反転の皇国、月に舞う詞

橘 ミコト

序文 

 僕はきっと死ぬのだろう。


 皇国のため、なんて大層な事は考えていなかった。

 僕にとって大切な人々。

 ただ、彼女たちを守りたかった。


 それだけだ。


 だから、僕は後悔などしていない。


「若様」


 呼ばれた声に振り返る。

 烏羽色の頭が目に入った。

 深く頭を垂れているため、顔色は伺えない。


 彼はどんな顔をしているのだろうか。


 己の身を嘆いているのだろうか。

 それとも、誇らしいと思っているのだろうか。


 分からない。

 けれども、僕は、


「号令を」

「はっ!」


 前へと進まなければならない。


 これは自分の運命なのか。

 自らの手で切り開いた未来なのか。


 それすらも分からぬまま。


 僕は着物の裾を揺らしながら、高台へと進む。


 目の前に広がるは、




「「「「「うおおおおぉぉぉおおおおぉおおおおぉぉ!!!!」」」




 僕のため、立ち上がった人々。


 彼らの期待、不安、恐れ、希望、畏怖、疑い、羨望、崇拝。

 全てを受け止め、僕は進もう。


 例えその先に、僕自身の破滅が待っていようとも。


 僕は恐れず、前へ進もう。


 さあ、決戦の時だ。


 目指すは――。

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