第1話 C

「早く救護班を向かわせろ!他は総員所定の位置に着け!ここで絶対にくい止めるぞー!」

軽鎧人による捕縛作戦の失敗によりバリケード側では指揮官が次の対応をすべく指示をとばしていた。

 2機の軽鎧人を撃破し迫りくる暴走鎧人、凜は搭乗者の自動人形であるミヤビを破壊する任務を与えられた一人だ。

(私がミヤビを撃つ…)

 市民である自動人形を破壊する。この職業に就く以上はこういう事態になるということは覚悟していたつもりだ。

 これまでも違法改造され犯罪に利用された自動人形や暴走した自動人形に銃を向けたことは何回もあり、その度に自分のとった行動が正しかったのか悩むこともあった。

 しかし今回、よりによって大切な友人に自らの手を下す立場になってしまった。

 指揮官も苦しい選択だったのだろう。他の隊員がやることも考えたが、現在の人員の中で最も成功率を上げるには凜の腕にかけるしかないのだ。

(彩月…私は…)

 この任務を実行し成功させても自分は彩月とさらには自分自身とどう向き合っていけばいいのかそんな思いが止まらなくなっていた。

(ううん、今は任務に集中しないと…)

 凜は後ろを見る。1台の装甲車の上部、そこに待機している隊員の構えているのは対鎧人用のランチャーだ。もし自分が失敗しこのバリケードを突破されそうになればあれで鎧人と搭乗者もろとも処分するのだという。

 既にかなりの被害が出ているが、治安局としてはなるべく被害を抑えたいのだ。

 仮にランチャーを使った場合は事故とはいえ市民に対して武器を使用したと大きく非難され街を守る治安局としての信用を失うだろう。

 そうならないためにも

 (私がやらないと…)

 何度も自分に言い聞かせる。

 そんな凜に蒼が近付いてきた。

「呼吸ならびに脳波が乱れているぞ凜」

 蒼は一緒にいるときは常に凜のバイタルを測定しているのだ。それに付き合いが長く自分のことをよく知っているため隠し事が殆んど出来ないのだ。それに

「さっきの電話聞こえてたでしょ」

「ああ、あの鎧人の搭乗者のことか」

 自動人形の聴覚は人間の数百倍にもなるため広範囲のあらゆる音を聞き分け判別する事ができる。だからさっきの通話も蒼には全て聞こえていたのだ。

「前に話したよね、私の友達が病気で時々発作を起こしちゃうって」

「記憶している」

「あそこにいる人はその発作が起きたときに補助してくれる人なんだ」


それでね、と凜は続ける。


「あの人が側にいるようになってから彩月変わったの、その前までは発作がいつ起こるか凄く不安で迷惑をかけちゃうからって誰とも関わろとしなかった」

でも、と凜は暴走鎧人の方を見る。

「ミヤビが付き添うになってからは話すことが多くなって笑顔も増えたの、それに最近は発作がかなり少なくなったって」

「ふむ」

 感情が溢れ声が震える。

「だから、ミヤビは彩月にとっていなくちゃいけない人だし、私にとっても大切な友達なの!」

 強く言い放つ、それに対して

「では、お前はどうしたい?」

 蒼は問いかける。

 凜は涙を浮かべ胸に手を当て言った。

「私はミヤビを助けたい!」

 腕を組み聞く蒼、その目の光が数秒程消える。まるで人が目を伏せるように、そして

「わかった、オレが助けに行こう、凜の望みを叶えるのもオレの役目だ」

 そう言うと指揮官の所へ向かい説得を始めた。

「オレに少し時間をくれ、先行して搭乗者を確保する」

「待て、勝手を言うな!すでにこちらには負傷者が出ているんだぞ!」

 反対する指揮官、それに対し蒼は眼を一瞬強く光らせ

「だからこそ、これ以上お前達に被害が出ないようにオレが動くんだ。それに同胞はオレの力で助け出したい」

 強く言い放つ、指揮官は少し考えると

「分かった・・・認めよう。だが、お前も無理をするなよ」

 渋々了承したのだった。

「感謝する」

 軽く頭を下げ蒼は凛の元へ戻ってきた。

「許可が下りた。では、行ってくる」

「あまり無茶はしないで、ミヤビをお願い」

「ああ」

 心配そうに見つめる凜を背に蒼は暴走鎧人に向かって走り出した。




(各部異常なし)

加速する身体、すでに人間の早さの限界を越えている。

(救出対象:自動人形ミヤビ)

 蒼は自分が取るべき行動を再認識する。

(凜を悲しませないことがオレの役目)

 凜のためにいてくれ、それがかつて自分を破った男からの頼みだった。それ以来自分は凜を見守ってきた。今自分が救おうとしている同胞も自身を必要としている者がいる。だから救わねばならない。

 目の前に迫る鎧人、先程の軽鎧人との接触を望遠で確認していたためある程度の行動は予測できる。注意すべきは両腕とヒートカッターだ。

 こちらに気付き急停止する暴走鎧人。足元まで近寄ると右腕を振り下ろしてくる。それを回避すると今度は反対の腕がくる。

(甘い!)

