第9話 再出発です。
僕はエイルさんの同行の話をするため、アラガル家の泊まっている部屋に向かった。
「という事なんですが、どうしますか? まあ、報告程度の話なので、断っても大丈夫です。どっちにしても、王都まで追いかけて来るでしょうし。」
「そうですね。まったくの他人という訳でもないですから、いいと思いますよ。」
エーシャル婦人の許可が下りました。
「お手数かけました。エーイルさんに伝えてきます。」
僕が戻ろうとすると、アルーシャさんが僕を呼び止める。
「今から、顔合わせはしなくていいの?」
僕は悩んだ…
誰かに話すような人では無いと思うけど…
「誰かに広めるような人では無いと思いますが、念の為に。それと夜も遅いですし、馬車の中で話せば良いかと思います。」
アルーシャさんが僕の提案に頷いたので、「おやすみなさい。」と挨拶をして部屋を出た。
そして、エイルさんに明日の朝、ロビーで待ち合わせと言って僕は自分の部屋に戻る。
「やっと終わったぁ~。」
僕はマイジュさんが寛いでいる対面のソファに深く座った。
「何かありましたか? 」
冷蔵庫から持ってきた冷茶を飲みながら、エイルさんが同行する事になった事を話した。
「そうでしたか。まあ、そんな気はしてましたけどね。」
なぜか、冷やかな目で僕を見るマイジュさん。
冷茶で僕の背中が少し寒くなったんだよね? だよね?
「王都に戻ってからが、どうしようかなぁ…」
僕はアイザと会わせる事すら不安になっているのに、一緒に旅なんて…
頭が痛いです。
『魔王の娘』と『勇者の娘』
駄目だろこれ。
エイルさんを納得させる案を王都に着くまでに、なんとしても考えないと。
「はぁ…どうしてこうなった…」
僕の独り言にマイジュさんが笑い声を漏らしていた。
「どうしてでしょうね。」
朝食を済ませた僕とマイジュさんは、昨日預けた武器を傭兵組合に取りに行っていた。
「私は馬車の準備をしてきます。」
「はい。僕はロビーでエイルさんを待ちます。」
宿の裏手にある馬車小屋に向かったマイジュさんを見送った後、宿のロビーにあるソファに僕は座って待っている。
『待ち合わせの時間より10分前に着く。』
僕のこだわりだった。
人を待たす事が嫌だったのと、自分が遅れる事が許せなかったからです。
待ち合わせ時刻数分前に、エイルさんが受付でチェックアウトの手続きをしているのが見えた。
僕は席を立ち、エイルさんの視界に入る位置で待っていた。
「ハルト、お待たせしました。」
「エイルさん、おはようございます。それじゃあ、馬車に行きましょうか。」
宿の前で待っている馬車に案内し、車内に入ってもらう。
「あれ? わたしだけ?」
「いえ、これから護衛する家族が着ますので、先に待っていてください。」
僕はそう言って、エイルさんを押し込むように席に座らせる。
そして、数分後にアラガル家の人達がやってくる。
「それじゃ、僕はマイジュさんの隣に座りますので、護衛の方達と一緒にいてくださいね。」
「え?! ちょっと、一緒じゃないの?」
僕は扉を開けて、エーシャル婦人と入れ替わるように外に出る。
「あっ。初めまして、エーイル・ラミナスです。この度は私の要望を聞き入れて下さってありがとうございまぁああ! えぇええ!」
うん。エイルさんの驚きの声が聞こえました。
子供達も速やかに車内に入って貰って、僕は扉を閉める。
「マイジュさん。出発しましょう。」
馬車は車内の状況などお構いなしに、走り出しました。
後は、アラガルさん達が説明してくれるでしょう。
僕は、エイルさんの慌てぶりが、予想通りだった事に笑みを浮かべていた。
「ハルトさん…仕組みましたね。」
「えっ? そんなことないですって。」
僕は小窓から漏れてくるエイルさんの声に、また笑みを浮かべてしまった。
馬車は予定通りに次の街に着いた。
