうして私だけこんな目に遭わないといけないのよ!」




 ケイリーの母親は、涙を流しながら周辺に所構わず問いかける。




「リムル、あなたもどうしてうちの子の目を離すのよ!」



「そんな! わたしだって起きたらケイリーがいなくなってたんだからそんな言い方ないじゃないですか!」



「いいえ! あなたがいるから、わたしは夫だけの心配でよかったのに……こんなことになるならアナタなんて信じずに私が側にいればよかった!あぁ!」




  ケイリーの母親は、自分も悪いことをわかっている。それでも周りに当たらなければ今の気持ちを吐き出す手段が見つからない。



「もういいです! 私が2人とも連れ戻すわ!」




 自宅から持ち出していた鉈を片手に他の大人達の制止を振り切り森の中に入っていくケイリーの母親。それに釣られて何人かの大人達が後を追う。




  ケイリー宅から、一昨日にホーンラビットを捌いた際にも使っていたナイフが無くなっている事から、一度帰宅したあと、森の中に入っていたんだろうと予想がたつ。




「わたしだってケイリーの事心配なのに、どうしてあんな事言われないといけないのよ!」



「リムルちゃん、ケイリーが他にいきそうな所とか思い当たる節はないの?」





 タケルにとって、ケイリーはサーモルよりも長時間一緒にいた年下の頼りになる友達、少しでも自分が悪いならなんとかしたい。




「村の周辺や、東通りの結界周辺なら、もう誰かが見つけていてもおかしくないとは思うの……タケルの方がここ数日一緒にいたでしょ? わたしも探しに行きたいけど、他の子達がいるし……」




  リムル自身、捜索に加わりたいが、他の子供達もこの騒ぎの為、起き出してしまっている。それを引き留めるのに一番の適任がリムルな時点で動けない。




「俺もう少し辺りを探してくるよ!」



「タケルも森の中は危険かもしれないから入ったらダメよ! 外は大人に任して、村の中をもう一度お願いするわ」




わかった。



 そう言い残して、もう一度村の中を捜索する、何人かの大人とすれ違うも、全く進展のない。

 時間にしてあまり経っていないはずなのに、長時間過ごしたような感覚に陥る。







  村には2カ所の出入り口がある。1つが西口、現在結界の修復作業をしている道につながる出入り口。


  もう1つが東口、こちらから出ると結界の破損している場所までかなり遠回りしてしまう、そしてこんなときだからと1人は見張りとして立っている。





  普通に考えるなら、西口から出て行き、父親の捜索に向かうだろうが、警備の手薄なこちらからでたのではないだろうか。


  少しでも可能性があるのならと向かうが同じ考えをしているものもおり、そう思い見に行くも、別の人が見張り役と同じような会話をしていた。






 ケイリーに繋がる手が掛かりは何かないのか。




 両手で顔を押さえ、少しでも何かないか、今日の昼から、最後に喋った会話、表情、今の現状、周辺状況、自分の失言、ケイリーの気持ち、母親の気持ち。




 最初は頭の中がグルグルと回る感覚。


 一度考えたこと、そしてどうしてこうなってしまったのか、元の世界に今からでも帰れないのか、はじめてムウラ、リムル、サーモルに会った時のこと。


 今と全く関係ないものまで含み、ここ数日の事が脳裏に流れる。




 時間にして1分も経たないだろう。


 不安な気持ちがいつの間にかなくなっていた。





 タケルは不思議な感覚に包まれる。


 妙に頭の中がスッキリしだした。





 声を出しながら、両手で顔はまだ隠したまま。


 深呼吸を行う。


 スー、ハー、スー、ハーと音を鳴らし。





 両手を顔から離して目を開ける。






  先ほどまでなかった薄く光る糸のようなものが漂っている。糸は長く、どこまで続いているかわからない、フワフワと浮かんでおり今にも飛んでいってもおかしくないぐらいの浮遊感。




手を伸ばすも掴むこともできず、触れることもできないただ見えるだけの物体。





  タケルにとっては不思議な感覚ではあるものの、この糸の先に何かある。それだけはなぜか確信を持つことができた。





  糸をたどる。村の中を少し徘徊すると村の北に当たる所まで来る。糸の先は、誰かの家の裏で、荷物が大量に柵越しに置かれているが僅かな隙間に糸は伸びている。






 ゆっくりと近づく。





「ケイリー?そこにいるのか?」





  声をかけるも返事はない。荷物と荷物の間に顔を入れ除く先には、人が這うと通ることが可能なサイズの穴が空いている。




 糸はその穴から外に伸びている。




「まさかここから外に出たんじゃないだろうな」




  本来ならここで一旦他の人を集めて、この事を報告した後に追うのが正解なのだろうがタケルにはそれが叶いそうにない。周辺に大人がいないからではなく、今この糸をたどることを止めてしまうと、もう追うことが出来なくなるからだ。


  現に、いままで辿ってきていた道にあったはずの糸が見えなくなっており、今目の前にある糸ですら透けてきているからだ。




 それでもここから出て行ったって事を教えることはできた、そうするべきだったのだろう。




「こうなりゃ、行くしかないよな。待ってろよケイリー」




 自分の言葉がきっかけになってしまったのではという罪悪感は消せない。


 それがいまタケルを動かす原動力になっている。




  荷物の山の中にむき出しではあるが、危なくないよう端に置かれていた小型のクワと魔石ランタンを拝借。先に道具類を通し、タケルも策を穴からくぐる。






外と中では柵の一枚というのに随分と雰囲気が違う。


夜の森の中は、静寂に包まれている。




 月と星の輝き、森の奥へと続く細く弱々しく光りながら浮遊する糸のようなものを頼りにタケルは足を進める。

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