ウィストン王国
ディーゴとケストルとの南極での決戦後。
ジャミラスの手で、ウィストニア・ウィストンは冷凍睡眠から目覚めた。
美しき長い黒髪を持つ王女は、自身を眠らせた不遜な婚約者の不在に怒った。
けれど、怒ってばかりもいられない。
ディーゴたちとの戦いによって荒廃した地球で、
ウィストン王国の再興を目指さなくてはいけない。
企業国家が普通であった今の時代には前時代的な、王国の誕生。
それが、ウィストン王国。
王女から女王となった彼女は、【神の審判】の爆心地から近い、
ユーラシア大陸東部に、その本拠を構えました。
彼女をバックアップしたのは、外でもないフィシュル。
中小企業国家を吸収し、バールグルコンツェルンの社長となった彼は、
王国の中で企業になることで、大きく後押ししました。
ジャミラスやキャフィル、そしてメストが設計した労働用GA。
これらが再興と周辺の復興支援の手助けになっていきました。
一方、先の戦いから生き残ったジダンは故郷へ帰りました。
企業国家クロードル社。彼はその跡取り。
見識を広めるための流浪の旅から帰った彼は会社を継ぎ、
手に入れたデータを元にGA開発とパイロット教育を推し進めました。
パイロット教育は元GA隊長でドラム・エアバンガードのパイロット、
プラス・ライトヘッドが務めました。
彼はジダンの勧誘に乗り、後進の育成を次の戦場と定めたのです。
バールグルとは違い、戦闘用のGA開発とパイロット育成、
そのための組織改革を行い、クロードル社は力をつけていきました。
さて物語を動かしていくのは、決着を着けたジャミラスでもなく、
少女の故郷で平和に暮らすマサムネでもない。
その名はライバー・ガルデン。ウィストニアからあえて距離を置いた男。
ウィストン王国に流れ着き、その才で受け入れられた不詳の男。
ジャミラスのGA開発に協力したけれど、その知識はどこから得たものなのか。
かつての戦いで参謀を務めたけれど、戦いの経験はいつ得たものなのか。
そして、年齢はいくつなのか。
彼が再び姿を現した時、それは新たな戦いの始まりだった。
それは誰もが予想しえなかった異星からの侵略者との戦いだったのです。
*****
月軌道上。
航宙艦が列を為し地球に臨んでいる。戦艦の数は5隻。4隻は同型だが、1隻だけ大きさも形も違った。その一隻が旗艦らしく、赤い船首に何らかの紋章が描かれていた。
地球は誰も予想し得ない形で脅威にさらされていた。
「閣下、降下部隊の突入まで10分です」
「宜しい。全艦に通信を。」
「はっ」
大仰な装飾の服装をした男が、部下の男の知らせを聞いて立ち上がる。全艦の全将兵に伝わるようオープンにされた通信に、偉そうな男は口を開く。
「アスクレオスの選ばれた戦士たちよ、眼下の新天地への扉は今しばらくである。諸君らの武勇と力量が示されんことを切に願う。勝利を我が前に捧げよ!!」
「アスクレオスの栄誉のために!」
男の短い号令演説に合わせて、副官が威勢を上げる。すると通信を聞く将兵たちも口々に威勢を上げた。
『皇帝陛下の威容を示せ!』
『アスクレオスの旗の下に!』
将兵の士気は十分。地球に至るまで長い旅だったが、それももう終わりを告げるのだ、と演説を打った男は満足気になった。
「陛下、地球文明は脅威でありません。やはり一息に呑んでしまえばよいのでは」
「GA技術は健在だ。我が精鋭が簡単に破れるとは思いたくないが、本星とのエナジーラインは必ず繋いでおかねばならぬ。」
「承知しました」
旗艦を指揮するのは、外ならぬ皇帝であった。
彼は地球と縁のある遠い星アスクレオスからやってきた。魔光晶によって壊滅し、住む場所を奪われつつある母星からの移住先を地球と定めたのだ。