 跳躍することによってそれをかわし、下ろされた状態の腕に着地する。そして一気に操縦席を目指そうとするが、ヒートカッターが腕に沿うようにこちらを狙ってきた。足場となっている腕の幅は狭く左右どちらかに避ける事はできない。さらに上に跳ぼうとすればカッターが追ってくる可能性がある。そのため後ろへ跳躍しカッターの攻撃範囲から離脱した。

 思ったより厄介だ、蒼は思った。先程の戦闘もかなりの実力があるはずの五番隊の軽鎧人を2機相手に勝っているのだ。

 これは搭乗者の実力によるものなのか別の要因によるものなのかはわからない。

 だが、失敗するわけにはいかない。

 相手が攻撃してくる。それを分析し高速処理する。そしてそれぞれの腕が攻撃してこない箇所を割り出した。

 このルートなら辿り着ける。蒼は再度駆け出す。

 迫る攻撃、それは分析通りの軌道だ。回避しようと動く、だが

(!?)

 視覚が乱れた。ほぼ同時に身体の各所にエラーを確認した。

(くっ、こんな時に!)

 蒼はエラーを即座に解析し修正した。ほんの一瞬の動作不良だがそれが大きな隙となった。

 暴走鎧人の伸びた腕が蒼を捉え弾き飛ばした。

(ぬおおおおお!)

 姿勢を制御するが勢いは殺せずビルのガラスを突き破り机椅子を巻き込みながらオフィスの内壁に激突した。

 ノイズが走る視界に横切る暴走鎧人が映る。蒼は復帰しようと試みるがシステムがダウンし機能が停止した。

「すまない、リ…ン…」





 蒼がビルに突っ込む瞬間、凜は目を見開いた。

「嘘…」

 自分の危機を蒼が救ってくれたことは何度もある。

 だから先程の蒼の言葉と行動は自分に希望を持たせてくれた。そしてこれまでならそれでどうにかなった。

 しかし、蒼までもが倒されてしまった。

 次こそ自分で決断し実行しなければならなくなったのだ。


私は…私は…!


 凜は走り出す。ここで立ち止まっていても答えは出ないからだ。

 後ろから戻れ、と声がする。だがもう進むしかない。

 暴走鎧人との距離は20メートルもないところまで迫っている。

 立ち止まり銃を抜き構える。銃身の上に照準サイトが表示され剥き出しの操縦席の様子がはっきりと見ることができ、そこには先程まで一緒にいた友人の姿があった。

 そのミヤビと目が合う、すると突然暴走鎧人が自ら動きを止めた。





 ミヤビはこの数時間内で起きたことを思い返す。

 公園で凛を待つ彩月、久しぶりに会うことになる友人が現れるのを楽しみにしていた。

私もそうだ、彼女は元々は彩月を通しての付き合いだが、いつの間にかひとりの友人として接してくれるようになっていたのだ。そんな凜に会えるのは嬉しいと思う。

 そして凜が来た。彩月はとても嬉しそうだ。会うたびにこの二人のやり取りを見れるのは素晴らしいと思う。

 彩月が私のことをお姉ちゃんと言った。

 ダメだ、正直嬉しすぎてしんどい、

 ただ、そのまま反応してしまうとイメージが崩れるので少し困った風に装い控え目に嬉しい気持ちを伝えた。

 変な男達が話し掛けてきた。何だコイツらは、凜がストレートに断りを入れるがヤツラそれを理解してない、私が追い返したいところだが自動人形の制約として管理者に直接危害があると判断出来ない限りは手を出せないのだ。

 さらに男が声を掛けてきた。コイツも何だろうか、だがこの男は凛と協力してヤツラを追い返した。私の中でこのサングラスの評価が変わる。悪い奴ではないと

 だがサングラスが野良人形であることが発覚し凜が連行することになった。休みの日なのに治安局員は大変だ。

 凛達が公園を出てから彩月が大変だねと困った顔で言う。私もそう思う。

 すると、また知らない男から声を掛けられた。今日はなんて日だ、今度は少し歳がいっている上に白衣というこの場に不釣り合いな格好だ。

「すいません、ちょっといいですか?」

 怪しさMAXで尋ねてきた。彩月は確かにかわいい、胸を張って自慢できる。ゆるふわ系で学校でも男子達に密かに人気なのだ。これは嬉しいことだが補助役兼保護者の私からすればとても心配なので不用意に近付く者には警告を発している。

 今近付いてきた男も下心があるに決まっている。なら今度は私が手は出さずとも追い返さなければならない。

「この子に何か用ですか?」

 彩月を自分の背で隠すように前に出る。

 お前の思い通りにはさせない。しかし白衣の男はニコニコしながら

「いえ、私が用があるのは貴女のほうですよ」

 そう言った。

 私…だと?どういうつもりだこの男は、これはつまり私にも隠れファンが出来たのか?