この街は風呂付きの宿が一軒しかないので、部屋割りがアラガル家で一部屋、僕とマイジュさんとエイルさんが一緒の部屋になった。
「エイルさん、相部屋になってしまってすみません。」
「いえ、同行をお願いした立場として、我侭は言えませんから。それに、お二人は紳士的な男性だと思っていますので。」
そう言っているエイルさんの顔は戦場に向かうような緊張感が溢れていた。
「そうですよ。僕はだらしない格好でウロウロしますけど、マイジュさんは凄く紳士ですから、安心してください。」
「いや、ハルトも紳士的にしてくれないと。」
「部屋着を持ってこなかったから、無理なんですよ。」
「そう、それなら仕方がないわね…ってそういう話だった?」
エイルさんの砕けてた表情を見た僕は、寝室に入ってブレザーを脱ぐ。
4人部屋なので寝室に4つのベットがあり、僕はマイジュさんの隣を選んだ。
鎧を綺麗に並べ終わったマイジュさんにお風呂を勧めて、僕はリビングのソファに座る。
少しするとエイルさんも荷物を置き終わって、対面のソファに座る。
「護衛の人達とは、認識あって良かったです。もちろん、他言無用でお願いします。」
「ええ、もちろん。あの方達には何の罪もないですし、守るべき人達ですから。」
そう言いながら、エイルさんが乗り出すように僕に近づく。
「だけどハルト、何をしたらこんな依頼を受ける事になったのよ。」
「リビエート国の王妃様と、知り合いになったからかな。」
はぐらかす僕の答えに、エイルさんがソファに座り直す。
「まあ、詳しい経緯は、また聞くからね。」
「それでアラガル家の人達とは、どんな話をしたのですか?」
今度は僕から質問を返す。
「私のお母様の話や、学院生活。ハルトに出会った時と追いかけてきた理由とかね。これは、事前にハルトと打ち合わせした通りに話したわよ。」
モーリストさんとの騒動中に、僕が異世界人だと知ったので、荷物を急いで準備して捕まえた。
という作り話を昨日の夜に決めていたのでした。
僕はその時に、『勇者の娘』を隠しているのは母親の配慮だった事を聞いて納得していた。
普通の生活を送れなくなるのは必然で、不幸になる不安も当然、大きくなるからね。
生涯隠した方が良いと、僕も思いました。
何事もなくアラガル家を乗せた馬車はリビエート王国の王都まで戻ってきました。
エイルさんを宿の前で下ろして、明日の朝に同行出来るかどうかの結果を伝える事にしました。
僕はまだ、エイルさんをアイザとの旅に同行させない案を思い付いていません。
二人きりになった時、スマホで教えられる事はほとんど教えたし、異世界の話も随分したけど、満足してくれません。
魔王討伐に向かった両親と同じ景色を見たいと言っていたから、それを「独りで行ってください。」と薄情な台詞は言いたくないし、今年の魔王討伐に参加なんて事は、それこそ言うつもりなんてない。
生きて帰って来れないと判っているのに、仮にエイルさんが、魔王討伐隊に参加したいと言ったら、僕はそれを全力で阻止する。
最初、勇者は魔王に倒されたのだと思っていたけど、死因は病気だったと聞いたとき、魔王が親の仇っだと思ってもいないとも知ったので、アイザと合わせる事はさほど問題では無くなってはいるのだけど。
もう、なるようになるしかないのかな…
馬車は王宮の門を通っていく。
僕達を出迎えたのはリビエート国王のトーラスさんと王妃のサラティーアさんだった。
サラティーアさんとエーシャルさんとの再会を喜び合う姿を見て、僕は嬉しさと、安堵感と達成感を感じていた。
来賓室に皆で向かうと、ルシャーラさんとサーリアちゃんに王妃の娘のラミナちゃん、そしてアイザが待っていた。
「ハルト、おかえり。」
「ただいま、アイザ。」
たった四日間なのに、僕は懐かしい安堵感を感じていた。
アラガル家の末子のサイラ君が、嬉しそうにサーリアちゃんに駆け寄っていた。
そういや、王妃の娘のラミナちゃんとは親しくないのかな?