彼はあくまで自分たちが上位としつつも、魔光晶を使う地球に対し、威力偵察の部隊を降下させたのだった。
*****
標準時間にして正午のこと。空に星がいくつも流れた。
世界各地に降下したGAによく似た機動兵器群は降下直後に威力行動を開始。抵抗のないところはさしたる抵抗もなく制圧された。
例外だったのはウィストン王国と欧州エリアであった。
3機小隊の5部隊という15機編成の侵攻であったが、欧州エリアの企業国家を束ねるクロードル社は戦闘用GAの実戦配備とパイロット育成に着手していて、この侵攻に対しても難なく対応できたのである。
しかも戦闘隊長はドラム・エアバンガードを駆っていたプラス・ライトヘッド。
後退文明と舐めてかかった異星人部隊は彼らにあっけなく敗退したのであった。
一方、ウィストン王国。
「距離を取ったところでなぁ!」
「な、にぃ!?」
サイファーはとあるGAとの実戦演習を行っていた。そのとあるGAとは、南太平洋に沈んでいた重量陸戦機のことである。
ジャッカルの愛機、であるらしいそのGAはギータと同じ陸戦機かつ砲戦型でありながら、この演習においてサイファーを圧倒していた。
空に逃げて距離を取るサイファーに対し、兵器運搬用のワイヤークローを使って巻き取り、距離を取ることを許さない。その後は模擬弾をしこたま撃ち込まれた。
結果として、ライアンは惨敗を期した。彼は決して弱くないはずなのだが、ジャッカルの技量は異常であった。まるで、そのGAの操作が身体に染み付いているようで、一心同体の動きでサイファーを負かしていた。
「何、俺が強すぎただけよ。それに機動兵器同士の戦いは一対一ではない。所詮、遊びに過ぎん。」
小柄な体に偉そうな言葉遣いのジャッカル。拾って来たGAレオスが来るまでは無駄飯食らいだったのだが。
「ぐぬぬ」
納得いかないのはライアンの方だ。バールグルの正式な雇われであり、ウィストン王国で、GA部隊を教導する立場でもある。
南極決戦から約2年。シンセサイザーでの旅がいい思い出になりつつある中、思ってもみない敗北の日になっていた。
「ジャッカルさん」
「敬称はいらぬ」
「ではジャッカル、このレオス、どこで作られたものです?」
一般的に王国領という正式な国境線はない。ユーラシア大陸東部は小さな村が点在するのみだ。王国の開拓地以外は荒野と言って差し支えない。GAを使って演習するだけの土地は余りあるほどあるのだ。
そんなどこにでもある荒野で、ジャミラスはレオスとサイファーの演習を行っていた。レオスの戦闘力は未知数であった。ガーディアンアーマーであるかもしれないが、違うかもしれないという違和感があったからだ。
「俺の故郷、ナグゴートで作られた年代モノよ」
ジャッカルは素直に話したが、ジャミラスには聞いたことのない街である。
「ザシュ――もといライバーとは縁近い都市よ。あやつもレオスに乗ったことがあるが、乗った後に文句を言われたものよ!」
彼は何か言いよどむものの、ライバーとのエピソードを明かし、小柄な体に似合わぬ豪快な笑い方をした。
ジャミラスには、ライバーの言い様を理解できないわけではなかった。
このレオスは、重装甲重機動の機体である。それ故歩行ができなくなっている。ジェットホバーならギータと同じだが、機動性を補うためにあちこちにブースターやバランサーなどが付いている。またウェポンラックが豊富で、携帯火器に頼る設計となっている。
言わばレオスは重装甲突撃による特攻機動兵器と言っても差し支えない。こんな機体を使いこなすなど、酔狂以外ありえない。
ジャッカルの年代物という言葉通り、古い設計であった。どちらかと言えば戦車に近い。魔光晶が使われているが、それは純粋にエンジン出力としてである。コクピットはギータと同じ機械構造で作られている。