そう高速で思考していると男に動きがあった。手に何かを隠しているな!

…!

 高速思考が出来る自動人形にとってその動きは全て把握している。だが一瞬思考が何故か途切れた気がした。そして

「何!」

 気が付くと首筋に10センチ程の筒状の物が押し当てられている。

「これは…?」

 男を見る。相変わらずニコニコと笑っている。そして

「では、実験を始めよう」

 その言葉と同時に筒状の物が押し込まれる。小さい空気の噴出音がして何かが首に打ち込まれたのだ。

「な…にを…?」

 何をする!と叫ぼうとするが声が出せない。手を伸ばし男を捕まえようするが足が思うように動かず膝を落とした。

 何が起きている?この男は自分に何をした?

 彩月がすぐ横で私の名を呼んでいるが何故か遠く聞こえる。見上げると白衣の男がさっきより口がつり上がった笑みを浮かべこちらを見下ろしている。そして白衣を翻しながら背を向け何事も無かったかのように歩いていった。

 待て…!思考は出来る。だが身体が言うことを聞かない。恐らく打ち込まれたのはウイルスを含んだナノマシンの類いの何かで私の身体と電子領域を猛スピード侵食していく、電子領域内で必死に防壁を展開しくいそれをくい止めようとするが、防壁は突破され制御中枢部に到達したそれにより身体の制御系が奪われた。私の制御を離れる身体、そしてゆっくりと立ち上がる。私の意思とは関係なく身体が勝手に動いているのだ。

 心配そうな目で彩月が見ている。しかし私の身体はそれに対してなにも反応することなく、自動人形としての優先事項に追加された行動指示に従い動き出した。

(優先行動:大型機械の奪取及び操作)

(行動目標:帝都中央庁舎の破壊)

(想定対処行動:障害ならびに敵対勢力は排除)

 乱れる視界に表示された指示内容に私は驚く、これはテロで、その駒に自分が利用されてしまったことに衝撃を受ける。

なんて事だ、なんとかしなければと身体のコントロールを取り返そうとするが失敗に終わる。

 公園から飛び出し街中を走っていると建設途中のビルが見えてきた。その周囲は人が入らないように高い囲いがあったがそれを軽々と飛び越える。

 建設中のビルはまだ基部が剥き出しの状態で複数の重機などが建材の運搬をしている。

 その中の現場の隅に大型の作業用鎧人が置かれていた。現在の工程には使用しないのだろう操縦席に人の姿はない。

 私の身体は一直線にその鎧人に向かう。

 その途中に何人かの作業員が気付き止めようとするがそれをかわして鎧人の元に辿り着く。

 手すりをつたい操縦席の位置まで登る。ハッチを開け中に入るとあたりを確認する。

 起動させようとするがキーが見つからない。

 すると、私の掌から銀色の液体のようなものが滲み出す。それはまるで意志があるように指の上を移動してキーの差し込み口に入り込む。

 すると鎧人が起動、私自身は操縦方法など知らないのに身体はそれを操作している。逃げ惑う作業員を尻目に囲いを破壊し通りへと飛び出し目標である中央庁舎に向かって移動を開始した。

 身体は私の意思とは関係なく街を破壊しそれを阻止する者達を排除してきた。

 だが、私自身はそれを知覚している。彼らを私は知らないし逆もそうだろう、それでも何も罪の無い人々を私がを傷付けてしまっている。

 意識はあるのに自分が破壊することを止めることが出来ない。そしてこうなった以上恐らく私は破壊されるのだろう。

 人に危害を加えた人形の最後は知っている。彩月のことが気掛かりだが仕方がない。何よりこれ以上続けたくない。

 

 だから、誰か早く私を止めて下さい!


 目の前にまた誰かが来た。銃を構えこちらを狙っている。そうだ、早く私を撃って!

 しかし、目の前の人物を敵と認識した身体は排除しようとする。

 また、傷付けてしまう…

 見たくない、しかし相手の顔を確認した瞬間、私は最後の抵抗をしていた。

 あの人を傷付ける訳にはいかない!





 動きを止める暴走鎧人を前に、何故?と凜は直接剥き出しの操縦席を見る。

 項垂れていたミヤビが顔を上げるに。その目からは体内循環液が涙のように流れていた。

「ミヤビ!」

 凜は叫ぶ、すると鎧人からプツンとスイッチが入ったような音がした。

『り…ん…』

 スピーカーを通して聞こえるミヤビの声

「ミヤビ、その、私は…!」

 何を言えばいいかわからない、自分は今からあなたを撃つ、そんな事を友達に言える筈がない。

 そんな凛に対してミヤビは

『お願いです…凛…私を撃って、下さい』

 力のない声で言う。

『長くは、押さえられません…、だから早く私を…撃って…私であるうちに…』

 歯をくい縛る凛、銃を持つ手が震える。

『貴方には…悪い…と思っています。それに彩月のことも…』

 息がさらに荒くなり、視界が涙で滲む。それを袖で拭い再度ミヤビに狙いをつける。

 脳裏に浮かぶのは自分と彩月とミヤビの思い出だ。彩月はミヤビと一緒になって前に進めるようになった。最初は自分だけだったけど少しずつ友達も出来てきた。それはミヤビがいつも側にいたからだ。本人は彩月自身の努力の結果と前に言っていたがそんなことはない。そして彼女は私にとっても大切な友達だ。