そう思って見ていると、ラミナちゃんは長男のオルイズ君に視線を送っていた。
あっ、そっちなのね。
「ハルトさん、マイジュさん、お疲れ様でした。そしてありがとうございました。」
サラティーア王妃からの感謝の言葉に、その場にいるリビエート家とアラガル家の人達から頭を下げられたので、直ぐに頭を上げてもらった。
僕とマイジュさんは、顔を見合わせて笑みを浮かべる。
「ただの護衛でしたし、難しいことはしていないから、そこまで感謝されるのはちょっと恥ずかしいです。」
「そういえば、ハルトさんは、絶対に成功すると確信していましたし、私が関与していることも隠せると断言していましたけど、どうしてですか?」
僕の言葉に、直ぐに反応したマイジュさんの問いに僕は少し驚く。
「えっと、馬車の床下を見られなければ、国外避難させている事なんて判らないじゃないですか。だから、それさえ守ればいいから、もしそういう場面になったら、気絶させるなり、別の騒動起こしたりとかで、なんとでもなりますから。」
「なんとでもなるって…」
「最悪、僕が囮になれば済む話だったので、僕一人なら、あの壁を越えるのは簡単ですからね。」
呆れ顔なのか困惑しているのか判らない視線を僕はマイジュさんだけじゃなく、王妃さん達からも向けられていた。
「まあ今回は、まったくそういうのは無かったですからね。モーリストさんの騒動以外は全然余裕でしたし。」
僕は忘れていた疑問を尋ねる。
「そうでした。そもそも、国外出るのって凄く簡単でしたけど、緩和されたのですか? エイルさんも普通に出国してましたし。」
僕の疑問に答えてくれたのはエーシャル婦人でした。
「出国が制限されているのは、魔法付与の工房勤めの人や役人ですね。あとは純潔のファルザ民も制限されてます。まあ、例外的に出国できますので昔ほど厳重ではなくなりました。」
「なるほど、だから家の前には警備兵がいたけど、出国ゲートは甘かったのですね。」
「はい。商業の収入だけが国益なので、出国ゲートを厳しくすると収益が下がりますからね。」
ってことは僕が出しゃばらなくても、良かったんじゃ…
「ハルト君が動いたからこそ、楽に事が進められたと思っている。」
え? 僕は顔を上げてトーラスさんを見る。
笑みを返すトーラスさんは、僕の表情から、思っていた事が伝わっていたようです。
「まさか15歳の執事見習いが、離国の手助けをするなんて思ってもいないだろう。」
「え?! あの偽造カードって15歳になってたのですか?」
「ハルト君なら、違和感ない年齢だと思ってな。」
まあ…たしかに、この世界の人から見たら、幼い容姿ですけどね。
来賓室の場が和んだので、僕は部屋に戻って夕食まで寛ぐことにしました。
エイルさんの事は後回しです。
隣を歩いているアイザにどう説明しようか悩んではみたけど、やっぱりそのまま言う以外の選択がありませんでした。
まあ、その話は夕食後にしよう。まずはこれを渡さないとな。
僕は、胸ポケットから、ペンダントの入った箱をアイザに見せる。
「これ、アイザによさそうなやつがあったから買ってきた。心の中で魔法詠唱が唱える事が出来るから、不意打ちに使えるんじゃないかとって思って。見た目とか気に入らなかったり、別に必要でも無かったら着けなくてもいいからね。」
「今から開けてもいいの?」
「今すぐ感想聞きたい気持ちもあるけど、今はお風呂で疲れを流したいから、あとで部屋行ってもいいかな?その時に感想聞かせてほしいな。」
リボンで包装された箱を見ながら「うん、わかった。」とアイザが答えたので、僕は部屋の扉を開けてアイザに「またあとで。」と言った。
「お帰りなさいませ、ハルト様。」
部屋ではライエさんが僕を出迎えてくれていた。
「ライエさん、ただいまです。今からお風呂に入りたいのですがいいですか?」
「はい。今からご準備させて頂きます。」
冷静を装う僕だけど、ちょっと胸がドキドキしている。
今は諦めて貰ってるはずだし、何もないよね…
「準備が整いました。ハルト様、どうぞこちらに。」
ここからはライエさんの姿が見えないので、意を決して僕は脱衣室に入った。
そこには、メイド服を着ているライエさんが待っていた。
「上着とズボンをお預かりします。」
僕の脱衣を手伝ってくれたライエさんはシャツとパンツになった時に、脱衣部屋から出て行った。
「はぅ…」
僕は、期待と不安と安堵と残念とかの気持ちが混ざり合った溜息を深くついていた。
だめだな。ライエさんは僕の約束をちゃんと守ってるのに、肝心の僕がうろたえてたら失礼だろ。
しっかりしろよ、俺!
依頼の疲れを洗い流すと同時に、僕は煩悩も流そうと、湯船に長く浸かっていた。
緊張も解けたのかな…なんか眠くなってきた…
あれ? たしかお風呂に入ってたよな…
ここは…ベッド? っ!
