第2話

「はあ、またかよ。」

僕は以前からの反省を生かしてマンションからかなり離れるように飛んだ。

そこまではよかったのだが。

また何か操作でもされたのだろう。

飛んだはずのマンション5階の柵に引っ掛かってしまった。

「はあ、これどうすっかなあ」

僕の力だけでは外すことはできないだろうし外せても壊してしまうかもしれない。

さすがに壊すのは住人に申し訳ない。

上に置いてきた荷物も取りにいかないといけないし…。

どうしよほんとに。

さすがに21歳にもなってこれは恥ずかしい。

仕方ない住人が帰ってくるのを待つか…。

首元に引っ掛かった頑丈な柵に気を付けながら腕時計を見る。

13時30分を指した時計は非常にも僕の救出に時間がかかることを表していた。




何分経っただろう。

とにかく寒い。

寒さに耐えながら住人が返ってくるのを待つ。



ジャーーーーー。

後ろでカーテンが開く音がする。

一瞬驚いたが救助が来たことに顔は緩んでしまう。

また新しい自殺ができるかもしれない。

僕の頭はそれでいっぱいだった。

「きゃああああああ」

部屋の中から聞こえたのは女の人の声だった。

それも若い声。

僕は驚いてびくっとしてしまう。

あ、これ完全に下着泥棒疑われてますね。

もっと自殺ライフを楽しむためにも疑いを晴らさねば。

「あのーとりあえず助けてもらっていいですか?」

首を動かすと落ちるかもしれないので下を向いたまま女の人に声をかける。

……

返答がない。

まあそうだろう。

変質者に急に声をかけられて従う人間なんて少ない。

あきらめるか…。

「あのーすいません。助けてもらっていいですか?今にも落ちそうなので…。」

もう一度頼んでみる。

「あああああ、は、は、は、はいぃぃぃぃ!」

女の人は甲高い声でおびえているような声を出す。

ガラガラガラ

引き戸が開く音がする。

コツンコツン…

スリッパが地面にあたる音が耳に届く。

僕はただ助けてもらえることが幸せだった。

こんな気持ち久々だと思う。

ただまた新しく自殺ができると思うと僕はうれしくてたまらなかった。






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