第9話「姿見」

 今は亡き祖母から聞いた話です。


正月に祖母の家に帰省した時の事。


こたつに入り、祖母と一緒にみかんを食べていたら、ふと、祖母が何か思い出したかのように、嬉々としてこんな話をし始めました。


「そうそうお婆ちゃんね、昔あんたと同じ年の頃に、その姿見でね、じゃんけんした事があるの」


「ん?」


突然何を言い出すんだ、と思いつつも、最近まだらボケが垣間見える祖母の話に、私は耳を寄せた。


「その姿見よ」


祖母はミカンの皮を剥く手を一旦休めると、おぼつかない指先で、部屋の隅に立て掛けられた大きな鏡を指差して見せた。


「あの鏡に?」


私がそう祖母に聞き返すと、祖母はゆっくりと満面の笑みで頷きながらこう言った。


「そう、その姿見に向かってじゃんけんをしたの、そしたら一回だけ勝ったのよ、私は大喜びしたんだけど、鏡の中の私は、とても悔しそうな顔で私の事睨んでたの、可笑しな話でしょ」


あれから数年して祖母は亡くなりましたが、今でも実家にある、あの姿見を見る度に、私はこの話を思い出すんです。


嬉しそうに想い出話しを語る祖母の顔と、あの時、姿見にチラリと映った祖母の、憎々しげな横顔と共に……。

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