第16話 エピローグ
――同時刻、ヨーロッパ某国
「参謀長、間違いありません」
「原子力潜水艦が採取した音紋解析の結果から、魚雷は確実に第七艦隊の空母に命中しております。また、示威行動としてわざと信管を外していたのか、それとも不発であったのかは不明であります」
「その後の諜報筋からの情報によりますと、魚雷自体は圧搾空気のみを利用した新型の無音魚雷である事が判明しております」
「無音魚雷?」
「はい、動力源を全く保有せず、ノイズを発生しない為、迎撃用のアスロック対潜ミサイルでは迎撃する事が出来ないとの事」
「だが話によると、現行の高速魚雷とほぼ同等の三十ノットは出ていたと聞いたが」
「はっ。どうやら、海底深く沈められた魚雷を含むユニットに対し、圧搾空気を充填する事で、浮力のみで上昇させると言う単純な原理だと考えられます」
「また、今回この発射管ユニット自体は米軍により既に回収されている模様ですが、分析班の見解ですと、元々地雷の様に海底深くに埋没させる事により、実践配備された場合、発見する事はほぼ不可能であるとの事でした」
「まさに海底地雷、
「はっ、恐らく、国内事情により原子力潜水艦を保有できないが為の苦肉の策かと思われます。国土全域を海で囲まれているという、島国特有の地理的条件もあり、海底地雷は国防の要になると踏んだのでしょう。しかも、原子力潜水艦を維持するよりも、遥かに安価です」
「
「はっ、あの日以降、当海域での各国の原子力潜水艦運用は、ほぼ途絶えている模様です。それはそうでしょう。虎の子の原子力潜水艦を、たった一発の埋設魚雷で失う訳には行きますまい」
「しかも、それは隠密裏に実行され、決して表沙汰になる事は無い……か」
「それにしても、恐ろしい兵器を開発したものですなぁ」
「うぅぅむ」
「ホットラインを繋いでくれ。場合によっては共同開発として声明を発表する事で、わが国にも何台か譲ってもらわねばならんかもしれん」
「はっ、承知致しました」
◆◇◆◇◆◇
――更に同時刻、中東方面某国
「ハハハハ、愉快だな。帝政国家に一泡吹かせるとは。あの国も捨てたものでは無いな」
「皇太子殿下、笑い事ではございませんぞ。現在建造を依頼しております原子力潜水艦の運用に、大きく影響を与える可能性がございます」
「ハハ、何を今さら。兵器などと言うものは、常に進化して行くものだ。良いではないか、新しい発想、新しい兵器。それらを上手く活用する事こそが、我々の本分だ」
「これはこれはっ、その通りにございます。殿下のご慧眼、感服仕りました」
「ふむ。しかしだ、一つ教えてくれ。その魚雷は、いったいどうやって空母にたどり着いたのだ? 魚雷自体はピンを打たず無音。しかも、
「流石、皇太子殿下。兵器についても大変お詳しい。私も先程軍関係者に確認しました所、どうやら魚雷を発射する前に、空母の位置を確認する為のセンサー魚雷が打ち出されていた由にございます」
「センサー魚雷とな?」
「はっ、どうやら先に海面に達したセンサー魚雷が空母、及び周辺に存在する艦船の位置や、速度をカメラで捉え、それをピンを模した音波信号として、魚雷の方へ送信していた模様です。その為、敵空母を追跡する為の複雑な機構などは魚雷側に搭載されず、つねにパッシブ形式で位置情報を入手する事で、正確に空母への誘導が行われたと考えられます。また、このセンサー魚雷は三本確認されておりまして、相互に情報をやりとりする事で、誤差の補正を行うだけでなく、仮に破壊された場合の相互バックアップ機能までをも有していたと考えられるとの事」
「ほほぉ、相互バックアップ監視までをもか」
「はっ、かなり高度なソフトウェア技術が用いられたものと推測致します」
「そうだな。これからはハードウェアの時代では無い。確かに無音魚雷に興味はあるが、そんなものは、
「畏まりまして御座います」
◆◇◆◇◆◇
――更に、更に同時刻、東アジアの一角にて
「将軍閣下」
「どうだった? 例の件は何かわかったか?」
「はい。当時小学生だった少年のレポートを発見しました」
「当時小学生!?」
「あの兵器を子供が造ったと言うのか?」
「はっ。間違いありません」
「それでは、現在
「はっ、現在は私立大学に通っている模様です。残念ながら平和ボケした某国では、この発明の先進性が理解されていない様に思われます」
「何と言う事だ。即時彼を確保し、わが国の研究施設に来て頂かなくてはなるまい」
「承知致しましました」
「あぁ、分かっているだろうが……」
「はっ」
「手段は選ぶな」
「御意に……」
僕の夏休み!自由研究「米第七艦隊に単独で挑む方法!」 神谷将人 @Kamiyamasahito
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