緑の地で
侵攻してきたアスクレオスの艦とシュレンツイルは水没し、主戦場の戦いは終結した。
ジャスティンセイバーはサートとシュイヴァインの戦いを追跡して、【神の審判】の爆心地までやってきた。だがそこは目を疑う光景があった。
【神の審判】以前から不毛な氷原だった大地には緑が生い茂っていたのである。
弱々しいエネルギー反応が、その緑の大地の中心に二つある。しかし、そこにはすでに一際大きい大樹が生えていた。
ライアンはサイファーを駆り、中心へと向かうと、大樹の根本で動かなくなった2機のGAを見た。
サイファーから降りたライアンはサートに駆け寄るが、サートはもうぴくりとも動いていない。傷ついた胸の魔洸晶からはもはや光が感じられず、そのまま壊れてしまいそうになってしまっていた。
「くそ、おいマサムネいるなら返事をしろ!」
ライアンは状況が分からず、ただ声を上げた。
着陸したジャスティンセイバーから降りたメイクが、遅れてやってきた。動くことのないサートを見て、両膝を着いて俯く。
こうなるかもしれないとは昨夜から分かっていたことだが、それでも直面すればショックを受ける。
「なんとかなると思ってたのに。お兄さんを紹介してくれたっていいでしょ。」
思いはすれ違ったとはいえ、それでも兄を信じるマサムネ。だからこそ、話で聞くシュルセルスに対して、メイクは敵愾心を持っていなかった。
多分、マサムネに似ていて、けれど真面目で責任感のある人なのだと思っていた。
『そうか。私は歯車が少しズレただけか。』
低い声音の優しい声が聞こえてきた。
「えっ?」
メイクが初めて聞いた声に驚いて、見上げると、マサムネに似た背格好の男性が背中を向けていた。彼は姿が透けており、現実味の無い存在感をしていた。
『メイク!』
動かなくなったサートの側から駆けてくるマサムネの姿が見えた。彼もまたどこか透けていたが、生きていた嬉しさから気にすることなく、彼と手を取り合おうとして、手が空を切る。
「おい、どうした」
ライアンの目からはメイクがおかしくなったようにしか見えない。
メイクの方は、マサムネの存在を認識できるのに、その手を掴むことはできない。
『力を使いすぎちゃったみたいだ』
彼は言う。背中を向けていた方が、ため息をついて、メイクの方に向き直りながら地べたに腰を下ろした。その顔はマサムネに似ているが、彼女の目には大人っぽく見えて、マサムネとは違う陰のある格好良さを見た。
幻覚ではなく、マサムネも、兄シュルセルスもそこにいるのだろう。それをメイクは感じることができる。同類故か。
「いつか戻れるなら、待ってるからね」
メイクは希望を持って涙を拭いて言った。マサムネは笑顔で頷いている。
「そこのお兄さんも一緒に、ね?」
続けて言うと、シュルセルスは面食らって呆然としていた。おかしな恋人と思われたのだろうか。
この後、アスクレオスの侵攻は2度となかった。伝え聞くところによれば、ついに人の住む場所はなくなり、地球に移住する国民と永住する国民とで争いが起きたらしい。
*****
「それでその男女はまた再会できた?」
「まぁな」
世に言うシュルセルス皇帝による第二次アスクレオス戦争から十数年後。
氷原の中で緑の地として存在する【聖地】は激闘の地として王国が保存している。中心の大樹の根本で停止したというサートとシュイヴァインの存在は消失していた。それが架空の話であったとか、2機が無くなったとかというわけではない。
行方について、男は知っている。
「再会できたから僕はいるんです、とか言ってくれない?」
「アホぬかせ。俺が生まれたのは、あの戦いの後だ。だから俺は、母さんを残して非現実的存在になった親父が嫌いなんだ。」
男は恋人に正直に言う。彼はマサムネが嫌いだ。エディプスコンプレックスも含めて。
「もう帰るの?」
「別にずっと居ても楽しかないだろ」
「いいじゃん。もっと家族のこと話してよ。」
踵を返して帰ろうとすると、恋人が手を引いて止めてくる。彼はため息をついた。
彼はラフレイド・クロノス。マサムネとメイクの愛の元で生まれた魔光晶の子であった。その顔つきはマサムネとシュルセルス、両方によく似ていた。
「あ、そっか。お父さんとお母さんが再会したら、僕のお母さんが取られる!と思ってたのかな?」
「チッ」
恋人のからかいにラフレイドは大きく舌打ちする。恋人は気持ちを見透かしたように、彼の心を逆撫でする言い方を好む。その母性に惹かれてしまったように思う。
「ああ、そうだよ」
だから、正直に認めた。言い訳する気になれなかった。
「分かった。話す。それで、満足しろ。」
「ふふ、楽しみ」
彼はマサムネが嫌いだ。メイクが実体化できない彼を見えていたように、ラフレイドも成長するにつれ、父親の姿を見ることができた。その時の母親の、自分を見る目と、マサムネを見る目は明確に違うことに気付いた。
長らくその違いについて、彼の中で燻り続けた。
今は違う。マサムネ・クロノスの辿った戦いの物語のおかげで、自分が存在することを再確認できた。
シュルセルスが地球にいて、マサムネがアスクレオスにいたら、と考えることがある。ただ考えてから、結局同じことだと思う。母は、家族としてシュルセルスを受け入れたのだから。
だからこそ思うのだ。兄弟が戦って良かったのだ、と。過酷な過去があっても、家族になれたことはとても幸福なことだったのだ、と。
ラフレイドは母を思って、彼女が父とその兄に再会した物語を語った。今は、一番愛している恋人の為に語って聞かせた。自慢の家族の物語を。
ガーディアンアーマー戦記 赤王五条 @gojo_sekiou
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます