第1章「ギフテッド」14

 そうして五分もしないうちに目的の教会に着いた。

 教会というと神聖で厳かな建物をイメージするものだが、この目の前にある建物に限ってはそれに当てはまらない。神聖とか厳かな感じを抱く前に、まず他の感を抱くからだ。白かったはずの外壁は黒ずんでおり、所々亀裂が入っている。広場には落ち葉が散乱し、手入れが行き届いていないのは明らかだ。つまり、ボロい。

 初めて教会を訪れた裕輝にもこれが教会のスタンダードでないことはわかった。

「すごく……年季の入った建物ですね」

「古くて汚いだろ? 中にいる人間を象徴してるんだ」

 そう言って隼人はタバコを捨てる。そして、裕輝と向き合う。

「お前をここに連れてきたのは、中の人間と面識を持っておいた方がいいと思ったからだ」

「マスターみたいな協力者ですか?」

「協力者には違いないんだが、ジジイみたいに対価を支払えば誰にでも協力するわけじゃない。条件がある」

「条件、ですか」

「そうだ。条件は一つ。教会に敵対しない者、だ」

「教会に敵対……と言われても、僕は今まで宗教ときちんと関わったことなんて一度もありません。そもそも対立なんて生まれないと思うんですけど」

「今まではな。これからは嫌でも奴らと関わらなくちゃならなくなる。遠ざけていてもいつかは出会うことになる。お前が『ギフテッド』である限りな。だから、気をつけろ」

 裕輝は「わかりました」と言って頷く。

「それともう一つ。お前はこれから会う奴を絶対に怒らせちゃいけない。俺は嫌われてるからしょうがないとしても、お前は絶対に奴の反感を買うな。絶対に、だ」

 隼人がその真剣な顔をグイッと近づけてくるもんだから、裕輝は無言で何度も頷きながら身体を仰け反らした。

「よし。じゃあ、入るぞ」

 建て付けが悪いのか扉は手で押したくらいでは開かない。隼人は扉に身体を押し付けながら力ずくで押し開けた。

 中はいたってシンプルな造りだった。入り口から真っすぐに通路が伸びており、その先には大きな十字架やキリスト像が祀られている祭壇がある。通路の脇には木製の椅子が並んでいるが、そこに座っている者はいない。

 部屋を照らすのは壁に掛けられたいくつかのロウソクの灯火と窓から差し込む月明かりのみ。薄暗く教会という場所も相まって不気味な雰囲気がする。

 そんな中に一つの人影。祭壇の前に跪き、手を組んで俯く女性。頭には頭巾、胸にはロザリオ。その見た目から彼女が修道女なのは疑いようもない。

 彼女は教会に入ってきた二人の方を振り向くこともなく祈りの言葉を唱えている。

 隼人は「相変わらず陰気臭い場所だ」と呟くと、右手で幾度か指を鳴らして壁に掛けられている火の点いていないロウソク全てに火を灯した。おかげで幾分か明るくなった。

 祈りの言葉を口にしていた修道女はそれを止めて立ち上がり振り向いた。

「綺麗だ」と裕輝は思わず口にした。

 振り向いた修道女は道を行けば誰もが見惚れる容姿をしている。頭巾の下から覗かせるブロンドの髪も、目尻の下がった優しそうな垂れ目も、修道服の上からでもわかるハッキリとした女性的なシルエットも全てが調和して美しさを醸し出している。見るからに美しくて優しそうな修道女だ。彼女を聖母と呼んでも宗教観の薄い人間は納得するだろう。

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