第1章「ギフテッド」13
その後、項垂れている隼人を余所にマスターから裕輝に提案があった。この店でバイトをしないか、と。
「この店は中立地帯になっとる。ここに居れば悪魔に襲われることも、気性の荒い『ギフテッド』に絡まれることもない」
他でバイトもしておらず帰宅部な裕輝は蘭の後押しもあって、当分の間このバー「avaritia」で働くことを決めた。
そして、今日のところは解散、とはならなかった。
隼人が「もう一ヶ所行くところがある」と言って、裕輝にもついてくるよう指示した。蘭は「人と会う約束がある」と言って夜の街に消えていった。
裕輝と隼人、二人はバーを出る。
時刻は午後七時。日はとっぷりと暮れ、冬の夜空に星が瞬く。
冷たいビル風が吹きすさび、二人の歩調は自然と早くなる。
ポケットに手を突っ込み咥えタバコで前を行く隼人の背に裕輝は「どこに向かってるんですか?」と問いかける。
「教会だ」
「教会……ですか。こんな時間に何を?」
裕輝はそう言って「しまった」と思った。自分で考える前に質問してしまったからだ。しかし、隼人は寒さで問答が億劫だったのかそれを咎めず、すぐに答えを述べた。
「こいつを換金しに行く」
そう言ってボロボロの学ランの内ポケットから取り出したのは小さな鏡。男が動かなくなるきっかけとなった鏡だった。
「百聞は一見に如かず。絶対に落とすなよ」
裕輝は隼人からその鏡を受け取った。
「覗いてみろ」
裕輝は言われた通りに鏡を覗き込む。瞬間、息が止まり危うく鏡を落としそうになる。が、なんとか落とさずに済んだ。
鏡の中に異形の者が居た。それが何なのか、言われずとも理解できた。映画や漫画で描かれる通りの姿。頭と目が欠け落ちた顔。痩せこけて骨と皮だけの身体。それが四つん這いになって鏡の中からこちらを見ている。
(これが、悪魔。その姿か。滅茶苦茶気持ち悪いな)
裕輝は急いで鏡を隼人に返した。隼人はそれを受け取ると再び内ポケットにしまった。
「それを教会に持っていくと換金してもらえるんですか?」
「そうだ。悪魔を仕留めると、悪魔が取り憑いていた身体、そして悪魔の本体をそれぞれ換金できる。それを生業としてる俺みたいな『ギフテッド』が『賞金稼ぎ』と呼ばれてる」
「『ギフテッド』の多くは『賞金稼ぎ』なんですか?」
「いや、『ギフテッド』の中でも『賞金稼ぎ』は一部だ。何たって悪魔を生け捕りにしなくちゃならないからな。普通よりも手間がかかる」
裕輝はふむふむと頷く。隼人の戦い方及び事後処理は『賞金稼ぎ』と呼ばれる『ギフテッド』独特のものらしい。今のところ裕輝はお金の為に悪魔と戦うつもりは毛頭ない。というか、積極的に悪魔と関わるつもりは毛ほどもない。隼人のやり方を丸々真似るのはどうやら違うようだと裕輝は思った。
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