これら技術様式は、サイファーに近い設計であった。サイファーがいつ頃作られたものかは未だ不明であるので、それを解くカギでもあるかもしれない。
ジャミラスがレオスの解析を進めていた、そんな時、流れ星は降ってきた。
大気圏突入用のカプセルが5つ降下する。カプセル自体は突入後使い捨てられる。1つのカプセルに3機のGAが収納されており、空中で分離発進する。
「な、何だぁ!?」
空から見たことも無いGAが現れ、休憩中だったライアンが声を上げる。ジャミラスにも見覚えのないGAに呆然とする。上空を飛ぶ青いGAの編隊は王国領へと向かうかと思いきや、引き返してくる。
「レオス!」
ジャッカルは愛機を呼ぶ。すると、無人の黄色いGAは、無防備なキャンプに立ちはだかる。引き返してきたGAの機銃掃射は防がれ、事なきを得る。
「こちらは模擬弾しか装填されていない。迎撃はやれるな!?」
ジャッカルはコクピットに引っかかっているアンカーツールで、器用に首元のコクピットに飛び乗る。
急襲するGAへの対応は今ここにいるサイファーとレオスだけで行わなければならない。レオスは演習用の模擬弾薬しか持ち込んでいない。となれば、サイファー1機で迎撃を行わなければならないのだ。
「やってやろうじゃねぇか!」
「その意気は良し。早めに救援は連れて来てやる。持たせろよ。」
気合十分にサイファーに乗り込むライアンは叫ぶ。ジャッカルは、それに淡く期待を寄せる。ライアンはあの南極決戦の乱戦で生き残った。多勢に無勢で追い詰められても、死ぬことはなかろうと。
「ジャミラス、しっかり掴まっていろ。飛ばすぞ。」
「お手柔らかに頼――」
レオスの手の中に掴まるジャミラスは言い終わらぬまま、レオスのフルブーストを体感する。舌は噛まなかったが、ブレーキの衝撃で頭を打つことになる。
サイファーの手持ち武器は斧が2本のみ。この手斧はサイファーと同じ装甲材質で作られており、謎のGAの装甲も易々と切り裂いた。しかし、それでも1機だけ。サイファーのパワーを警戒した他のGAは早々に距離を取り始める。
「畜生! そんな離れちゃ届きゃしねぇ!」
手斧投げはブーメランのように戻って来るが、大振りな攻撃ゆえに当たらない。これが以前なら当たっていた。だからか、ライアンは野性的に、敵のGAが有人機だということを察していた。
とはいえ残り14機からなかなか数を減らせず、防戦一方となる。
(一か八か・・・撃つか?)
サイファービーム、胸部から発射される魔洸晶の力を凝縮した破壊光線がサイファーの最大武器である。だが発射に大きなスキを伴うのとエネルギーを大きく消耗してしまう。多数戦で力を失ってしまうのは大きな賭けになる。
『一人でよく持たせたな、ライアン。俺が追い込む、お前は回りこんで確実にやれ!』
唐突な音声通信。一瞬、思考が停止するがクリアに聞こえた声の主を思い出す。
前を見るとサイファーを包囲していた謎のGA部隊の内1機が金色のGAに光の剣で切り捨てられているのが見えた。
このGAの乱入でGA部隊は混乱した。包囲網が崩れ、砲火が乱れる。
ライアンはこのチャンスを逃さず、一気に間合いをつめ、声の言う通り確実に敵機を屠り、半数まで減らす。
敵部隊は3機と4機の二部隊に散開し、各個撃破の構えをとろうとする。部隊統制が早いが、乱入してきた黄金のGAには関係のないことだった。
『遅い!』
黄金のGAの右手から光の剣が消え、火の玉が発射される。4機編成のほうにそれが直撃し、追撃とばかりに左手からもう一発。爆炎が吹き荒れる敵部隊になおも攻撃の手は緩めない。
『紅魔光晶、フルパワー』