 その友達を

『撃って下さい!』

 割れる声、ミヤビの全力の叫びが凛を引き戻す。

そして

「うあああああ!」

 叫び、引き金に指をかけ狙いを定める。

望遠サイトに映るミヤビは微笑み


あ、り、が、と、う、


その口元がそう動いた。

「ーあああああああああっ!」

 凛は引き金から指を離し、銃をを下ろすと力なく膝をついた。

「やっぱり…むりだよう…」

 地面を見つめる瞳からは涙が止まらない。

 覚悟した。決意した。決心した。だが

「私には・・・できないよ・・・」

 もう、何も考えられない。

 暴走鎧人が動き出しこちらに迫ってくる。その腕が自分を掴もうとしている。

 目を閉じる。このまま、自分も投げ捨てられ潰れてしまうのだろう。そしてミヤビは仲間によって処分される


守れなかった、この街を


守れなかった、大切な人を


守れなくった、約束を


「ごめんなさい」

それが、凛の最後の言葉・・・

になるはずだった。

「あれ?」

 いつまで経っても掴まれる気配はない。

 恐る恐る目を開けると信じられない光景が広がっていた。

 暴走鎧人の両腕が別の肘から先だけの巨大な腕に掴まれ動きを封じられているのだ。全力で履帯が動いているが地面を削っているだけで進まない状態だ。

「これは、一体・・・?」

 予想外の展開に呆然とする凛、その時

「うーん、何とか間に合ったかな?」

 緊張感のない声に振り向くとそこには

「龍…司くん?」

「よっ」

 公園で出会い交番に連行したサングラスの青年、鬼道龍司が立っていた。

「えっ!何で龍司君がここに?」

 交番にいたはずじゃ、と拍子抜けしながら問う凛、対する龍司は

「凛が出ていってすぐに追いかけたんだけど、途中で怪我してる人とかの避難手伝ってたら通りに入れなくなっててさ」

 歩きながら前に出る。確かに今この通り周辺は治安局によって封鎖されているはずだ。

「それで何とか潜り込んだらちょうどここだったわけ」

 立てる?と手を差し出す龍司、その腕はさっき会ったときの物とは違っていた。

「あ、ありがとう」

「どういたしまして、それにしてもやっぱり泣いてるより笑った方が凛は可愛いと思うなオレは」

 立ち上がると同時に突然顔を両手で触れられ顔を真っ赤にする凛

「ちょっと!何するのよ!それに可愛いって…」

「さっきのお返し、あとオレは素直に思ったこと言ってるだけだよ」

 訳がわからない、しかしこのやり取りのおかげで少し頭が冷えた。鎧人の方を見るとヒートカッターが謎の腕を切りつけているがすぐに修復されていくこのタイミングで現れた腕、考えられるのは

「ねえ、あの腕はあなたのなの?」

 龍司に疑問をぶつける。

「そうだけど」

 あっさり答えた。再生する腕、さらにはどういう原理で動いているのかも見ただけではわからない。不思議な力だ。

「あとあんまり時間無いから早めに答えて欲しいんだけど、凛はどうしたい?」

 龍司の問いかけに驚いた。それは先程蒼からされた問いと同じだったからだ。

「えっ、それってどえいう意味なの?」

「そのままの意味さ、君はこの状況にどんな結果を求めるのかって」

 私はミヤビを助けたい、そう願って蒼はそれを実現しようとして敗れた。今度は目の前の青年が同じ問いかけをしてきている。いくつもの選択肢が頭の中に浮かぶ、そしてその内の一つを選ぶことにした。その前にまずは

「ねえ龍司君、あなたにはこの状況を打開出来うる能力があるの?」

 聞いた。すると彼は笑みを作り

「もちろん、オレの持つ全ての力を使って凛、君の望む結果に導こう」

 自身満々に答えた。それに対して凛は

「わかったわ、私の答えはミヤビを助けたい、そしてあの暴走を止める」

 このままでは先程と同じ答えだ。これまでは力を合わせる仲間に心のどこかで頼りきっていた。それではその仲間に負担が集中してしまうのでそれではいけない。自分もその負担を共に受けなければならない。

