十五
一日目の夜。
大人達が数名村の中にいないが、これといったこともなく無事に過ぎていく。
問題が発生したのは次の日の昼時だった。昨晩は、遅くまでサーモルも修復作業に当たっていたが、一旦休憩のため戻ってきており、大人達の見張りの交代時間に事件は起きる。
早朝から昼間にかけて、結界の見張りに2名、周辺の見回りに2名と分けて動いており、周辺を探索していた男性と元冒険者のムウラより少し歳のいった男性で行っていた2人が交代時間の時間になっても姿を現さなかったのだ。
村の中でも大人達が騒ぎ出す。
「2人はどこにいった!」
「まさか魔獣にやられたんじゃ!」
「なら村も危険だぞ!」
「子供たちだけでも避難させる必要があるんじゃないか!」
「避難のために人を回すと村はどうなる!」
「そうだ! ここあってこその俺たちだろ!」
家の外での大人の騒ぎように子供たちは不安を募らせていく。
「みんなー、大丈夫! お姉ちゃんが皆のこと守るから安心してね! お父さんも明日には帰ってくるから明後日にはいつも通りよ!」
リムルは子供達を少しでも安心させようと声を張る。
「本当? こわいよぉ」
小さな女の子がポツリと言葉を落とす
「ええ! お姉ちゃんが約束破ったことある?」
「ううん、なかったー!」
数名の子供達はリムルの言葉で不安をぬぐい去っていたが、1名納得できない存在がいる。
「父ちゃんも帰ってくるのかよ!」
声を大にして発したのはケイリーである。
行方知れずになっている男性の一人がケイリーの父親だった。
「きっと大丈夫よ! なんたってケイリーのお父さんなんだから!」
「きっとってなんだよ!父ちゃんいっつも俺に危ないことするなって言ってたんだぜ! それなのに帰ってこないって何かあったに決まってるだろ!」
「そんなことないわ! きっと疲れてどこかで休憩してるだけよ!」
「そんなの信じられっか!」
ケイリーは自分の不安をリムルにぶつけながらムウラ宅から勢いよく出て行ってしまう。
「お願いタケル! ケイリーを追いかけて!」
唯一の最年長者であるリムルは他の子達を見なければならないため、追いかけたくてもここから離れるわけにはいかず、タケルへ託す。
「俺に任せてくれ!」
タケルも自分になにか出来るとしても言葉でよって引き留めるぐらいしか出来ないだろうと思っていたが、少しでもリムルにいい所を見て欲しい、少しでも自分の存在価値をこの新たな世界で見いだしたい。
そう心に秘めながらケイリーの後を追いかける。
わずかな間だけ姿を消したケイリーは意外にもあっさりと見つけることが出来た。
村の出入り口付近にてケイリーは立ち止まり森の方を見つめていたからだ。
「ケイリー、戻ろう」
「兄ちゃん、本当に父さん帰ってくるよな」
あぁ、戻ってくるよ。
その言葉が出る手前、喉の方で一旦留まる。
魔獣の恐ろしさなんてわからない。
ここで簡単な慰めを自分みたいなやつがしていいのだろうか。
「…ケイリー、今は大人の人達に任せよう、俺たちには何もできないんだから。」
大人げない、まるで頼りにならない言葉。
アニメの主人公では決して言うことがないセリフ。
「……わかったよ」
それなのに意外にもあっさりとケイリーは聞き入れてくれた。
タケルにとって、自分の言葉に力がないんだろうな。
情けないな。
そういった疑念があったにもかかわらずケイリーは聞き入れてくれた。少しだけかも知れないけど自分にも価値があったんだなっと実感できた。
タケルとケイリーは肩を並べながら再度ムウラ宅に向かう。
ケイリーは少しの間悩ましい顔をしていたが、到着する頃にはいつものように元気な顔で接してくれた。
「こらケイリー! もう勝手に一人で出て行っちゃダメだからね!」
リムルはケイリーに対して、周りの子達にも影響するからあんなことするなと言い聞かせ、ケイリーはそっぽを向きながら返事をする。
それを横からなだめるように説得するが、あまり効果はなかったようだ。
時間だけが経つ。
夕暮れ、大人達の交代の時間帯。
なおもケイリーの父親は帰ってきていない。
ケイリーの母親はケイリーを不安にさせないように強く振る舞っていたが、少し声が震えているように思えた。それでも時間は過ぎていく。
夜の食事の時間、大人も子供も一緒に暖を取りながら食事を行う。
「明日には村長も帰ってくるからこれまで通りになるよ」
「結界もサーモルが一生懸命修復に励んでいるから大丈夫だ」
「今のところ魔獣の様子も見えないから安心してくれ」
「ケイリーのお父さんはどこに行ったの?」「少しどこかで休憩しているだけさ」
「明日は朝から畑の仕事しなくっちゃ!」「明日は木の実取りに行っても良い?」
昨日に比べて少しばかり明るい会話も見受けられる。なんとなく大人たちがそういった空気を作ろうと感じ取れた。
ケイリーの母親もケイリーの横で食事を取り、大丈夫だからと言い聞かせていた。
食事の時間も終え、大人達は交代の時間、子供達は早いうちにと就寝を促される。
時間は経つ。
時間は経つ。
不安の中、時間は経つ。
少しでも怖いと思う自分がいる。
明日はケイリーといっぱい話をしよう。
その時にはきっと親父さんも帰ってきているだろう。
淡い期待を募らせる。
タケルはゆっくりと意識を遠ざけていく。
眠りに落ちるのだ。
眠りに落ちてどれぐらい経っただろうか、ゆさゆさと、バシバシと、強く体に刺激を感じとり、意識が体に戻ってくる。
「大変なの! ケイリーが!ケイリーがいないの! どこにいったか知らないかしら!」
リムルの言葉でタケルは完全に意識を覚醒させる。
「……きっと俺のせいだ」
昼間の力ない言葉。
少しでも自分の言葉に力があると思ってしまったあの言葉。
【自己満足】の言葉でケイリーはきっと。
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