第11話

目が醒めた僕はとにかくお金とカメラの入ったかばんを手にして鉄道の駅まで急いだ。

ICカードで構内に入り数分もしないうちに列車は来た。

列車は無人化されているのか車掌などは見当たらず、運転席にも誰も座っていない。

というかそもそも運転席らしきものが見当たらない。

これはもしやチャンスを見つけてしまったのではないか?

自動化されているとなれば線路に寝っ転がっているだけでも死ねることができるのかもしれない。

遺体を回収する人は肉片やら骨やらが遠くまで飛んで大変かもしれないが、そんなこと僕には関係ない。

というか、気にする気がない。

僕が死んだあとのこの世界のことなんて興味のかけらもない。

てか関与することないだろうしめちゃクソどーでもいい。

外を見るとすでに都市部を過ぎ、青い田園風景が流れていっていた。

いや、もしかしたら畑なのかもしれない。

あいにく僕は農業関係の知識は持ち合わせていないのだ。

とにかく、ひたすらに自然が流れていく。

青々とした山々、どこからか聞こえてくる雀の囀り。

都会に住んでいる人間にとっては非日常な日常がそこには流れているような気がした。

「いいなあ、俺もこんなところに生まれてこれれば幸せに生きられたのかな…。」

思わず心の声が漏れる。

あんな苦しくて目まぐるしい都会なんかの数倍僕が今見ている景色のなかの世界は輝いて、羨ましく見えた。

そんな感傷に耽っているうちに窓の外はトンネルを超え先程までの田園は断崖絶壁と荒れる海に変わっていた。

「ここならちょうどいいじゃないか」

僕はただただ流れていった景色を見て漏らす。

次は~淵畔ふちぐろ-淵畔ー

車内アナウンスがひたすらにゆっくりと流れる。

スマホのマップにピンを刺す。ただそれだけなのに僕の心には昨日の八女の言葉が思い出された。

死を求めている人間にはどうでもよかった言葉が、だ。

そのくらい……いやなんでもない。

窓の外は次はただただ海岸線が続いていた。

ただただ広がっていく青空と伸びていく海の境界線はぼやけていた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

それでも僕達は明日に向かう 仲谷光琉 @soreboku

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