第77話 結婚式と親①

 待て待て待て!

 なんでまだ挨拶もしていないのに桜井さんのご家族を呼んでるんだ。

 相馬に何をやっているんだっというアイコンタクトを送った。

 それを受け取った相馬は直ぐに行動を起こしてくれた。

 「えーと、ただいま電車が遅れているそうで新郎側の親は遅れてくるそうです。新郎のお母様からは「先に始めといて」っと連絡が入っておりましたので始めさせていただきました」

 いや!そこじゃないって。

 しかも俺の親まで呼んだのかよ。

 「では、まずは新郎の挨拶です」

 「…?!」

 いきなり挨拶かよ!

 何も考えてなかったのに…いや、サプライズでやられているから考えて来れるはずがない。

 それなのにマイクを手渡されてしまった。

 こ、こうなったらやるしかない。

 桜井さんの親が見ている中、喋れないなんて言う失態は見せれない。

 「えっと。この度はお集まり頂きありがとうございます。今、色々と驚かされている途中ですが…」

 ちらりと桜井さんの親の方を見る。

 やばい。

 「(お前に娘をやるわけがないだろ!)」と言わんんばかりの鬼の形相で睨み付けられている。

 「娘さんを大切にします!」

 「「「………」」」

 「………」

 静まり返る会場。

 やってしまった。

 挨拶ではなくなってしまった。

 「うぅぅ…うぅぅ」

 鬼の様な形相でこっちを見ていた桜井さんの父親が急に泣き出した。

 「もう、あなた。ほら、皆さんの前でそんなに泣いたら恥ずかしいでしょう」

 「だって娘がー」

 涙と鼻水で顔をベタベタにしている桜井さんの父親を無視して司会の相馬は「新郎の挨拶でした」と終わらせてもう次の準備に入っている。

 「次は料理になります」

 次々に料理が運べれていきテーブルに並べられた。

 「それでは、乾杯の挨拶をして頂きます。『酒場の会』会長。荻田様お願いします」

 仙人みたいな荻田さんは前に出てコマーシャルで「長〜〜〜〜〜い。お付き合い」ぐらいの長さを誇る巻物様なものを懐から出して読み始めた。

 

 …長いな。

 もう10分以上経っている。

 「…でした。いずれは組をまとめ上げてくれるかと思っております。では、長くなってしまいましたが、乾杯を言わせて頂きます。乾杯!」

 「「「乾杯!」」」

 そして、食事が始まった。

 桜井さんは一回、自分の父の所にいき何かを言っている。

 「お父さん。泣かないでよ。見ててこっちが恥ずかしい!」

 「いや、だって…」

 「『だって』じゃない!」

 桜井さんにめちゃくちゃ怒られていた。

 近くに光が来たので後、何が用意されているかを聞いた。

 「これは私が計画したんじゃないの。相馬がほとんど一人で準備していたわ」

 「…そうか」

 光は何故か嬉しそうな顔をしているのを不思議に思っていた。

 後から聞いた相馬の話で少しだけ納得した。

 後日、俺は相馬からもの凄く謝られた。

 理由はアニキを利用させていただいたからだと言う。

 サプライズでこの結婚式を開いたのは正式ではないものの俺と桜井さんが結婚した風を装う為。

 「…それで光先輩はアニキを諦めないといけない。となるかと思いまして」

 つまり。

 「俺の事を好きだった光に俺を完全に諦めてもらう為にやったのか」

 「そうです。光先輩には言わないで下さいね」

 …だからか。あの時光が嬉しそうだったのは。

 相馬には言わなかったが光は相馬がそう言う考えだったと分かっていたのであろう。

 光自身、嫌ではない。いや、むしろ良いといっても過言ではなかったのであろう。

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