僕は慌てて起き上がる。
「大丈夫ですか?」
ベッドの横にはライエさんがいつもの姿で立っていた。
そして、自分が素っ裸な事に気がつく…
「はい。湯船で寝てしまったのですね。ありがとうございます。」
僕の心は平静では無かったけど、湯船から助けてくれたライエさんに感謝するのが大事だし、礼儀なのだと理性がちゃんと応えました。
「いえ、凄くお疲れだったのですね。ご気分の方はどうですか?」
僕は、ゆっくりと深呼吸をして、状況を整理する。
髪も体もベッドも濡れていない。
かろうじてかかっている、下半身のシーツも濡れていない。
どうやって体拭いたんだろう? そもそも一人で持ち上げたのかな?
意識はシッカリしてるし、のぼせてもない。
「はい。大丈夫みたいです。ちなみに、僕をベッドに運んだのってライエさん一人?」
すこしうつむいたライエさんが「はい。」と答えた。
「重たかったでしょ? それに体も拭いてくれたみたいだし、色々と面倒かけてすみませんでした。」
もう、ここで恥ずかしがるのは男として間違いだと思うから、自分の事は忘れる事にします。
「いえ。魔法で多少の身体強化が出来ますので、問題ないですよ。」
僕は、その魔法を少し実演してもらった。
かるがるとソファを持ち上げたライエさんの姿に、感嘆の声を上げる。
「あと、体を拭いた時の事は恥ずかしいので聞かないで下さいね。」
そういったライエさんの頬が赤くなっていました。
「…」
僕、なにされたの? なにされたのぉおお!
少し遅くなってしまったけど、気分を入れ直して僕はアイザの部屋の扉を叩く。
メイドさんに扉を開けて貰って部屋に入ると、アイザはベッドで寛いでいた。
「遅かったじゃない。」
ベッドから起き上がったアイザは下着だけの姿だった。
そして胸には、さっき渡したペンダントが綺麗に輝いているのが見えた。
「気に入ってくれて良かった。」
「まあね。宝石も綺麗だし、デザインも好みだったわよ。」
指で確かめるように触っているアイザの顔が嬉しそうにしているのが判って、僕も嬉しくなっていた。
「うん。凄く似合ってる。」
僕はソファに座って一息つく。
「それじゃ、予定通りに明日の朝に出発でいいのかな?」
王都から南の『エルコン』に戻ってから、西にある『タラス』までに向かうとなると、朝の馬車に乗らないとならない。
「ええ、私はそれでいいわよ。」
ベットに座って僕の方を向いているので、胸のペンダントが良く見えている。
素っ気無い態度だったけど、そんなアイザの姿が可愛かった。
「あと、これは相談なんだけど…」
唾を一度飲み込んだ僕は、エイルさんの同行の話を切り出した。
「別にいいわよ。私達の行動に合わせてくれるなら。あと、泊まる部屋が別ならね。」
僕の悩みは杞憂だったようで、アイザの言葉も態度も普段見せているままだった。
あとは、エイルさんがアイザの条件を受け入れるかどうかなので、僕の心配事が無くなってホッとした。
「ありがとう。明日からまた、楽しい観光しよう。」
リュックから情報誌を取り出して、明日からの進むルートの観光スポットなどを調べたりして、夕食の時間まで、アイザの部屋で過ごした。
アラガル家も一緒の夕食事の時に、アイザとの旅の再開を明日の朝に出発する事を伝えました。
エイルさんの同行の話もこの時にしたら、マイジュさんも同行することになった。
目的のアクセサリーを手に入れたマイジュさんは傭兵業の休息と、同じく魔王島を見てみたいという気持ちもあっての同行の希望でした。
「ハルトさん、マイジュさん、この後に少し時間いいですか?」
食事の終わり頃にエーシャル婦人の言葉に、僕とマイジュさんは顔を見合わせて「はい。」と答えた。
エーシャル婦人達が宿泊している部屋は、この日の為に用意された家族用の部屋で、4LDKの大きな部屋だった。
僕とマイジュさんはリビングのソファに案内されて、腰を下ろす。
「お二人共、ありがとうございました。改めて感謝を示したいと思います。ですが、私達からお礼を渡すことが出来ません。なので、アクセサリーを買ってくれませんか?」
「え? ん? よくわからないですけど、買いたい物があれば買います。」
僕は『お礼の代わりに買って欲しい』って事は、だいたい格安にする話だろうと思い、取りあえず返事をした。
マイジュさんも、僕の発言に同調するように返事をしたので、同じことを思ったのだろう。
僕達の返事を聞いたエーシャル婦人の手にはいつの間にかアタッシュケースのような革のカバンを持っていた。