「だから、あなたの力で私を手伝って欲しいの」

 これが凛の出したこの状況を最善の方向に持っていくための答えだ。

「わかった、その望みを叶えるためオレは君に協力しよう」




「そんじゃ、サポートよろしく」

 龍司は前に出る。さっきの状況を見たときは少し心配だったがもう大丈夫そうだ。

 強い娘だ。自然と笑みがこぼれる。

「えーと、なんで笑ってるの?」

 後ろの凛が半目で聞いてきた。

「可愛い子から頼られるのって嬉しいじゃん」

 また、凛が紅くなる。そして

「あなたは!どうしてこう・・・まあ、そのありがとう」

 いちいち可愛いリアクションだ。

「でもどうして、ここまでしてくれるの?私達、今日初めて会ったのよ、それに人に会いに帝都に来たんでしょ?」

 確かにその通りなのだが

「もちろん人に会うためにこの街に来たよ、だけど会わなくちゃいけないのは一人じゃない」

 えっ?と凛が疑問の声を出す。

「オレが父さんに言われたのは、帝都のいろんな人に会えってこと、凛もその中の一人だし、それに凛をサポートしろって」

「それってどういうこと!?」 

 まあ、そうなるよなと思いながら

「オレも最初は父さんからの頼みだったから陰ながら協力しようとしてた。けど実際に会って話したら気が変わった。オレは凛、君に惚れた!」

 えっ?と凛の目が点になる。そして数秒

「ええええー!」

 通りに凛の声が響き渡る。

「ちょっと待って!りゅー…」

「行くよ!」

 凛の言葉を遮り走り出す。正直、今言ったことが恥ずかしすぎるからだ。

 暴走鎧人の両腕は自分の《巨人の腕》で押さえている。ただこれは左右ワンセットを維持するのが限界なためヒートカッターの対策は龍司自身はしていない。

 ヒートカッターが迫った瞬間に銃声が3連続響き龍司の目の前でそれが砕けた。

「この!」

 残ったアーム部分に龍司は拳を繰り出す。

 打撃を受けたアームは衝撃により基部が破壊され弾け飛ぶ。

 流石だ!少しだけ後ろを振り返る。

 額に汗を浮かべながら自信に満ちた表情で凛は頷いた。

 親指を立ててそれに答える。目標はもうすぐだ

 一気に跳躍し操縦席に取り付く龍司、そこにはぐったりとしたミヤビがいる。

 循環液で濡れた瞳が僅かにこちらを見てうっすらと微笑んだ。

 龍司は優しく微笑むと手を伸ばし頬に触れる。

「よく頑張った」

 すると、ミヤビの身体の至るところから銀色の液体が染みだしそれは龍司に向かってくる。それを抵抗することなく受け入れる。

 それは龍司の身体を奪おうとする。しかし

「オレには効かない」

 少し目を閉じ、体内に侵入したそれを掌に集中させ処理をする。

「ナノマシンの休眠化完了」

 そして、今度は右手をミヤビの首の後ろまで伸ばし指で触れる。するとその指先から細い光のコードがあらわれミヤビの首の付け根の接続部に入り込む。それにより龍司は彼女の中枢部にアクセスし内部の電子領域を修復すしたのだ。一瞬ミヤビの身体が震えたがすぐに治まり、先ほどまで辛そうだった表情は穏やかなものになっていった。

「これで終わりっと」

 一息つきミヤビを抱えあげる。時間ギリギリと言ったところか、《巨人の腕》を解除するとそれは光の粒子となって消える。操縦者のいなくなった鎧人は両腕をその場に力なく下ろし動かなくなる。このままここから離れなければならないのだがミヤビを抱えたまま飛び降りる訳にもいかない。だから

「こんな感じかな」

 自分の足元に光の粒子を発生させ形を作っていく、それはスノーボードに出力器をつけてような物で

「よっと」

 完成したそれに乗るとすぐに上昇し鎧人から離脱した。





 凛は先程場所から少し下がった場所に移動していた。凛自身は自分が助け出すと言ったが龍司が君を信用してるから俺の腕を信用してほしいとヒートカッターの対処にまわる形となった。そしてカッターの破壊後はすぐ移動するように龍司から指示されていたのだ。

 龍司達が乗った出力器付ボードがゆっくりと降りてくる。

 着地と同時にボードは消失し、龍司はその場にミヤビを寝かせる。

 そこに急いで凛は駆け寄る。

「龍司君、大丈夫?それにミヤビは…」

「大丈夫、彼女もすごく頑張ったおかげで修復も成功した」

 凛は感極まって龍司に抱き付こうとした。しかし

「近寄るな!」

 彼は厳しい表情で拒絶した。

「えっ…」

 これまでとは違う気迫に驚く凛、一方龍司もハッ、と我に返り

「ごめん、その、あの力使うとすごくエネルギー消費する上に放熱がやばくてさ、今オレの身体凄い熱いんだ、凛が触ったら大火傷しちゃう」

「そ、そうなんだ」

 よく見ると、髪の色が赤く変っていて周囲も急に温度が上昇したように感じる。

「あっ…」

 凛は見た。龍司が掛けていたサングラスが熱により変形し地面に落ちるのを

 サングラスに隠れていた龍司の素顔は

「綺麗な目」

 透き通るような碧の瞳をしていた。

「あ、ありがとう」

 龍司の顔が紅くなる。そして自分の発した言葉を自覚した凛も本日4度目の赤面を見せるのだった。

「えーと、えーとそう!さっきのお返し!」

 とっさに誤魔化すが


 オレは凛、君に惚れた!

