序章「ボーイ・ミーツ・ボーイ」3
爆発の衝撃と驚愕で裕輝は尻餅をついた。
男の悲鳴が辺りに響き渡る。声にならない呻き声を漏らしながら両手で顔を押さえてうずくまっている。
「おいおい、どんな大物がドンパチやってるのかと思えば、なんてことはない。ただの小物じゃねぇか」
裕輝は後ろから聞こえる声に思わず振り向いた。
そこにはボロボロのニット帽を被り、ボロボロの学ランを羽織って、ボロボロのサンダルと穴の空いた靴下を履いて、咥えタバコでこちらに歩いてくる青年の姿があった。彼は左手で指を鳴らしながら徐々に裕輝たちの元へと近づいてくる。途中、男が捨てた巨大化した鍵を蹴飛ばして「痛えっ!」と叫んで涙目になりながら向かってくる。
そして、とうとう二人の元へたどり着いた青年はうずくまっている男を見下ろして薄笑いを浮かべた。
「まあ、小遣い稼ぎには丁度いいか」
「お前、『賞金稼ぎ』か」
そう言って男は立ち上がろうとするのだが、
「まだ立ち上がれんのか。流石に悪魔は頑丈だな」
正体不明の青年が指をパチンと鳴らす。すると男の身体は先程よりも大きな爆炎に包まれた。
「うわぁぁぁ!」
あまりの爆発の威力に裕輝は思わず声を上げながら顔を伏せて、凄まじい爆風から身を守る。顔を伏せていたため裕輝は気がつかなかったが、爆発の際男の元から爆風とともに空高く舞い上げられたものがあった。青年はその小さく光り輝くものに目をやった。
「何だ? 鍵か?」
青年のその言葉を聞いて裕輝はハッとした。フラッシュバックしてきたのは先程男が見せた不思議な光景。鍵を小さくしたり、大きくしたりしてみせたソレだ。そして裕輝は今朝から続く奇妙な感覚に襲われる。脳裏に浮かんだのは空高く舞い上がった鍵が裕輝と青年の頭上で巨大化する画だ。
裕輝は咄嗟に顔を上げて叫んだ。
「それ、大きくなります!」
裕輝が言い終わると同時に宙にあった鍵が巨大化し、確かな質量を持って二人の頭上に迫ってきた。
青年は舌打ちすると裕輝の首根っこを掴んでその場を即座に離れる。二人のいた場所に巨大化した鍵が轟音を轟かせて落ちてきた。
青年は裕輝を投げ捨てると、爆炎に身を焦がされながら尚も立ち上がる男と対峙した。
事態が急変を見せる中、確かに一つだけ裕輝にもわかることがある。突然現れたこの青年は男と敵対している。彼の思惑がどうであれ裕輝の窮地を救ってくれた。つまり、この青年は裕輝にとって唯一の頼みの綱であり、救世主だ。
裕輝はむせながら青年の背を見る。180センチはありそうなその大きな身体は裕輝を外敵から守る城壁のように感じられた。
「無駄な足掻きしやがって」
咥えていたタバコを吐き捨てた青年の前で、男は手に持つ鍵を木刀ほどの大きさに変化させた。男はそれを振りかぶって青年の元へ走り寄る。
青年は左手で二回指を鳴らすと、続けて同じように右手で指を二回鳴らした。すると今度は男の足元と眼前で小規模な爆発が起こった。小規模と言っても先の二回と比べればではあるが。男はバランスを崩して走る勢いそのままに地面に突っ伏した。青年は男が手に持つ鍵を足の裏で蹴飛ばしてその背に馬乗りになった。
「詰みだ」
最早起き上がる気力もないのか、男はうつ伏したまま動かない。
死んでしまったのだろうかという裕輝の心配を余所に、青年は学ランの内ポケットから小さな鏡を取り出す。それを男の顔に近づけると死んだのかと思われた男が激しく暴れ始めた。
「ヤメロ! ヤメロ!」
男は今までとは違うしゃがれた、この世のものとは思えない声で叫び始めた。
「大人しくしてろ」
青年は男の顔を左膝で地面に押し付けながら左手で男の目を剥いた。そして右手に持った小さな鏡を男の眼球に触れるか触れないかギリギリのところまで近づける。
「地獄で悔い改めろ」
青年が「アーメン」と呟くと男は一際大きな叫び声を上げた後、プツリと糸が切れたように動かなくなった。
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