それを、テーブルの上に置いて開けると、中には僕がファルザ公国のアクセサリー店でみたSランクアクセサリーが並んでいた。
「これって、あの店の商品ですよね?」
「はい。国外避難の生活資金に持ってきました。」
「生活資金?」
僕はその言葉でこの流れの意味は理解出来たけど、そもそも生活資金が必要なのかが疑問になった。
「この城での生活になるんですよね? 生活資金っているのですか?」
エーシャル婦人が笑みを浮かべていた。
「子供達のお小遣いですね。とくに、プレゼントを贈りたい人が出来た時に、この国の税金を使わせて貰うのは気が引けますし、物を頼む事も遠慮してしまうでしょうから。」
正に正論。僕は大きく頷いて納得した。
「僕は、これが欲しいです。」
選んだのはもちろん『インベントリ』の腕輪です。店の売値は金貨250枚でした。
僕は、一度ほとんどの商品の効果を聞いていたので、即決めだったけど、マイジュさんは判らない物ばかりなので、エーシャル婦人が丁寧に教えている。
「今、手持ちが無いので、今から下ろしてきます。えっと、買取値段を教えて貰えますか?」
「そうですね。金貨150枚でどうですか?」
僕は店の売値で本当は良かったんだけど、それを言うと『お礼』にならないだろうし、定価で買うって僕が通せば、マイジュさんも定価買いになってしまうから、今回は何も言わずに「はい。それでいいです。」と答えて、席を立った。
「あっそうだ。この『テレパシー』の値段も一応教えて貰えますか? アイザが欲しいって言えば買うかも判らないので。」
『テレパシー』の値段は金貨50枚。定価が120枚だったのでこっちも格安になっていた。
「それじゃ、行ってきます。」
僕は部屋を出て、王宮の外に出る為の許可を貰うために詰め所に向かった。
「ハルトさん、どちらに向かわれるのですか?」
少し早足で廊下を歩いていた僕を呼び止めたのはサラティーア王妃だった。
「えっと、今から傭兵組合に用事が出来たので、ちょっと外出しようとしてました。」
「差し支えなければ、その用事の内容を教えて貰えますか?」
エーシャル婦人は、リビエート家の人達に必要以上の支援を無くす為に僕とマイジュさんを呼んだと思うし…残った品はこの街の店に売るとかするだろうし…
黙っていた方がいいのかな?
「どうかしましたか? エーシャルさんの事で何かありましたか?」
僕が悩んでいるとサラティーアさんが真剣な面持ちで僕を見ている。
「あっいえ、エーシャル婦人から、魔法付与アクセサリーを格安で売って貰えたので、そのお金を下ろしにいくだけです。」
心配しているサラティーアさんに嘘なんてつけません。
「そうでしたか、それなら丁度いいですね。今から私に付き合ってください。」
ほぼ強制のような言葉に僕は「はい。」と頷いた。
向かったのは、アラガル家の部屋。戻ってきました。
「失礼します。」
サラティーアさんが扉を叩いて部屋に入ると、僕が居ることにエーシャル婦人とマイジュさんが驚いていた。
「さっき通路で、ハルトさんから話を少し伺いました。それで、そのハルトさんとマイジュさんが購入予定の品を私が買い取らせて貰えませんか? 」
一同驚きの声をあげました。
「いや、僕は、アクセサリーを買うからお金を下ろしに行くとしか行ってないですよ!」
どういう経緯でサラティーアさんの発言になったのか疑いの目を僕に向ける二人に言い訳をする。
実際、サラティーアさんがお金を出したら、エーシャルさんの目論見がずれる事になってしまうような気がして、強く言い訳をしてしまっていた。
「サラティーアさん、なぜそのような事を?」
エーシャル婦人の問いにサラティーアさんが答える。
「ハルトさんはですね。今回の国外避難の働きも、お人よし行為で済ませているのですよ。」
え?! なんか怒られ始めた…
「この依頼の経緯が、そういう話の流れで始まったのは仕方がありません。ですが、依頼した私達の立場もあります。そして、感謝の気持ちを受け取って欲しいのですよ。」
僕は、なにも言えずに聞いていました。
「そう思っていた時に、ハルトさんが買い物をすると聞きましたので、それを褒章として受け取って貰いたいのです。私の家族を救ってくれたお礼も含めて。」
僕は、サラティーアさんの考えと想いを知って頭を下げた。
「すみませんでした。サラティーアさん、ありがとうございます。」
「と、いう事なので宜しいですか?」
僕は「はい。」と返事を返す。