 

 その言葉が甦り、さらにダメージを大きくしていった。

「ああああっ!もう!」

 自分でも訳が分からない。さっきから調子が狂いっぱなしだ。

 けど

「終わったんだよね?」

「そうだね」

 彼も肯定した。

 少し離れた位置の沈黙している鎧人を見る。このあと回収され事故の調査が行われるだろう。

 事後処理で暫く忙しくなるな、そうなると彼はどうするんだろう?

 まあ、自分には関係ないことの筈だ。

 そんな思いを巡らせていると、音が聞こえてくる。

 龍司を見ると険しい顔で鎧人を見ていた。改めてそれを見たとき今までの達成感が全て吹き飛んだ。

 暴走鎧人はまだ生きていた。煙を吐きながら自分たちを狙って向かってきたのだ。

「何で?誰も乗ってないのに!」

「なるほど・・・一部鎧人に移ったやつが自動操縦システムを掌握したんだ」

「さっきの腕は出せないの?」

「ちょっと無理し過ぎて暫く使えない」

「じゃあ逃げましょう!後ろの本隊迄下がればランチャーでとどめをさせるわ」

 今なら対象が無人のためランチャーによる攻撃が可能だ。

「そう・・・だね」

 龍司が立ち上がるり歩きだそうとするがすぐに膝をつく

「龍司君!」

「これは思ってた以上にダメージがキツイな、凛、ミヤビを連れて逃げるんだ」

「だめ、あなたも一緒に逃げるの」

凛はミヤビを何とか背負い、龍司も連れて行こうとするが

「無茶を言うな、いくら君が鍛えていても自動人形を二人も背負うなんて無理だ!」

 自動人形は形こそ人に近いが中身は様々な種類の部品の集合体だ。タイプによって異なるが見た目以上に重量があるのだ。そのため鍛えている凛の身体能力でも二人を同時に運ぶことはかなり厳しい。

 しかし凛は諦めない、龍司に触れた部分に火傷を負いながらも無理やり背負う形で二人を引きずり一歩また一歩と踏み出して進む。だが暴走鎧人に追い付かれるのは明らかだ。

「こんの、このぉ、はあ!」

「凛、オレを置いていくんだ、オレなら自力で這ってでも逃げれる」

 汗だくになり顔を赤くしながらも必死に歯をくい縛り進む凛、しかし

「ああ!」

 足がもつれ転んでしまった。とっさに体をひねり二人の下敷きになるのは避けることが出来た。

 しかし鎧人はすぐそこまで来ている。だがもう声を出す力も残っていない。

 もう、だめなのかな…地面から伝わる振動を感じながら凛はそう思った。




「撃てー、撃ちまくれー!」

 声が聞こえた。これは指揮官の声だ。仰向けの状態、逆さになった視界にはこちらに銃を撃ちながら走ってくる機動隊員達と装甲車が見えた。指揮車が目の前で停まる。すると降りてきた指揮官が凛を担ぎ上げる。

「おい、そっちの二人も早く運べー!」

 隊員数人係りで龍司とミヤビを担ぐ、だがこのままでは逃げられない。装甲車と 他の隊員達が銃で少しでも時間を稼ごうしているが鎧人の装甲には効果が薄い。それにこれだけ距離が近いとランチャーも使えない

「く、だめなのか…」

 指揮官が苦言を漏らす。もうそこにいる誰もが諦めかけた時だ。

「撃ち方止めー!」

 大きく澄んだ声がした。すぐに隊員達が射撃が止める。すると

「イィィィッヤッホー!」

 また別のテンション高めな声が上から響き、鎧人のほぼ手前の地点に何者かが着地した。

「アタシ、参上!ってね」

 着地した人物は手にしていた2メートル近い大剣を刃を鎧人に向け地面に突き刺した。

「ヨッシャー!フィールド全開!」

 その言葉と同時に鎧人が大剣に激突した。通常であれば2メートル近い大剣であろうと質量差の前には敵わないだろう、だがこの大剣は周囲に特殊な力場を発生させ鎧人の進行を止めていた。

