ひとりごと

すいま

第1話 水紋

真っ白なテーブルクロスに、君のグラスが影を落とす。

グラスを通り抜けられなかった光が影となって輪郭を浮かび上がらせているのだ。

その中には、君がグラスに口をつけるたびに内側を濡らした水滴の影も滲んでいた。


君は僕と目を合わせない。

バツが悪そうに他のテーブルを見つめている。

テンポの悪い会話の中で、僕は君を問い詰めた。

お互い、悪いところもたくさんあったのだろう。それでも、認め合って続けていけると思っていた。


しかし、君にはその気がなかったのだ。

ここで終わりならそれもよし。次の手はすでに用意している。

そうなのだろう?


君はまたグラスを手に取り、ひと回しすると口に運んだ。

僕は影を見つめている。

水滴が流れ落ちるにつれ、その流跡が細くなり、葉脈のように細々としてついに見えなくなる。

目で見たら透明で見えないものも、影に目を向ければまざまざと浮かび上がるのだな、と一人感心していた。


「結論が出たのなら、もういいかしら」


君が席を立つ用意をする。

僕は何も言えないまま、君のグラスの影を見つめている。


最後に君がグラスに口をつけると、今までになく大きな水滴がグラスの内側を流れ落ちていく。


影に浮かぶ流跡はまるで毛細血管のように収縮し、奇妙な紋様を刻一刻と変化させながら消えていく。それは蝶のようであり、花弁のようであり、般若の面のようでもあった。


あぁ、もしも僕の気持ちをこの影のように射影できたなら、この気持ちの紋様を君にも理解してもらえただろうか。


あぁ、もしも君の気持ちをこの影のように射影できたなら、君の気持ちの紋様を僕にも理解できただろうか。


顔を上げた時、君はもういなかった。


僕は一口、僕のグラスを口に運んだ。

僕が残した水紋の影は、この世のものとは思えない、鬼の形相をしていたのだった。


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某ハンバーグ屋さんでグラスの影を見てみて思いついた。

水の模様見てると一つとして同じ形ができないの、面白いですね。

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ひとりごと すいま @SuimA7

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