第1章 現に目覚める夢
第1話 覚醒
まずは順序立てて僕の事について伝えたい。
僕は前世とかその他諸々の事を思い出した。
思い出したと言うか、目覚めたというか微妙なところなのだけれど。
というのも、僕は五歳の誕生日に神通力を得た。
しかし、これが少々厄介で、通常とは異なる『
神通力とはこの世界の住民なら殆どの者が七歳までに発現する異能の事で、自身の身体強化を行う事ができる。
その向上幅は個人差はあるが、するとしないとでは大違いなくらいの差はある。
そのため、普段の生活から仕事に至るまで生きていく上では欠かせない能力だ。
そんな神通力だが、極々稀に他とは違った特殊な能力が発現する事がある。
希少性から名前を付けられており種類は六つ。
お察しだろうが、僕が目覚めた能力はその一つだ。
では、何が厄介なのか。
実はこの神通力、過去世の知識と経験を思い出し、現世の体でその全てを会得する事ができる。
よく考えてみなくても凄い能力だ。そんなのがよくあったら困る。
さて、ここで重要なのが、「前世」ではなく「過去世」だという事。
つまり、輪廻転生で数多巡った全ての人生の集大成が現世で開眼するという訳である。
するとどうなるか。
僕は情報処理をしきれずに、数日の間気絶した。
△▼△
能力に目覚め、寝込み、うなされ、やっとの事で起き上がれるようになった時。
僕は相当に老け込んだのだと思う。見た目的にも精神的にも。
妙な貫禄が出るくらいなら問題無い。落ち着きのある男はいつだって恰好良いのだ。
しかし、五歳で髪が白髪交じりになるとは全く予想もしていなかった。これには流石に衝撃を受けた。
けれども、それらの事がどうでも良い程の情報がまだ残っている。
この世界の価値観についてである。
僕が思い出したいくつあるのか分からない過去世の記憶によると、多くの世界では男性が優位であった。
戦場に立つのも、政治を行うのも、何かを研究し発明するのも。
男女の割合で考えてみると、総じて男の方が圧倒的に多い世界だ。
女性はと言えば、主に家庭を守ったり、茶会に足を運んだり、時には男に混じって戦場や政治の場にたったり。
つまりは、男の方が何かと表の舞台に立つ事が多かった。
ならばこの世界ではどうだろうか。
真逆である。
先ほどの例に挙げた男女の立場と言ったものが、全て反転しているのだ。
男性の権利を尊重しろと社会運動が起これば、女性は嘘くさい笑顔を顔に貼り付けて誠意ある対応をしなければならない。
仕事が休みの女性が家でくつろいでいれば、家を守る男性が掃除の邪魔だと文句を言う。
さらに、だ。
貞操観念というやつもひっくり返っているようなのである。
男性は女性から愛を囁かれたがるが、女性は男性の胸元や股間に視線を送るので忙しい。
男性は夜道に襲われないように気を付け、女性は気になる男性を守るために腕を磨く。
ここはそういう世界だった。
なんという事だろう。
僕には女性を口説く熱意もなければ襲うような勇気もないが、それでも彼女たちの胸元や太股当たりに視線が吸い寄せられる男だ。
少し欲求は減衰したかもしれないが、まだ僕は五歳児だし枯渇はしていないと信じたい。
五歳児が何考えてんだって話は分かる。
けれど、家で風呂上りの五歳児の母がパンツ一丁で出てきたら驚くだろう?
そういう事だ。
どういう事だ。
話を戻そう。
今の僕はこの世界で言うところの異常である。
当然だ。女性に襲われたら体を許してしまうかもしれない。ただし美少女に限る。
違う。そうじゃない。
男が上半身を裸にしても場所によっては何ら問題無いと感じるし、男がブラジャーを付けていたら変態だと思う。
駆け巡った僕の人生の中で、遥か未来の記憶もあれば、遠い過去の記憶もある。
この世界ではない地で剣を振っていた事もあれば、眼鏡をかけてパソコンに向き合っていた事もあった。
しかし、ブラジャーを付けていた記憶は無い。
そういえば、僕の記憶は全て男である。女にも産まれてみたかったとは少し思った。
そして、この世界の男性は成長したらブラジャーを付けるのだ。
よって将来、僕はブラジャーを付ける事になるのだろう。
え、マジ?
男女問わず上裸は見せていいものじゃないが、女は狼なのよ気を付けなさいと言われる。
女性の上裸はお目汚し、男性の上裸はお金が貰える。
嘘だろ。
本当だけど男女に関わらず場所を弁えなければ奉行に捕まる。
男性の魅力は胸板の厚みと股間の膨らみ。
別に引き締まっていなくても、どちらかと言えば少しムッチリしている方が女性受けが良い。ただし、男性視点では細い方が良いみたいだ。
女性の魅力は引き締まった肉体。
身長が高く運動や戦闘に秀でた人が男性から黄色い声援を浴びる。だから脂肪の塊である胸やお尻は小さい方が良いらしい。
顔面の標準偏差はどの世界でも同じくらいだった。
この世界でも整っている顔がモテる。
そういった諸々の事実を把握した訳で、僕はようやっと起き上がれるようになっても未だ現実をどう受け止めていいか分からなかった。
とりあえず、僕は割とモテそうな外見だと思われるので気にしないようにしたい。
白髪交じりだけどね。いっそ真っ白に染めようか。
あと、ついでにもう一つ。
僕は今世に限らず何回かこの国、皇国と言うのだけれど、で生活していた記憶がある。
そのどれもがちょうど今くらいの時代だったのだが、あと十五年後くらいだろうか、後にこの国は滅ぶ事になる。
皇国の転覆、である。
さて、困った。
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