第5話 聞くまでもないけど

「むー、何で今日のはダメだったのー?」


 放課後。


 こころの告白をいなした俺は、いつも通りにこころと手を繋ぎながら下校していた。


「だってお前あれはなぁ…」


「うーん…。お兄ちゃんに強引系はNGかぁ」


「お前試したパターン何個か忘れてるだろ。最近何個か見たことあるパターンあるぞ」


「えっ!?どれ!?」


「さてな」


「もー、お兄ちゃんの意地悪ー」


「意地悪で結構」


「ちぇー」


 こころはツーンとそっぽを向く。


 …当然のように繋いだ手を離すことなく。


「あそうだ、お兄ちゃん。聞くまでもないけど一応聞くね。明日って暇かな?」


「それは俺に対する挑発と受け取ってもいいのか?」


「でも暇でしょ?」


「…まぁ、暇だけど」


「じゃ、私とデートしよ?」


「…いいけど、俺今そんなに金持ってないぞ?」


「大丈夫大丈夫。お兄ちゃんに負担はかけないよ。何だったら私が費用は全部出してあげるけど?」


「え、何?俺をダメにして何が楽しいの?」


「えー?好きな人ならそうしてあげたくなるのは普通じゃない?」


「その普通はよくわからんが…。そういうことは言うもんじゃないぞ」


「あはは…冗談だよ。ごめんね?」


「まぁいいけど。デートね、了解。どこに行くんだ?」


「これから考える!」


「それでいいのかよ…」


 ***


「あのさこころ」


「なぁにお兄ちゃん?」


「確か俺たちは今日デートする予定だったな」


「うん。晴れてよかったね」


「俺達、なんで秋葉原にいるんだ…?」


「気になってるカフェのイベント期間が迫っててさ、せっかくだしいいかなって」


「…そうか」


 というわけで、こころがデートの舞台に選んだのは秋葉原だった。


 確かに俺もアニメは見るしゲームもするけど、俗にいうオタクではないと自負している。


 それはこころも同じはずだが…。


「あとね、私考えたの。正攻法で攻めてもダメなら搦め手ならどうかなって」


「何の話だ…」


「告白だよ!…でね、お兄ちゃんをキュンキュンさせるような衣装…じゃなくて服があればお兄ちゃんも私を彼女にしてくれるかなって」


「衣装とかいうな。コスプレじゃあるまいし」


「やだなー、私コスプレは趣味じゃないよ。第一アニメとかゲームのキャラクターに成りきるのはともかく、見知らぬ人に写真撮られることの何が楽しいの?」


「いや俺も知らんけど…。お前は一回全国のコスプレイヤーに謝った方がよさそうだな」


「大丈夫だよ、どうせ誰も聞いてないし」


「それもそうか…。ってなぜ俺は納得してしまったんだ…?」


「まぁまぁお兄ちゃん、せっかくのデートだよ?一緒に手繋いでいこ?楽しまなきゃ」


「それはわかるが、手は毎日のように繋いでると思うぞ?」


「いいから、ほら。いこ?」


「はいはい」


 こうしてこの日、俺とこころのデートは幕を開けたのだった。

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