第1章「ギフテッド」6

 しばらくして店の奥からマスターが戻ってきた。何やらチェーンに繋がれた指輪を手に持ちながら。

「こんにちは、マスター!」

 蘭が笑顔でマスターに挨拶をする。

「早かったの。何か飲むか?」

「じゃあ、いつもの」

 マスターは持っていた指輪を裕輝の前に置いた。そして、蘭の前にはシェイクして作ったウォッカマティーニを注いだグラスを置く。蘭はグラスを手に取るとそれをぐいっと飲む。隼人は隣でしかめっ面をしながらそれを眺める。

「お子ちゃまじゃ、様になんねぇなぁ」

「うるさーい! 好きなんだからいいじゃん!」

 隼人は何も言わずにグラスを傾ける。確かに隼人がグラスを傾ける様は絵になるし、蘭がグラスを傾ける様は不安を掻き立てられる。もっとも隼人も着ている学ランのせいで格好よさは半減だが。裕輝もいつか隼人のように絵になるグラスの傾け方をしたいものだと思いながらコーラを煽った。

 三人のグラスが空になったところでマスターは裕輝の前に置いた指輪を手に取った。そして指輪に繋がれたチェーンを広げて裕輝の首にかける。裕輝は首に下がったそれを手に取る。銀色の指輪。所々錆びついている。とても値打ちものには見えなかった。

「しばらくそれを肌身離さず持つことじゃ」

「これを、ですか?」

 マスターは頷く。

「『悪魔の遺物』か。『光』が完全に消されてる」

 隼人は裕輝の持つ指輪を横から覗き込む。

「これはそんなに大事なものなんですか?」

「今のお前にとってはな。それを持っているかいないかでお前の寿命が変わってくる」

 裕輝は指輪を見ながら決して手放さないことを胸に誓った。

「じゃあ、講義の続きといくか」

「講義って?」

 蘭が不思議そうに隼人を見つめる。

「コイツ、何も知らないらしい」

 隼人は裕輝を指差す。

「それって、おかしくなーい?」

「俺もそう思う。だが、本当に何も知らないらしい。どうやら主が如何に尊い存在か、悪魔が如何に卑しい存在かを説く、神父様も逃げ出したくなるようなあの長い説法を聞いていないみたいだ」

「じゃ、この子自分がどの天使から『才能ギフト』を授かったのかも知らないの?」

「そうなるな。なにせ今からするのは『光』についての説明だ。それ以前の問題」

「わーお。ビギナー以下じゃん。パンピーと変わらないよ、それ」

 講義を始めると言っておきながら一向に始まらない気配を感じた裕輝はわざとらしく咳払いをした。それに理不尽に自分の無知を責められている気がしてあまりいい気分ではない。早く説明をしてもらいたいのだ。

「そうだった、『光』についてだったな。蘭、お前が余計な横槍入れるから」

「関係者になる私に事前の説明をしない隼人が悪いんじゃん」

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