第2話 目が覚めたら宇宙船の監視人だった
……い、おい。わかるか?
ぼんやりとした視界の中、一つの丸が目の前に浮かんだ。
そしてそれはゆっくりと一人の顔へと変化した。
「やっと目を覚ましたか、結構起きないからおいらまじで焦ったよ」
目の前には男、いや多分男がいた。
銀のタイツに頭には二本、触角みたいな丸い突起がついている。
「ここは……?」
左側頭部に軽い頭痛を抱えながら、私の口からそんな言葉が溢れでた。
「あんたがそうなるのも無理はない。何せ、かれこれ100年は眠ってたんだからな」
100年? 眠ってた? 何を言っているんだ、こいつは。
男は近くの椅子に座ると、まるで葉巻のような細長い銀色のそれをくわえると、思いっきり吸い込んだ。そしてふう、と息を吐く。顔が一気に赤くなってからしばらくして戻った。気持ち良さそうな顔をしている。それから銀色の脚を組んだ。
「どっから説明すっかな。まあ懐かしの地球の話でもするか。地球が人類の住めない星になったのは2300年。これは良いな?」
地球、住めない……言われてみればそんなこともあったような気がする。
私の表情にお構い無しに男は続ける。
「それで、人類は移住先を考えた。そして候補になったのが、ヘムト256c。地球から200光年離れている星だ。そこに移住するったって、宇宙船で人類は200年もさすがに生きられないだろ? だから人類は凍結冬眠をすることになった。全細胞を一気に凍らせて時間を止めちまうわけ。すると、人類は眠っている間に気づいたら200年以上経って、ヘムト256cに着いてるってこと。でもそうすると管理をする人が必要になる。それがおいら達監視人の役割、思い出したか?」
不思議と違和感は無い。彼の言うことは間違っていない気がした。しかし私は監視人として何をすればいいのか全く思い出せない。そんな私の頭を見透かしてか、男は持っていた銀の棒を投げ捨てた。
「まあそう焦るなよ。おいらも10年前に前任者から引き継いだからさ、今からじっくり教えるよ。あんたがうまく仕事できるようになったらおいらもやっと眠れるからな。そしたら起きた時はもうヘムト・パラダイス!」
男は、ヒッヒッヒッ、とひきつるような気味の悪い音を喉から出した。
それから私は男から一通りの仕事を引き継いだ。
凍結冬眠している人類、私の担当は100万人程度だが、そのそれぞれの凍結具合を確認、機械のメンテナンス、今も光速に近い速度で進んでいるこの宇宙船の走行の手助け、などなど。これを10年間行い、次の担当へ引き継ぐのだそうだ。
凍結冬眠している人の見回りもした。
いわゆる酸素カプセルのような物に入ったその人々はみな、安らかに眠っている。
すぐ横にはモニターがあった。そこにはその人が見ている夢を確認できる。
楽しそうな夢、逃げる夢、形のない夢、みなそれぞれだった。
気づけば10年が経ち、引き継ぎの時が来た。
私は言われた通りに次の担当者を起こし、同じように仕事の引き継ぎをした。
そして私も自分のカプセルに入る。次に起きる時はもうヘムトに着いている。一体どんな星なのか、気持ちよく眠らせてもらうことにしよう。
私はそんなパラダイスを夢見ながら凍結冬眠開始のスイッチを押した。
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