エピローグ

 今日もまた、俺は呼び出された。


 言うまでもない。犯人はあいつなのだが、今日は姿が全く見えない。


 諦めて戻ろうとしたとき、不意に声が聞こえた。


「どこへ行くの?」


 自分で呼び出しておいて姿も見せずにどこに行くもクソもないと思うのだが。


 間違いない。俺をここに呼んだあいつだ。


「用が無いなら呼ぶな」


「呼んでおいてそんなわけないじゃない」


 …随分と今日は言い回しが悪役っぽいな。


 まぁ、気まぐれだ。今回くらいこいつのテンションに合わせてみるか。


「今こそ私を受け入れて、私の望みを叶えて」


「…」


 俺は黙って、首を横に振った。


「何度やっても無駄だ。俺はお前を、受け入れたりはしない」


「あはははっ!私とあなたの繋がりは、ほかの人のそれよりも強いのよ?それを受け入れないなら、あなたを受け入れてくれる人なんて誰もいないわ」


 何だ今の笑い方。こいつ悪役ちょっと似合うな。


「知ったことか。それでも俺は構わない」


「……っ」


 あ、ちょっと泣きそうな顔した。


「そんなこと言って、誰かに話を聞いてもらわなければ立ち直ることもできない弱い人は誰だったかな?」


「…うるさい」


 そろそろ飽きたしなんか今カチンときたからこの茶番もやめにするか。


 帰ろう。


「大体、私はあなたの…、ってちょっと!?まだ話し終わってないのにどこ行くの!?」


「飽きた。話長いし帰る」


「ちょっとは話合わせてくれたじゃない!」


「それも含めて飽きた。…あ、でもお前悪役少し似合ってたぞ」


「え、ほんと?それは嬉しい…じゃなくって!」


 とうとう完全にキャラを崩したこころが俺に詰め寄る。


「お兄ちゃん、ここからが本番なんだよ!?」


「冷静になれこころ。お前は今何がしたいんだ?」


「告白」


「それはどういう意味の話だ?」


「ん~?…愛を伝える?」


「逆に考えてみ。あんな悪役めいたキャラで愛を伝えられてお前受け入れる?」


「…微妙」


「そこは否定してほしかったがつまりそういうことだ。残念だったな」


「む~…面白いやり方だと思ったのに~」


「ネタに走ってどうするんだよ…」


 一しきり今日の告白の感想を言い終えたところで俺はいつものようにこころに手を差し出した。


「ほら、帰るぞ」


「うん!」


 今日も、そして多分これからも。


 俺はこうして、手のかかる妹とのやりとりを楽しみながら毎日を過ごすのだろう。

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心のままに、翔び上がれ タクト @takutoallfiction

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