それから、僕は『インベントリ』の腕輪を示し、『テレパシー』はアイザに確認を取ってから決めると説明して、アイザの部屋に向かった。
アイザは、また下着姿で寛いでいた。
もう、完全に自室になってないか? そんな事を考えながら僕は話をした。
「ピアスかぁ~、お母様に聞かないとダメかも。」
「じゃあ仮に、お母様が良いって言ったら欲しい?」
「そうね。離れていても、いつでも話が出来るのだし、欲しいわね。」
「じゃあ、取り敢えず買っておくね。」
「うん。わかった。」
アイザの素っ気無い返事だったけど、ちょっと嬉しさが混じっているのが判って、僕は頬が緩んでいた。
次の朝、朝食を済ませた僕は、サラティーア王妃から腕輪とピアスを受け取った。
マイジュさんも同じ腕輪を受け取っていた。
魔法付与アクセサリーは同時に5個までしか装着出来ない。
そして、最初に着けた者を使用者として登録するので他の人にはただのアクセサリー品になる。
なので、『インベントリ』の中身は本人しか出すことが出来ず、そして死んでしまったりしたら、二度と出すことは出来ない。
「使い方は以上です。」
サラティーアさんとエーシャル婦人の二人からの説明で僕はすぐに扱い方を覚えました。
『インベントリ』と呟く程度の発言で頭の中に入れた物が浮かぶので欲しいのを選べば手元に現れる。なのでRPGゲームのイメージに似ていたから、理解するのも早かったのです。
部屋に戻って、ピアスをリュックに入れる。
生活品や小物などは、カバンに詰めたり箱に詰めてから収納するほうが良い事も教えて貰っていたので、服などもリュックに入れて『インベントリ』に収納した。
「お気をつけて、いってらっしゃいませ。」
メイドのライエさんが僕を見送る言葉を言ってくれた。
「はい。ありがとうございます。」
僕はライエさんに笑みを返して一礼する。
「約束、待ってますから。」
ライエさんの恥じらう笑みが僕の心を刺激する。
「…はい。」
僕はそれ以上の言葉を思いつかなかった。
本当に良いのか?
いや…望んでいる自分も確かに居る。
…あぁあ! これ以上考えても無理!!
間違った事をしなければ良いんだから、あとは戻ってきたときに考えよう! そうしよう!
僕はライエさんに「行って来ます。」と言って、アイザの部屋に向かった。
リビエート王家の皆さんと、アラガル家の皆さんに見送られながら僕とアイザを乗せた馬車は王宮の門を出る。
馬車の騎手はもちろんマイジュさんです。
結局、馬車1台も借りることになりました。
馬車はそのままエイルさんが泊まっている宿の前に止めてもらった。
「それじゃ、アイザと一緒にエイルさんと話をしてきます。」
「はい、いってきてください。」
マイジュさんを残して、僕はアイザを連れて宿のロビーに向かった。
宿に入ると、エイルさんが駆けつけるように現れた。
ロビーで待っていたようです。
「エイルさん、おはようございます。」
アイザを紹介し、アイザの条件を伝えると、少し困ったような顔になったけど、承諾して同行する事になった。
僕はその顔が気になって聞くことにした。
「なにか不都合でもありましたか?」
少し小さな声で恥ずかしそうに答えるエイルさん。
「えっと、あまりお金の余裕がなくて…」
「じゃあ、宿代と食事代などの旅費は僕が出します。」
そう言った瞬間、エイルさんが僕を抱き締める。
「ほんと! ありがとう、ハルト。」
「ちょっ! 少し痛いです。」
「あっ、ごめんなさい。時々、力加減を間違えてしまうのよ。」
僕は、息苦しさから解放されてから、深呼吸をした。
「それじゃあ、マイジュさんを待たせているので、馬車に戻りましょう。」
リビエート王から借りた馬車は、4人乗りの少し小さな馬車。
見た目は普通だったけど、客車に独立スプリングが付いている最高級馬車だった。
「マイジュさんお待たせしました。エイルさんも同行する事になりました。」
客室に、僕とアイザとエイルさんの3人を乗せた馬車は、ゆっくりと市内を抜けて『タラス』に向かって走り出す。
「タラスは温泉が有名な観光地みたいですよ。」
僕は会話の話題に、今日泊まる街の情報をエイルさん振りました。
「温泉って、地面からお湯が出ているやつだよね?」
興味を示したエイルさんに、『インベントリ』からリュックを取り出し、旅の情報誌を渡した。
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