第47話 忌むべき日記
私には娘がいる。
と言っても血は繋がっていない。
一年前、会社の上司だった彼にプロポーズされ、バツイチ子持ちではあったが、彼の誠実さに絆され結婚する事を決めた。
だが、彼の娘は違ったようだ。
彼女は父親を溺愛しており、私には全くなつこうとしなかった。
それどころか私に対し、父親を奪ったという増悪すら抱いているようにも思える。
今のところ彼との暮らしに不満はないが、娘との確執が、今の私にとって唯一の悩みだ。
そんなある日の事、久々に友人からお茶の誘いを受けた。
家に一人でいると余計な事を考てしまうのもあり、私はその誘いを快く受けた。
適当に買い物を済ませ友人と合流すると、二人で前から行ってみたかった喫茶店に向かった。
店に入り飲み物とデザートを注文し、互いに家庭の愚痴を語り合い、気分をスッキリさせたところでお開きとなった。
帰宅中、
「あら……懐かしい」
そこは、私がよく子供の頃遊んでいた公園だった。
不意に子供の頃の記憶が蘇り、懐かしさに駆られ足を踏み入れる。
シーソーをそっと撫でながら中央にあるブランコへと向かう。
小さい頃はブランコが大好きだった。
学校が終わったら一目散にこの公園のブランコに向かったものだ。
こじんまりとしたブランコの椅子に座り、ゆっくりと両足を前に投げ出す。
「ふふ、何年ぶりかしら……あら?」
ブランコを漕いでいると、不意に前方にあるベンチが目に止まった。
いや、正確にはベンチに置いてあったノートだ。
ブランコを降りてベンチへと近づき、分厚いノートを手に取る。
表紙にはアルファベットでDiaryと刺繍されていた。
警察に届けなきゃ。
そう思った時だった。
バッグに入れてあったスマホの着信音が鳴った。
日記をバッグに入れ通話に出るど、娘が今日学校に来ていないという知らせだった。
急いで娘へと電話をすると、
『何……?』
「あなた今日学校行ってないって、」
『具合が悪かったの、今からか家に帰るから。玄関のチェーン掛けないでね』
「う、うん……」
娘との通話はそこで切れた。
立ちくらみがする……。
これは間違いなく私への当てつけなのだろう。
深いため息をつき、私は思い足取りで帰路へと着いた。
家に帰った私はやり残した家事を片付け、居間で一息ついていた。
珈琲に口をつけながらバッグからスマホを取り出す。
しまった……。
バッグの中身を見て私は激しく後悔した。
公園で拾った日記をバッグに詰めたまま持って帰ってしまったのだ。
日記を手に取る。
どうしよう……今からか警察に届ける?
いや、公園に……。
スマホをちらりと見る。
学校からの電話。
思い返すと気が重くなる。
明日でもいいかな……。
何が書いてるんだろう……?
ふとそんな事が頭を過った。
普段ならそんな事絶対にしないが、その時の私はむしゃくしゃしていたのもあり、思わず衝動的に日記のページを開いてしまった。
──〇月×日、公園で日記を拾った。
「えっ……?」
思わず声が盛れた。
その日付は今日の日付だ。
偶然?
再びページに視線を落とす。
──家に持って帰ってしまった日記を私は思わず開いてしまった。
頭が混乱してきた。
まさに今私がしている事がここに書かれている。
偶然という言葉で片付けられるものだろうか?
このまま閉じてしまいたい気持ちでいっぱいだった。
だが、私の手はそれに反してページを取ってしまっていた。
──いけないとは知りつつも、私は日記を読み進めていく。
すると、不意に玄関からチャイムが鳴った。
玄関に向かい、扉を開く。
日記はそこで終わっていた。
何?なんで?
そう思った瞬間、
──ピンポーン
「ひっ!」
玄関のチャイムが鳴り、私は思わず小さな悲鳴をあげてしまった。
ここまで日記の内容と同じだ。
このまま扉を開いてしまったら……いや、もしかしたら娘かもしれない。
私は玄関に駆け寄り扉の前に経つと、覗き穴から外をそっと眺めた。
しかし、玄関の前には誰も立っていない。
声を掛けようとした瞬間、
「宅配便で~す」
女性の声が聴こえた。
少し安心して扉の鍵に手を伸ばす。
しかし、
何で、あの時娘はチェーンを外しておけと言ったのだろうか……。
確かに普段はチェーンを掛けているが、私が開ければいい事だ。
それとも私が家にいないから?
でも、いつもは娘が帰る頃には私が家にいる。
いや、今日は私が出掛けたからか?
しかし今日出掛けたのはたまたまだ。
午前中に友人に誘われ買い物ついでにとお茶をしただけ。
私が家にいない事は誰にも言っていない……。
どうしても気になって、外していたチェーンを再び掛けると、扉の鍵を開け開いた。
その瞬間、扉の隙間に人影が現れた。
中年の女だった。
黒く長い髪に黒いレースのドレス。
女は真っ赤な唇をニタニタと歪め、血走った目で私を見つめている。
「だ……れ?」
そう呟いた時だった。
女は突然左手を振り上げ、ドアの隙間から腕を突き出してきた。
思わずそれに驚いて私は尻もちをついてしまった。
「な、何を、」
私は直ぐに口を開いたが、その後に続く言葉を完全に失ってしまった。
女の突き出された腕、その手には、銀色に鈍く光る刃物が握られていたのだ。
「くそっ!ふざけんなっ!!」
女は突然そう叫ぶと、ドアを何度か蹴りあげ、そのまま走り去ってしまった。
私はその場で呆然としてしまい。
全身から血の気が引いたまま、ぐったりと俯いてしまった。
その後、私は警察と夫に連絡し、会社を早退してきた夫と共に、警察に事情を説明した。
夕方になり警察から連絡があった。
女が逮捕されたそうだ。
ただ、薬物反応があったため詳しい取り調べは後日になるとの事らしい。
持っていたナイフ、そして玄関に残された指紋とも一致したため、この女で間違いはないだろうと言い残し、警察との通話はそこで終わった。
「良かったな、これで安心できる、今日はもう休んだらどうだい?疲れただろ?」
夫が私を心配して声をかけてくれた。
「うん……」
頷き席を立つと、
「ただいま~」
娘の声だ。
廊下を歩く足音、真っ直ぐに居間に向かってくる。
居間の扉を開き、制服姿の娘が姿を見せた。
「お父さん帰るの早くない?何かあったの?」
「いや、それが母さん大変だったんだよ」
「あっ……」
夫の言葉を遮るようにして娘が口を開いた。
「それ……」
「えっ?」
娘は言いながらテーブルに指を指す。
思わず私が聞き返すと、
「その日記……私の」
以上が、私が体験したです。
夫の事は今でも愛しています、愛していますが、今は離婚を考えています。
そうすれぼ、もしかしたらこの悪夢は、終わるかもしれないから。
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