第1章「ギフテッド」2

「それでは、裕輝君。不躾で申し訳ないが、一つ尋ねても良いかの?」

 裕輝はどんな質問をされるのか不安に思いながらも「はい」と答えた。

「君から無遠慮に放たれておるその『光』は一体どういうことかの。何か意図があるなら説明してもらいたいんじゃが」

 裕輝は黙った。何しろ何を尋ねられているのか理解できなかったからだ。そんな裕輝に隼人が助け舟を出した。

「ジジイ、こいつ本当に何も知らないようだ」

「ほう。何も知らない、というのは余程変だのう」

「ああ。何も知らい、ってのはおかしい。よっぽど怠慢な天使に祝福されたんだろうか」

「怠慢は悪魔の専売特許と思っておったが、どうやら違うようじゃの。今時の天使にも随分と見込みのある者がおるらしい」

「見込みがあるからって、堕ちてくる手助けなんてしないよな」

「悪魔の手を借りるには対価が必要不可欠。堕天の手助けに見合う対価があるとは思えん。それにわしは中立だしのう」

「中立、か。アンタの中立ってのはどちらにも加担するってことだろう。心配だ」

「そんなあり得もしない話より、今は彼の話が先じゃろう。先の話が確かなら、このままでは彼の命は風前の灯じゃ」

 裕輝は二人の邪魔をしないように会話を聞き流していたのだが、遂にそうはいかなくなくなった。自分の命が吹けば消し飛ぶようなものだと言われてしまっては。

「待ってください。どういうことですか。僕が死ぬってことですか?」

 マスターは頷いて「遠からず」と答えた。隼人が「このままだとな」と付け加える。

「一切合切、説明してもらえませんか?」

 裕輝がそう言うと隼人とマスターは互いに目配せした。そしてマスターはカウンターの上にグラスを二つ置く。お酒を頼めということかと思った裕輝は「僕、未成年なんでお酒は」と手を振りながらそれを断った。

「酒が駄目ならコーラでも入れてやろうかの」

「お願いします」

 裕輝はマスターに頭を下げた。しかし、マスターは微動だにしない。裕輝が不思議に思って首を傾げると、

「前払いなんだよ」

 と、言って隼人がニヤリと笑った。

「そうか。こういう場所に来るの初めてで知りませんでした」

 裕輝はリュックから財布を取り出してお札を抜き取ろうとしたその時、先程隼人がマスターに言われてグラスに抜き取ったお札を突っ込んでいる光景が思い出された。裕輝はそうかと合点がいった。

(これも手数料ってことか。でも、こういう時いくらくらい払うもんなんだろう)

 裕輝は試しに一万円札を一枚グラスに入れてみる。それを黙って見守る隼人とマスター。

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