第1章「ギフテッド」10

「『自分の知り得る限りの未来を一瞬だけ知る才能。但し、自分の意思では発動できない』です!」

 沈黙が場を支配する。二秒、三秒……

 とうとう隼人が堪えきれずに吹き出した。つられて蘭も吹き出した。マスターは吹き出してこそいないが満面の笑みを浮かべている。

「な、な、なんじゃそりゃーーーーーーーーー‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」

 裕輝の絶叫が響き渡ると隼人と蘭は腹を抱えて笑い始めた。あまり感情を表に出すこともなさそうなマスターでさえも口を開けて笑っている。

「僕の『才能ギフト』の説明、長すぎませんか⁉︎ ってか、自分の意思では発動できないって……」

「こんなにピーキーな性能をした『才能ギフト』は初めて聞いたぞ。どんだけ変わった天使に祝福されたんだ」

「私も今まで色んな人の『才能ギフト』を見てきたけど、自分の意思では発動できない『才能ギフト』なんて初めてだよ」

 二人は笑いながら裕輝の『才能ギフト』を評する。

 たまったものではないのは裕輝だ。これからずっとこんな使いにくそうな、いや、そもそも自分の意思では使えない『才能ギフト』と共に生きていかねばならないのだから。間違いなくハズレくじ。おみくじで言えば間違いなく大凶の『才能ギフト』だろう。裕輝はがっくりと肩を落とした。

 その後、一頻り笑った隼人は手を顎に当てて渋い顔で「難儀だな」と呟いた。その言葉にマスターも頷く。蘭は「何が?」と首を傾げて隼人に問う。

「自分で『才能ギフト』を使えないんじゃ、能動的にこの戦いから解放されることもできないだろうが」

 蘭はハッとした顔をして口元に手を当てた。裕輝は怪訝な顔をして「どういうことですか?」と尋ねる。

「まだ説明してなかったが、『才能ギフト』にはもう一つ大事な決まりがある」

「決まり?」

「個々人によって違うが、『才能ギフト』には使用可能な回数が予め決まっている。その回数を使い切ると天使の加護は消え去り『才能ギフト』も消える」

「『才能ギフト』が消え去った時、人は悪魔との戦いから解放される。それが『ギフテッド』が悪魔と戦う大きな理由の一つになっとるんじゃが」

「裕輝くんは自分の意思で『才能ギフト』を使えない。それは、つまり……」

「自分の意思で戦いから解放されることはできない。そういうことですか?」

 蘭は無言で頷く。裕輝は天を仰いだ。なんということだろう。天使の勝手で巻き込まれながら、裕輝には自分でそれを終わらせる自由さえないのだから。あまりにも理不尽だ。

 蘭が慌てて「『才能ギフト』ってごく希に変化することもあるから」とフォローを入れるが、裕輝の耳には届かない。

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