黄金のGA、オーボゥ・ザ・ブレイバーは真紅の魔光晶を持つGA。胸部が更に赤く輝く。
『碧の導きによりて育まれし大いなる光よ。汝の胎動を我に貸し与え給え。』
オーボゥの両手に剣でも火でもない光が凝縮され、それは光り輝いていく。
『輝きよ、全てを粉砕せしめん!』
輝く両手を合わせ、オーボゥは波動を発射する。弾速は速いが、光線は一条。避けられず受けた敵機は1機。
だが受けた1機を中心に散開していた僚機が引き寄せられ、重力異常か何かで部隊は巻き込まれ、装甲をひしゃげさせていく。
『
波動から描かれた立体魔法陣により、敵の部隊はそこからなかったことになった。消滅したのだ。
「マジかよ」
サイファービームも対GAには過剰な攻撃力だったが、それ以上の攻撃力を見せつけられて、驚くしかない。
『はっはっは、どんなもんだ!』
そう言って、映像通信を開いて来た声の主はライアンの予想通り、ライバー・ガルデンであった。
「よぉ、元気してたか?」
オーボゥ・ザ・ブレイバーから降り、ウィストニアと対面したライバーの第一声はこれだった。
ウィストニアは無表情にゆっくりと歩み寄り全力平手打ちをするも、ライバーは軽々と回避した。
「まぁ、落ち着けよ。俺にできることなら何でも相談に乗るぜ?」
王国国民ならば誰とて敬意を表し、慕うものが絶えない美しき黒髪の女王に向かって彼は軽薄に言ったのだった。
「ライアン殿、今回の貴方の助力を感謝します」
「礼には及ばね――ないっす。市街地は俺も造営協力をしたところですので、壊されるのは御免です。」
慣れない敬語で言葉に詰まりながら、ライバーとは違い懸けられた言葉に返事する。
「ではその力、まだしばらくこの国に貸してもらいたい」
「りょ、了解しました!」
もっともらしくライアンは承諾する。流石に慣れていないために声が裏返ってしまったが。
「ともかくライアン、敵機の解析を手伝ってくれ。その上で、今後の対策を立てたい。」
「あ、あぁ」
ジャミラスは空気を読んで、ライアンと共にその場を去る。
「貴様はこの国に愛想を尽かしたのだろう。なぜ戻って来る気になった?」
GAの発着場に対峙するウィストニアとライバーが残されて、彼女は口を開いた。
「そんなもん、最初から尽かした気はないね」
「ならば! なぜ、妾に一番に顔を見せなかった!?」
約2年前、彼女が冷凍睡眠から目覚めた時に、ライバーの姿はなかった。王家軍を結成する時も、戦時中も、共に逃げることを提案してきた親の決めた婚約者。力も才も、心の強さもある理想的な男性だった。
だから、ディーゴと決着を着けても、再会することができなかったから、愛想を尽かされたと思い込んだのだ。
どの面下げてやってきたと、殴りに行ったのも、彼女なりの本音であった。
「昔の知り合いに会ったからな。元の世界に戻れないかと、試していた。オーボゥはその産物だ。魔光晶のパワーを上げれば、扉を開けないかと、な。」
ヒントはあった。ライバーもジャッカルも、ウィストン王国と起源を同じくする異世界の人間であった。つまりレオスはGAではない。サイファーがGAではなく、いつ頃に作られたか把握できている。
「ただ、扉を開きかけて、思ったんだ。戻ってどうするんだってな。」
ライバーは珍しく真面目な言葉を連ねている。彼女から背を向ける。あまり見られたくない顔を、今している。それは昔、ジャミラスがしていたような、憎しみの表情だった。
「過去を断ち切るにゃ覚悟が必要だなんだとジャミラスに言っておいて、覚悟ができていなかったのは俺の方だった。だから考える時間が必要だった。」
神妙に言ってから、彼は振り返る。そしてニコッと笑う。
「なんて言ったら信じるか?」