「あぁ・・・」

 指揮官に担がれた状態の凛の口から思わず声が漏れる。この突如現れた人物は凛が待っていたチームの仲間の一人だ。この絶望的な状況の中それは来てくれたのだ。

「和・・・波・・・」

 喜びの涙を浮かべその者の名前をつぶやく、名を呼ばれた和波は振り向かない。だが言葉は返した。

「よくがんばったね凛!あとはアタシ達に任せて!」

 対する鎧人は現れた障害を排除するため腕を伸ばす。それを見た和波は、ニィッと笑うと

「そう来るか、よーし!砕牙!ヨロシクー!」

 誰かの名を呼ぶ、すると

「心得た、皆動くなよ」

 隊員達はいつの間にか装甲車の上に立っている存在に驚く

 長髪を後ろで縛り抜刀の体勢をとる姿はまるで侍だ。

 砕牙と呼ばれた侍は跳躍する。そして腰から刀の柄を引き抜いた。だがそこに本来あるはずの刃は無い、砕牙はそれを目にも留まらぬ速さで2回振った。すると

「おお!」

 驚きの声が上がる。鎧人の両腕が肩から切断され下に落ちたのだ。

 刀を鞘に納める動きをしながら和波のすぐ後ろに着地する砕牙、和波は大剣を支えている状態で頭だけ振り向く

「流石は砕牙~♪」

「当然だ」

 互いに軽く笑みを見せる二人、そして

「後は頼みます」

「タイチョー!」

 揃って上を見た。





「応よぉー!」

 上空から返事が帰ってくる。その場にいる誰もが空を見て指差した。

「鳥だ、高速戦闘艦だ、いや人だー!」

 空から落ちながら攻撃準備をする。せっかくの休日に家族とのふれあいを邪魔された父親は怒っていた。

「全く、久々に娘とイチャイチャ出来ると思ってたのに急に呼び出された挙げ句にカタパルトで人間打ち出すって、なに考えてんだ上はー!」

 とりあえず愚痴ると通信が入る。

『目標は既に無人ですので思いっきりやっちゃって構いません。あと隊長?一応この作戦中の発言、記録残りますよ』

 通信の相手は自分達のチームのオペレーターだ、

「いや、これくらい言わないとやってられないからさ、それと聞いてくれ!この間娘がハイハイの記録更新したんだよ!」

 突然の娘自慢にオペレータはまたかと思いながら

『よ、良かったですねー、じゃあお祝いに今の発言記録消しときますね』

 隊長は助かる、と礼を言う。

『ところで隊長』

「何だ?」

『もう目標に当たります』

「それは早く言ってー!」

 人が着弾した。その言葉通り隊長は鎧人の上に減速無しで着地、その衝撃で鎧人の巨体が少し浮く、その瞬間に和波が大剣のフィールドを解除し砕牙と共に素早く後方へ跳躍して距離をとった。その直後

「一撃必中ー!」

 隊長が落下による勢いを右腕に装備していたパイルバンカーにのせて鎧人の車体の装甲を貫く、そして

「人の休日返しやがれー!」

 パイルバンカー後部のシリンダーが収縮し強大な空気の衝撃波が放たれ内部駆動系を破壊する。更に衝撃波は鎧人を貫通し地面に達すると周囲にそれを広げ直径約10メートルの範囲を陥没させる。

 鎧人はクレーターの中心で両腕を失い機体を傾かせた状態で完全に停止した。




 事の顛末を現場近くのビルの屋上から眺める人影があった。白衣の男だ。

 男は風に白衣をなびかせ冷めた表情をしている。

「目標こそ達成は出来なかったが、実験は概ね成功といえるだろう」

 白衣のポケットから筒状の物を取り出して見つめる。それはミヤビにナノマシンを打ち込んだ物だ。

「これで、計画を次の段階に進められる」

 ふっ、と笑みを浮かべながら男は空を見上げる。

「さあ、お前たちはどうする?真東の民よ」




 凛は巨大なガラクタと化した鎧人から少し離れた場所、救急車両の横に設置された簡易ベンチに腰掛けている。

 既に簡単なものだが処置を受け腕や指には包帯、顔にも絆創膏を貼っている。

 手には後から合流した事後処理担当の隊員から渡されたお茶の入ったカップを持ち。処理に追われる隊員達を見ていた。

「終わったんだよね」

 今度こそ終わった。この短い時間の間に起きたことを思い返す。

 彩月達と買い物を楽しむ筈であったが、彼との出会いから作業用鎧人の暴走にそれを止めるための任務への参加、そして友人を手にかけるどうかの決断と彼の協力、そして最終的に来てくれたチームの仲間

(いろいろありすぎよね・・・)

