魔法を覚えるなら、やっぱり学校に行ってみたい。教会とか、なんだか自由のきかない感じがするし。




「やめておきます、もっといろんな世界を見てみたいと思っているので、その間に魔法を覚えていきたいと思います」




「そうですかー、気が変わりましたら是非ともお声かけください。いつでもタケルさんを迎え入れさせて頂きますので」




  わりと宗教的な勧誘って、押し売りみたいにくるイメージもあったんだが、意外にもあっさり引き下がってくれた。


  その日はもう、教会で出来ることがないから解散ということになり、後日、結果を教えて欲しいとのこと。


  基本的に、日中は外を出歩くことをしておらず、誰もこないと読書等で時間を潰すしかないので、割と暇しているらしい。





  そうして、自身の血をつけた紙を忘れず持ち、サーモルにお礼をしてムウラさんの家へと向かう。すぐに自分で魔法を打ってみることができないのは悔しいが、きっと戻ると娘さんも帰ってきてるだろう





 なら、その子との出会いを楽しみたい。


 ムウラさんから名前も聞いてなかったので、自己紹介からだな。




「ただいま戻りました!」




  気分的には数年ぶりに会う親戚のおじさんの家に、しばらく泊めてもらうような、そんな気持ちで扉を開ける。


  開けたのはいいが、普通に上がっていいのか悩んでいると、奥からパタパタと足音が聞こえてくる。





「おっと、お父さんから聞いてるよー、君がちょっとの間うちで居候する子だよね。私の名前はリムル、短い間だろうけどよろしくね!」




  ショートの茶髪の、女の子が出迎えてくれた。年齢は変わらないぐらいで、いかにも村娘が着てそうな半袖の布の服スカートバージョン。


  畑仕事をしているためか、少し日焼けしているが、笑った顔がよく似合うタイプの子。こんな笑顔見せられたら惚れてしまう。いや、惚れてしまった。




 女の子と仲良くなっているうちに好きになるって事はあったけど、一目惚れはコレが初めてだと思う。




「早くあがってあがって、お父さんも帰ってくるの待ってたよ」




 手招きしてくれる姿が、より一層可愛さを引き立たせた。




「あ、はい、お邪魔します!」




 玄関を上がり、リムルについていく。




  場所はリビング、食事の時間のようだ。今日の所は、色々あっただろうと言うことで客人のように扱ってくれるらしいので、お手伝いはなしにし、先にテーブルで待つことに。


  ムウラさんとリムルが、楽しそうに会話しながら調理している姿を見守るだけである。




  奥さんがいないのかも気になったが、こういった話を聞くのは失礼だろう。心の内に秘めておこう。


 そして、自分の元いた世界について考えてしまう。


  こちらの世界に飛ばされてまだ半日ぐらいしか経っていないだろうが、あちらの世界ではどうなっているのだろうか。学ぶは突然姿を消したであろう俺を探しているかもしれない。


 あいつなら、『あいついきなり消えたじゃん!絶対召喚されたわぁあ!俺も連れてけぇええ!』とか言っててもおかしくないな。




  それでも、家族はどう思うのだろう。時間的に、学が俺の事を話していないなら、ただ遊びに行って帰ってきていないと思っているかもしれないが、警察とかに捜索届けを出しているかもしれない。


  お父さんとお母さんは心配しているかもしれない。もしかしたら妹は泣いているかも・・・ということはないか、あいつはしっかり者だし、いつの間にか一緒に外出することもなくなったな。あんなに可愛かったのに、成長したら離れるって本当だわ。





  考えれば考えるほど心細くなっていく。ポケットに入っている携帯を覗いてみる。充電は残り40%、電波は届かず圏外のままである。せめて連絡を取る方法さえ見つければ良いのだが。元の世界からこっちに飛ばされたのだから、逆に戻る方法もあるはずだ。この世界の満喫しながら戻る方法も探す。これを目標にしよう。





  テーブルの上に、料理が3人分運ばれてくる。料理はできないが、せめて運ぶぐらいは手伝わせてもらった。


  パンに焼かれた肉、スープ、それと子供達が美味しといっていた野菜の盛り合わせである。普段食べていた野菜に比べて、随分とみずみずしい。食べる前から、美味しい野菜だということがわかる。




  席の配置は、正面にムウラさん、斜め前にリムルという並びだ。個人的に、リムルと対面にして頂きたかったが、ムウラさんがリムルより先に前に座られてしまった。





「では、いただこうか。タケル君も遠慮せずに食べてくれ。何をするにもまずは腹越しらからだ」




「はい、いただきます!」




「まず自己紹介から始めなくていいの? お父さん」




「まぁ、ゆっくりと食事をしながら話そう。焦る必要はないさ」




  ムウラさんが食事に手を伸ばし始めたので、いただくことに。肉である。肉。焼かれた肉。こいつを最初に食べよう。ちなみにこの肉は鹿肉とのこと。


  村に向かう最中、姿を見た鹿のお仲間かご本人さんだ。鹿肉なんて日本でも食べたことがないのでどんな味がするのか楽しみである。


  そして、もう一つわかったことは、元いた世界にで生息していた生物は、たぶんこっちの世界にも生息している。村には犬もいたし、ネコもいた。種類とかはわからないが、名称は同じだった。


 なので、こいつも正真正銘の鹿である。たぶん。




 一口サイズに切られた肉を口の中に放り込み、噛みしめる。




「う、うまい!鹿ってこんなに美味しかったのか!」




  肉は噛みごたえがあり、噛めば噛むほど肉汁がにじみ出してくる。牛や豚と違って、ウマみたいに獣臭いって聞いたこともあるが、気にするほどのものはなく、普通に美味しい肉料理である。




「美味しいでしょ?若い子だったし、血抜きも素早くできたから臭いも殆どないし、なんだったらおかわりもあるから好きなだけ食べてくれても大丈夫!」




「この鹿って、リムルちゃんが取ってきたの・・・?」




「私一人じゃ、あまり離れたところまで行ったらダメだってお父さんに言われてるから、近くに住むバムさんに連れていってもらったの! だから私は、解体と調理だけよ? 泊まりのお客さんが来るからって聞いたから張り切っちゃった!」





  同じ歳ぐらいの、しかも女の子が。鹿の解体をしたらしい。見るからに、自分より細い腕をしている彼女が鹿一頭をだ。



またしても日本と違う文化に驚くタケルである。

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