今までの神妙さをすべて台無しにする言葉だったが、美の女王の目には涙が貯まっていた。ライバーの成人男性の平均的身長ぐらい。ウィストニアは爪先立ちすれば、彼に目線を合わせられるほどの身長だ。だから、彼に抱き着くと、上目遣いの彼女が目の前に現れる。それはとても可憐だった。幾度となく、2人で逃げ出そうとライバーが誘惑した理由でもある。
「妾に残された家族はお前だけだ」
「俺もだ」
あの日、ディーゴが反乱を起こし、焼け落ちる王宮で、ライバーはウィストニア以外の王族を射殺した。生きている者は片っ端からトドメを刺した。そうすれば逃げ出す口実ができる。ライバーがこの地球に来る前に、腹違いの家族殺されそうになった物真似だった。
だがライバーが考えるよりも王女は強かった。世界をGAによって征服を企むディーゴに対し反抗活動をせよと声を上げた。だからライバーは、負け続ければ諦めるだろうと、王女に協力した。負けた時に、王女へ逃げるよう提案し続けた。
彼女は負けても諦めなかった。むしろライバーの戦略眼を信頼していた。何より、彼女の強さにライバーは根負けし、彼女だけは守ろうと冷凍睡眠へ送り出したのである。
「よいか、ライバー。ディーゴとの戦いが終わった今、お前はもう婚約者でも参謀でもない。自由な人間だ。だがこうして戻ってきて、妾を抱いてくれるなら、そう信じてよいのだな?」
「もちろんだ」
ライバーは迷っていた。本音を冗談にされても、構わなかった。ウィストニアの強さでもあり、弱さが、彼の迷いを断った。
彼女の言う通り、ライバーは自由の身になった。彼女を孤独にした罪は付き纏うが、ウィストニアはすでに孤高の女王だ。受け入れられなければ、それでよいとも思えた。
だが受け入れられた。彼女の待ち続けた強さに、再び負けてしまったのだった。
『戦闘報告は聞いた、大手柄だな、ライアン。それと、ライバー・ガルデンも久しぶりだな。どこかで野たれ死んだと思っていた。』
日本エリアのバールグル本社ビルと通信が繋がった状態。今後の対策会議のためフィシュルにも意見が求められたのだ。
「流れ着いたところには徹底的に寄生したいんでね」
冗談には聞こえないことを言うのがライバーの持ち味だ。
『送られてきたデータは確認しました。装甲の構成材質、携行武装などの観点からこれらは地球製ではないという結論に達しました。』
「ライアン、戦ってみてどうだったろうか」
フィシュルの分析に次いで、ジャミラスはライアンに見解を更に求める。
「訓練された人間が乗ってるっていう印象だな。」
前回、無人機とは散々戦った。そのパターンのある動きとは違う、プレッシャーのようなものを戦闘時に感じた。それをライアンなりに伝える。
『欧州エリアの企業国家を束ね始めたクロードル社が戦闘用GAをパイロット育成とともに開発し始めていますが、彼らの手とも違うようで。』
「クロードル。なるほど、あいつか。」
ライバーの頭の中にジダン・クロードルの姿が思い出される。今の情報を聞くと不敵な伊達男に思えてきた。
『今回のような襲撃が欧州エリアにあったとすれば、難なく迎撃していることだろう。パイロットの育成や指揮を行っているのは、プラス・ライトヘッドだ。』
「彼ですか」
先の戦いの後に別れた戦士を懐かしく思うジャミラス。話を聞く限り、ジダンと示し合わせて出ていったのだろうと思う。
「プラスは元々王国軍人でもない。忠誠度は低かったが、競う相手がいたから味方に引き入れていた。今更こっちに引っ張ることはできないぜ、ウィストニア。」
「前の王国と今の我が国とは違う。威光など、これから作る。」
会議に遅れてやってきた2人の雰囲気に違和感を持つライアン。だが、高貴な血筋という威容に気圧され、何も言うことはできない。
