第2話 プロローグ
子供の頃は、本を読むのが好きだった。
小学校の図書室は何故か落ち着けて、よく入り浸っていた。本棚を眺めているだけでも楽しかった。
選ぶ本なんか当然直感で、選んだ本の内容を全て理解して読んでいた訳でもない。ただ何となく文字を眺めているだけでワクワクしていた。
それでも自分なりには解釈し、想像することで、自分だけの世界が広がって、何より楽しい遊びだと思っていた。
歌に興味があった訳じゃない。その時流行ってた歌を覚えて歌うくらいはしていたけど、時代が過ぎれば文字通り、流れて行ってオレの中に留まる事はなかった。
そんなオレでも、惹かれる歌があった。5歳上の姉貴がハマっていたらしい歌手。家の中で良く耳にしていた。その人の歌は、アニメの主題歌でもないのに、何故だかオレの頭の中でアニメーション化された。
まるで、本を読んでいる時のような世界観は、歌に興味のない10歳くらいだったオレの頭に留まっていた。
その人が、またテレビで歌っていた。10数年ぶりだろうか、懐かしいような新鮮なような不思議な感覚の中で、久しく忘れていたあの図書室の中に誘い込まれるようだった。
まるで小編小説を読んだかのような歌は、オレの気持ちの何かを動かした。
想像の世界。嘗てオレが思い描いていたオレだけの世界。すっかり忘れていた世界。
何かに取り憑かれたように、その人の過去の歌を検索し、聴くようになっていた。今流行りの歌など、オレの心を動かすには何もかも足りない気がした。
そして、あの歌。ファンタジー小説かと思って聴いていたら、込められていたのは、哲学なんだと思えたその瞬間、オレの中で確実に何かが動いた。
頭の中で渦巻くファンタジーと哲学は、あの頃の、少年時代の夢を思い出させた。
小説家に、なりたかったんだ。
野球少年が、メジャーリーガーになりたい!と思ったりするように、読書好きな少年は、小説家になりたい!と夢をみたりする。そんな程度だったはず。
そこから本当に夢を叶える人なんて、ほんのひと握りで、大抵は途中で挫折する。いや、挫折を味わう前に、自分から諦める。どうせ、ムリなんだと。
そうやって、ムリじゃない程度の頑張りで何とかなることだけをこなしていく。こなしてきた。それにより、今の自分がある。
大人になり、本を読むこともほとんどなくなっていた。
ましてや自分が書きたい、と思っていたことなんて、全く忘れていたことだった。あの歌が、閉ざされていた扉を開いたんだ。
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