 そんなに長い時間は経っていないにも関わらずあまりにも多くのことが次々と起きたため心身共にかなり疲れていた。

「あ、リーン!」

 声を掛けられ前を見ると先程空から降ってきた和波と砕牙が歩いて来た。

「二人共ありがとう、助かったわ、ところで隊長は?」

 凛は仲間の二人に危機を救ってくれた礼を言う。

「タイチョーならあっち」

 和波が困った顔で指を指す。その先には現場指揮官に説教されている自分達の隊長の姿があった。

「あー」

 なるほど、と凛は納得した。またやり過ぎたんだなと

「そういえば蒼はどうしたの?」

 和波が聞いてきた。

「蒼は回収されてラボに運ばれちゃった。外部の損傷はひどいけどそれ以外は大丈夫みたい」

 後でラボに顔を出さなきゃいけない、凛はそう思いつつ、この仲間たちの先程の予想外な登場の仕方について尋ねた。

「ところで、間に合ってくれたのは良かったけど、どうして空から?」

 それに答えたのは砕牙の方だ。

「我らも途中まで急いで向かっていたんだが間に合うかどうか距離的にかなり厳しくてな、そしたら上から連絡があり、指定された場所に行ったんだが」

 額に手を当て目を伏せる砕牙

「そこには我らの装備一式と」

「なんと鎧人射出用の移動式カタパルトがあったってわけ」

 和波が続けた。そこで凛は全てを理解する。

「まさか、それで…」

「そ、そのまさか、上からこれで一気に距離短縮しろって」

 やれやれ、と呆れリアクションする和波

「まあ、笠教官の防護符のおかげで風圧や衝撃に関しては問題無かった。ただ私は予定より手前に着地してしまったからそこから走りながらこいつの邪魔にならぬように先に射撃中止の指示を出した」

「な、なるほど…」

 何かしれっと凄いことしてるなこの人達と感じる凛であった。

「それにしてもさ凛、本当によく頑張ったね」

「我らが来るまでに搭乗者を無事救出するとは流石だな」

 二人が褒めてくれた。正直めちゃくちゃ大変だったがそう言われると嬉しい、だがこれは一人で出来た事ではない、首を横に振り

「ううん、私だけの力じゃないから」

 凛は、龍司の姿を思い浮かべる。その時

「あ、ちょっと待って」

 声が聞こえた。二人の機動隊員に付き添われ、輸送車両に乗り込もうとしていた龍司が凛の姿を見つけ駆け寄ってきたのだ。カップを横に置き立ち上がる凛

「龍司君!」

 龍司はさっきまで赤くなっていた髪も今は元の色に戻っている。両腕も出会った時のものだった。しかしそこには自動人形用の手枷がはめられている。

「えーと、オレ治安局に保護されるみたいなんだよね」

 困った表情を浮かべる龍司、野良人形で交番から抜け出しさらには禁止区域への侵入や作戦への介入などいろいろな問題がある。そのため当分の間は治安局預りの身となるのだ。それに対して凛は眉が下がったやや困ったような笑みを見せ

「ごめんなさい、でも一応規則だから、でも逮捕とかそんなんじゃないから、変な扱いはされないわ、多分」

 通常とは違い、彼は今回の件で重要な役割を果たしている。だから保護期間中の扱いも多少はマシな待遇をされるだろう。

「でも、治安局って凛、君がいるんだろ?君に会えるなら暫くそこにいてもいいかな」

 彼が笑う。どうして彼はこう人が聞いて恥ずかしいことをハッキリ言えるのだろう。凛は目をそらしながら言う。

「ま、まあ助けてくれたこともあるし、会いに行ってあげてもいいわよ」

 それを聞いた龍司は目を輝かせた。

「ホントに?やった!」

 そんなやり取りをしていたが

「あのー、そろそろ移送していい?」

 付き添いの隊員達が聞いてきたので、会話を切り上げ龍司が乗った輸送車両を見送った。

 この件が落ち着いたら彼の登録先を一緒に探そう、そう思いながら後ろを向くと和波が砕牙に寄り添いながらニヤニヤしていた。                                    「えっ、何?その顔は!」

「いやー、凛にも春が来たかなーって」

「こ、これは違うの、彼には助けてもらったしその…」

「いいのいいの、初々しいなあこのー」

「だからっ、違うんだってー!」

 必死に否定する凛の声が現場に響いた。





 帝都から遠く離れた町、そこの小さなラーメン屋の席にサングラスの男はいた。

 店の隅にある受像器からはドラマの再放送が流れている。

「チャーシュー麺お待ち!」

 店員が頼んだ料理を運んでくる。

 どうも、と礼を言い割り箸を割り麺をすすり食べ始める。

『夕方のニュースです』

 受像器の番組が変わった。

『今日の昼頃、帝都南区で建設作業用の鎧人が暴走する事故が発生しました』

 男は箸を止めニュースを見る。

『当初、治安局の軽鎧人による捕縛作戦が行われましたが失敗し、その後治安局の特殊部隊により暴走した作業用鎧人は破壊されました』

 現場から中継です、と映像がスタジオから街中へと切り替わる。サイレンが響く帝都の街、規制線の手前に男性アナウンサーが立ち状況を伝える。

『こちら、暴走した作業用鎧人が治安局特殊部隊によって破壊された現場の近くです。破壊時に鎧人は無人の状態であり、帝都治安局で暴走の原因を調査しているとのことです。また目撃者の証言によると―』

 男は規制線の先に小さく映る二人の男女の姿を確認した。すると口元に笑みを浮かべ

「そうだ、それでいい」

 一言呟き食事を再開した。


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