「フィシュルさんよ。今お空に浮いてる衛星にあんたのところからアクセスできるかい?」
「衛星? いつのまにそんなものを」
ジャミラスの知らないことをライバーはぽんぽん喋る。打ち上げた衛星があるという事実はバールグルの旧役員でも一部でしかない。何より有効活用はできていない。
『稼動人工衛星は3つ。アクセスできるのは1つだけだ。』
「敵部隊はカプセルで突入して来たんじゃないか? オーボゥで飛んできた時に、周辺に母艦を見かけなかったからな。」
GAの魔光晶は半永久機関だ。やろうと思えば24時間飛び続けることは可能だろう。しかし、現在の地球の大気は非常に埃っぽい。その埃が魔光晶とエンジン出力変換の際に干渉してしまう。故に長時間飛行すると飛行機関が先に参ってしまう。そのリスクを軽減するために、GAには母艦が必要なのだ。
「空から来たということは、奇想天外な話だが、敵部隊の母艦は宇宙にいるってことになる。衛星からそれを観測できればいいんだがよ。」
『なるほどな。やってみよう。』
ライバーの知恵に納得して、フィシュルは通信越しに指示をし始めた。それを尻目に、ライアンは疑問をぶつける。
「前から疑問なんだが、お前本当に何なんだ」
「ミステリアスだろう?」
ライバーは自分から言ってのけた。ジャミラスはクスッと笑い、ウィストニアはため息をついている。あくまではぐらかす彼に、ライアンは突っ込む気力がなくなった。
『では女王、もうしばらくライアンを貸し付けます、なんなりとお申し付けを。』
「助かる。そちらも解析の方、よろしく頼む。」
『は。ではこれにて。』
フィシュルはそうして通信を閉じる。短い会合は終了した。
「んじゃあ先に休ませてもらうかね。異変を察知して、島から一直線だったから疲れてるんだ。」
王国としては緊急事態で緊張するべきことなのだが、ライバーの軽い態度は治らない。女王としてその態度は注意すべきだが、彼は参謀の時からそうだったことを思い出し、何も言わない。
「こいつの言う通りは癪だが、ジャミラスたちも今日は休め。こいつの管理は我がする。」
忠臣に休むよう指示し、彼女はライバーの腕を引っ張って、会議室を退室する。
そのまま真っすぐ彼女の自室に、彼を案内してしまう。
通信のできる会議室もある建物が、今の王国の中央政庁である。ウィストニアの自室もそこにある。広くも狭くもない自室だ。薄いカーテンが張れる以外に、ベッドに飾り気はない。ベッドは、彼女一人で眠るには大きすぎるが、誰かと寝るなら丁度いい大きさだった。戻ってくるかも分からないのに、待ち続けた男のために用意したベッドだった。
ベッド側の灯りだけ点けて、彼女はベッドに座って連れて来た男に対面しようとするが、すぐに彼に押し倒された。
「疲れてるって言ってるんだが」
その言葉とは裏腹に、彼は膝をウィストニアの内股に押し込んできた。
「このまま寝てくれ。それで妾の気は済む。」
「お前には本当に負けるよ」
彼女の一緒にいてくれればそれでいいという言葉を、彼は再び敗北宣言する。
彼女は一時の気の迷いでは決して手に入らない、本当に高貴な美しさを持っている。
ライバーは、彼女に口づけだけして、横になった。疲れているのは本当だ。その疲れを押しても彼女を抱きたいと思ったが、愛おしさに甘えた。
すぐに寝息を立て始める元婚約者に、ウィストニアは失望することはない。彼女とて勢い任せに抱かれても良かった。それを望む自分も心の中にいた。
だが一緒に居れば、そんなことはいつでもできる。そう思って、彼女は戻ってきた男の頭を撫でた。
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