十
食事を進めていき、落ち着いたところで本日の成果を報告することになった。魔力を込めて見ろとサーモスに言われた結果、出来ずに結局血を紙につけるやり方にしたこと、魔法を使うことが出来ないことも伝えていたのにも関わらず、水晶での判別方法を取ることになったこと。そして、恥をかいてしまったことを話す。
「まーたサーモルはそんな意地悪をしたのね!明日注意してあげる!」
「サーモルさんって普段からあんな感じなんですか?」
「サーモルは若いのに、すでに1人で一つの教会を任されているほど優秀な子なのだが、若いからこそか、時々人を試すような事をするんだよ。だからかもしれないが、子供達からは人気があるのだがな」
「それでも、村長であるお父さんからも言ってあげないとダメだと思うの!もう何回目になるか・・・確かに、村の子供達もサーモルに遊んで貰って楽しそうにしてるけど……嘘を教え込むことも多いのよ!この前だって私のことを5メートルも垂直に飛び上がることが出来るって子供達に言い聞かせてたんだから!おかげでその日はずっと飛び跳ねてくれってせがまれて大変だったのよ!」
サーモルの位置づけが何となくわかった気がしてきた。神父として優秀であったため、一人で村の教会を任されるほどの人材ではあり、規律のような取り決めには仕事上厳しいのだろうが、実際の彼自身は人と話す事が好きなのだろう。村の子供達とも仲が良さそうなのがうかがえる。
なにより、リムルの発する言葉が本当に怒っているわけではなく、遊びの対象にされたことに対する怒り方だからである。
「そういえば、ムウラさんは魔法を使えるって言ってましたけど、リムルちゃんも使えるんですか?」
父親であるムウラが使えるのだからリムルが使えてもおかしくはない、魔力は誰にでも備わっており、使えるのなら教えられていてもおかしくないはずだ。
「同じ歳ぐらいの男の子に敬語で話されるってなんだか変な気持ちね、無理して敬語は使わないでいいよ?私まで敬語使わないといけないみたいだし。お父さんも使える土魔法で、畑をクワを使わずに耕すぐらいならできるけど、クワを使うよりもほんの少し時間を短くできるのとあんまり体力がいらないぐらいかな?お父さんと違って私は水属性が得意みたいなんだけど、水の魔法を使える人なんてこの村じゃサーモルぐらいなんだけど、頼んでも教えてくれなかったの!本当ケチだわ!」
「まぁ、彼も仕事柄仕方ないことだ。すまないな、せめて初歩的な魔法の扱い方が載っている本さえあれば良いんだが・・・」
「魔法の本ってそんなに手に入らないもの何ですか?」
「物自体はあるのだが、高価なのだよ。簡単なものでも金貨20枚はする。」
「金貨20枚……」
金貨っていくらぐらいの価値があるんだろうか?
一枚あたり1万円ぐらいと考えたら20万ぐらいか?
確かに高価なものではあるが、手に届かないほどのものでも……と思ったが、この世界の収入がどれぐらいになるのかわからない。
日本人なら大体月20-40万円ぐらいの収入の人が多いと思うが、国次第ではこの10分の1が月収の国だってある。そうすると年収を全額はたいてやっと1冊と考えたら現実的ではない。
「別に良いのよ、魔法が使えたら便利だとは思うけど、使えないからって困ったことなんてないもの!」
魔法の使える世界なら、誰しもが当たり前のように魔法が使えるものだと思っていたが、実際はそうではなかった。
こういった異世界転移した作品ならではの、チートを手に入れるようなイベントも未だ出会っていない。
可能性があるとしたら、肉体的に強くなっている可能性と後しばらく待つことでわかる自分の属性。あとは、実は特殊能力を覚えているが、使い方がわかっていないため発動していないとかだろうか。
仮に、仮にだ。なんの能力も得ることもなく、この世界に飛ばされただけならどうなるのだろうか。魔法も金を稼がないと覚えることが難しいのならば。
楽観視していたのは確かである。どうにかなるものだと思っていた。今でもどうにかなってくれると思っているが、それでも不意に不安な気持ちが沸き上がる。
「どうかしたかい?顔色が良くないように見えるが」
ムウラの言葉に我に返る。
「……大丈夫です!ちょっとボーっとしてたみたいで、すみません!」
「少し疲れているかもしれないな、今日は早く休むようにしなさい。リムル、部屋に案内してあげなさい」
その後、軽い雑談と食事を済まし、客室用として用意されている部屋に案内してもらうことに。
「この部屋を使ってね、それと2階は私とお父さんの部屋だから上がらないようにすること!よろしくね」
「おっけー、わかった了解」
距離を置かれた気がしてならないが、当たり前の対応だろう。部屋自体は、玄関から入って、リビングの反対側である。
中は本棚とクローゼット、机とベットがあるだけの簡単な部屋、RPGゲームの宿をそのまま再現したような部屋で、予想通りすぎて反射的に鼻で笑ってしまった。
「どうかした?部屋は自由に使って良いけど、汚したり壊したりはしないように!じゃあ私はまだやることがあるから、明日の朝にでも結果を聞かせてねー」
リムルは部屋に入ること無く、リビングのある部屋に戻っていく。
本当ならもう少し話をしたかったが、一人になり、気が緩んだのか、疲労のため少し頭痛がする。あと数時間で自分の得意な属性がわかる一大イベントも控えていたが、眠ってしまいたい欲から逃れられず、ベットにダイブ。瞼を閉じるとすぐ眠りに落ちることができた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます